第10話 反撃の序章
USBメモリに記録された内容が捜査本部内で解析され始めた頃、芹沢孝次郎は会議室の一角で、資料と向き合いながら深く考え込んでいた。その背後で斉藤康隆が入室し、コーヒーのカップを彼の前に置く。
「少しは休め。お前がここに来てから、ずっと働き詰めだ。」
芹沢は軽く笑みを浮かべ、斉藤に目を向けた。
「ありがとう。でも、こういうときこそ頭を働かせないといけないんです。このUSBメモリと計画書には、単なる犯罪の記録以上のものが隠されています。」
斉藤は椅子に腰を下ろしながら、芹沢の言葉に興味を示した。
「単なる犯罪以上……どういうことだ?」
芹沢は資料の一部を指差した。
「例えばこの部分。これは土地の買収リストですが、異常に低価格で取引されていることが分かります。そして、これに関わった名前の中に、大山家とつながりがないと思われる第三者の名前がいくつも挙がっています。」
「第三者……?」
「ええ。この計画書は、単なる汚職事件ではなく、より広範囲にわたる影響力を示しています。つまり、大山家は地元政治だけではなく、中央政界や大手企業にも根を張っている可能性が高い。」
斉藤は黙り込んだまま資料を見つめた。この計画書が暴露されれば、単なる地方のスキャンダルでは終わらない――日本全体を揺るがす事態になるだろう。
そのとき、会議室の扉がノックされ、若い刑事が緊張した様子で入ってきた。
「斉藤警部補、緊急の報告があります。」
「どうした?」
「本部の外で怪しい車両が複数目撃されています。明らかに監視目的で停まっているようです。」
斉藤は眉をひそめ、即座に立ち上がった。
「大山家の連中か?」
「可能性は高いです。それからもう一つ、内部のシステムに不正アクセスの痕跡が見つかりました。USBメモリの内容を盗み出そうとしていた形跡があります。」
芹沢がその言葉に反応し、立ち上がった。
「USBメモリの内容が漏洩すれば、大山家は先手を打つために情報を歪めるでしょう。我々が証拠として使う前に無効化するつもりです。」
斉藤は険しい表情で周囲を見回し、声を張り上げた。
「本部全体を警戒態勢に移行しろ! ITチームには全システムの保護を優先させろ。そして……USBメモリはここから移動する。」
斉藤と芹沢は、USBメモリを密かに安全な場所へ移送する計画を立てた。その任務を託されたのは、若手刑事の一人であり、捜査本部内でも最も信頼のおける人物だった。
「彼なら確実に届けてくれる。」
斉藤はそう言いながら、USBメモリを手渡した。しかしその瞬間、芹沢が口を挟む。
「計画の一部は隠しておきましょう。」
「隠す?」
「ええ。大山家はおそらく、情報を奪うために手段を選ばないでしょう。彼らが追うのはこのUSBメモリです。しかし、もっと重要な情報を我々の手元に残しておくべきです。」
芹沢は手早くUSBメモリのコピーを作成し、オリジナルを若手刑事に渡した。
「これで彼らの目を欺くことができるかもしれません。」
斉藤は深く頷き、部下に指示を出した。
「いいか、どんなことがあってもこれを守り抜け。」
若手刑事は緊張した面持ちで頷き、車に乗り込んで本部を離れた。
夜が更ける中、斉藤と芹沢は残されたコピーを分析し続けていた。しかし、静寂を破るように本部の外で何かが爆発する音が響いた。
「何だ……?」
斉藤が窓の外を見ると、本部の駐車場で一台の車が炎に包まれている。その瞬間、無線が一斉に鳴り響いた。
「本部外周で不審者の活動を確認! すぐに応援を!」
斉藤は拳銃を取り出し、芹沢に言った。
「ここに残れ。お前に危険が及ぶわけにはいかない。」
芹沢は微笑みながら答えた。
「ご心配なく。こういう状況には慣れています。」
斉藤は廊下を駆け抜け、現場へ向かった。その一方で、芹沢は部屋に戻り、計画書のコピーをさらに分析し続けていた。
「ここにある真実が、どれほどの力を持つのか……それを試されているのかもしれませんね。」
駐車場では黒服の男たちが武器を構えており、捜査員たちと一触即発の状態になっていた。斉藤はその中心に立ち、声を張り上げた。
「何者だ! ここで何をしている!」
黒服の一人が冷たい声で応えた。
「お前たちが持っているものを渡せ。それが望みだ。」
「渡すわけがないだろう。」
男たちは一斉に動き出し、斉藤たちの元へ迫ってきた。激しい応戦が始まる中、斉藤の頭には一つの思いが浮かんでいた。
「これが奴らの本気か……だが、この証拠を守り抜く。それが正義を追う者の責任だ。」
銃声が響き渡る夜、戦いはさらに激化していく。計画書の存在が持つ力は、正義と悪の境界を越えて広がり始めた。
次回予告
圧倒的な力で迫る大山家の影。その背後に隠されたさらなる真実とは? 証拠を守るために戦い続ける斉藤と芹沢が直面する、新たな局面が幕を開ける――。
次回、「決意と代償」――正義を貫く覚悟が試されるとき。
読者へのメッセージ
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!
物語はついにクライマックスに向けて動き出しました。紗英が託した真実を守り抜くため、斉藤と芹沢の戦いはさらに過酷になります。次回もどうぞお楽しみに! コメントやご感想をお待ちしています!
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