第20話 真実の代償
車内は、静寂と緊張が入り混じっていた。芹沢と斉藤は、村上の別荘から持ち出したファイルをテーブルの上に広げて確認していた。そこには、再開発計画に関する資金の流れが細かく記されている。政治家の名前、大手企業のロゴ、そして隠蔽された土地の取引記録――全てが揃っていた。
「これで揺るぎない証拠が揃ったな。」
斉藤はファイルをめくりながら低く呟いた。
「だが、ここまで来たら奴らも黙っていないだろう。この証拠をどうやって世間に公表するか、それが問題だ。」
芹沢は資料を読み進めながら、静かに考え込んでいた。
「彼らの動きが早いのは確かです。今、この瞬間にも私たちを追い詰める準備をしているでしょう。」
斉藤が眉をひそめる。
「つまり、時間との勝負か。」
芹沢は頷き、バッグからもう一つの資料を取り出した。それは川村紗英の失踪に関する情報が記されたメモだった。
「これも含めて公にする必要があります。彼女の失踪事件が、この計画の暗部と繋がっている以上、全ての真実を明らかにしなければなりません。」
斉藤は拳を握りしめながら言った。
「だが、具体的にどう動く? メディアを通じて情報を流すのか? それとも捜査本部に戻るべきか?」
その時、車の後方から不穏なエンジン音が聞こえてきた。斉藤がバックミラーを覗き込むと、黒いSUVが二台、こちらに向かって猛スピードで迫ってくるのが見えた。
「来たか……!」
斉藤がアクセルを踏み込むと、芹沢は後部座席に資料を押し込み、何かを考え始めた。
「彼らの目的は私たちを止めることではなく、この証拠を奪うことです。」
「わかってる。だが、奴らの数が多すぎるぞ。」
芹沢は一瞬考え込み、冷静な声で言った。
「彼らを一箇所に誘導しましょう。そして、そこに警察の応援を呼びます。」
「応援を呼ぶ? この状況でどうやって?」
斉藤が疑問を口にするが、芹沢はバッグから小型の発信機を取り出した。
「これは、私が捜査本部に渡した追跡装置です。この信号を送れば、警察に現在地が共有される仕組みになっています。」
斉藤は驚きながらもすぐに理解した。
「そんなものを仕込んでいたのか……よし、やってみよう。」
芹沢の指示で、斉藤は車を山間部の廃工場へと向かわせた。その場所は複雑な地形が広がっており、追手を分散させるのに適していた。
「ここで時間を稼ぎます。」
廃工場に到着すると、斉藤は車を停め、拳銃を手に黒服たちの動きを見守った。一方、芹沢は建物内に入り、資料を守るための隠し場所を探し始めた。
黒服たちのSUVが到着し、男たちが車から次々と降りてくる。
「奴らを取り囲め! 証拠を確保しろ!」
リーダー格の男が叫び、工場内に部下を配置し始めた。斉藤は建物の入り口付近に身を潜め、拳銃で敵の進行を阻止する。
「芹沢! どれだけ時間が必要だ?」
芹沢の声が建物の奥から返ってくる。
「あと5分です! それまで持ちこたえてください!」
斉藤は歯を食いしばりながら銃を撃ち、敵の動きを抑え続けた。
一方、芹沢は資料を安全な場所に隠し終えると、建物内に仕掛けた小型スピーカーを操作し始めた。それは、敵に心理的な混乱を引き起こすための仕掛けだった。
「こちら内部の者だ。証拠は別の場所に移動した。指示を仰げ。」
スピーカーから流れる音声が、黒服たちの間に動揺を広げた。
「内部の者……? 誰がそんなことを……?」
「証拠が別の場所にあるだと?」
敵の連携が一瞬崩れ、斉藤がその隙を見逃さずに反撃を開始する。
「いいぞ、芹沢!」
その時、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。芹沢が送った信号を受けた捜査本部の警察車両が現場に到着したのだ。
「お前ら、武器を捨てろ!」
警察が建物を包囲し、黒服たちは次々と拘束されていった。斉藤は安堵の表情を浮かべながら、芹沢の元へ向かった。
「やったな。警察が来たことで、奴らの動きは完全に封じられた。」
芹沢は静かに頷きながら、資料が無事であることを確認した。
「これで、私たちの持つ証拠を世間に届ける準備が整いました。」
全てが終わったかに見えたが、芹沢の表情には緊張が残っていた。
「村上修一と大山重信の動きが完全に止まったわけではありません。彼らはまだ逃げ切るための最後の手段を講じるでしょう。」
斉藤は芹沢の肩を叩き、力強く言った。
「だが、これで奴らの牙は折れた。この証拠を世間に公表すれば、もう奴らに逃げ場はない。」
芹沢は小さく微笑み、資料をしっかりと抱えた。
「次は最後の一押しですね。真実を守るために、もう一度戦いましょう。」
次回予告
大山家との最終決戦が迫る。芹沢と斉藤は証拠を世間に届けるため、最後の行動に出る――。
次回、「正義の裁き」――すべてを終わらせる瞬間が訪れる。
読者へのメッセージ
ついに物語はクライマックスへ突入! 芹沢と斉藤の活躍が真実を明らかにする鍵となります。最後の戦いをお楽しみに! コメントや感想をお待ちしております。
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