第13話 真実の取引

斉藤康隆が黒服の男たちと激闘を繰り広げている最中、芹沢孝次郎は若手刑事の運転する車内で、息を潜めながら膨大な資料を改めて確認していた。彼の指先は震え、胸の鼓動が高鳴る。


「この資料があれば……彼らの全てを暴くことができる。」


芹沢は呟きながら、バッグからUSBメモリを取り出した。それを若手刑事に見せながら言う。


「これを確実に安全な場所に届けないといけません。だが、届けるだけではダメだ。」


若手刑事が運転席から振り返った。


「どういう意味ですか?」


芹沢は鋭い目つきで彼を見つめた。


「これが表に出れば、大山家だけではなく、中央政界や大企業までもが揺るがされることになる。しかし、それを裏付けるさらなる証拠が必要だ。紗英さんが残したのは『きっかけ』に過ぎない。」


刑事はハンドルを握り直しながら言った。


「じゃあ、次にどう動きます?」


「まずは安全な場所に資料を保管し、その後……」


芹沢が言葉を続けようとしたそのとき、車の後方から不穏なエンジン音が近づいてきた。


「ついてきています……!」


若手刑事がバックミラーを確認し、焦りの声を上げた。後方には黒いSUVが二台、猛スピードで迫っている。運転席に座る男たちは無線で何かを指示し合いながら、芹沢たちの車を追い詰めようとしていた。


「避けきれるか?」


芹沢が冷静に尋ねると、刑事は苦笑いを浮かべた。


「正直、ギリギリです。ですが、逃げるよりも――」


刑事は急ハンドルを切り、車を脇道へと滑り込ませた。


「――奴らを攪乱します!」


芹沢はその言葉に驚きながらも、刑事の判断力に期待を寄せた。


「なるほど、賭けに出るわけですね。ならば、私もお手伝いします。」


彼は助手席のバッグを開け、中に隠していたもう一つのメモリを取り出した。それはコピーされたデータではなく、紗英が残したオリジナルデータだった。


「これを囮に使いましょう。」


刑事は一瞬戸惑いながらも頷いた。


「わかりました。ただ、リスクが高いですよ。」


「リスクを取らなければ、真実にはたどり着けません。」


刑事は再び急カーブを切り、山道の側道に車を止めた。芹沢はオリジナルのUSBメモリを地面に落とし、目立つように赤い布で包んだ。


「これで奴らの目は完全にここに向きます。急いで反対方向へ戻りましょう。」


刑事は車を再び動かし、闇に溶け込むように道を進み始めた。その後方では、SUVが側道に停まった芹沢たちの車を発見し、一斉に降車して周囲を探し始めていた。


「急げ……気づかれる前にここを離れるんだ。」


芹沢の静かな声が車内に響く。


激しい追跡を振り切り、芹沢たちは捜査本部へと戻った。駐車場に車を停めると、芹沢はバッグを肩にかけ、刑事とともに建物の中へと足を踏み入れた。


「無事に戻れたな。」


ロビーで待っていたのは、増援として派遣された別の捜査員たちだった。彼らが芹沢の持つ資料を慎重に受け取り、専用の保管室へと運び込む。


「これで一安心……とまではいきませんが、少なくとも敵の手には渡りません。」


芹沢は安堵の息をつきながらも、背後に忍び寄る緊張感を忘れることはなかった。


そのとき、無線が捜査本部内に響き渡った。


「こちら斉藤! 応援を要請する! 現場での戦闘が続いている! 黒服の一部が引き上げたが、まだ敵がいる!」


芹沢はその声に反応し、すぐに無線を手に取った。


「斉藤さん、大丈夫ですか?」


「なんとか持ちこたえている。だが、奴らの狙いが分からない……資料の一部を見つけたようだが、それだけでは奴らの動きが止まらない。」


芹沢の胸に、不安が広がる。


「何か裏がある……この追跡劇には、私たちが見えていない真実が隠されているかもしれません。」


「わかった。だが、俺はまだ戻れない。ここで時間を稼ぐ。お前は本部で次の行動を考えてくれ。」


無線が途切れると、芹沢は厳しい表情を浮かべ、目の前の状況を整理し始めた。


捜査本部内で資料を分析していたチームが、新たな情報を発見する。


「これを見てください……再開発計画には、もう一つのリストが存在します。これには関係者だけでなく、『犠牲者』としてマークされた人物の名前が記されています。」


「犠牲者?」


芹沢がそのリストに目を通すと、そこには10年前に失踪した川村紗英の名前が含まれていた。そして、彼女の名前の隣には「処分済み」と記されている。


「紗英さんは……ただの目撃者ではなかった。彼女の存在そのものが、計画にとって脅威だったんだ。」


さらにページをめくると、現在進行中の再開発に反対する地元住民の名前もリストに含まれていた。


「彼らを排除する計画が進んでいる……。」


芹沢は息を呑み、拳を握りしめた。


「この資料が公になれば、次の犠牲者を救えるかもしれない。だが、それにはすべてを暴露する勇気が必要だ。」


次回予告


追い詰められた斉藤と芹沢が直面するさらなる真実。それは、紗英の失踪だけでなく、未来の犠牲者にまで及ぶ壮大な陰謀だった――。

次回、「真実の矛先」――全てのピースが揃う瞬間、正義が選ぶ道とは何か。


読者へのメッセージ


今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます!

真実の欠片が少しずつ明らかになる中、紗英の失踪の裏に隠された大規模な陰謀が浮かび上がります。次回はさらに緊迫感あふれる展開が待っていますので、どうぞお楽しみに! コメントやご感想をお待ちしております。

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