第21話 正義の裁きへ

早朝、芹沢と斉藤は捜査本部の一室にいた。机の上には、これまで集めてきた証拠の山が広げられている。村上修一の資金記録、大山家の再開発計画の詳細、川村紗英の失踪に繋がる手がかり――すべてがここに揃っていた。


「これだけの証拠が揃えば、奴らも逃げられないだろう。」


斉藤は自信を持ってそう言い切ったが、芹沢は少し考え込んだ表情をしている。


「確かに、物的証拠としては十分です。しかし、世論が動かなければ、彼らの影響力が司法に及ぶ可能性があります。」


「つまり、これを公にしなければならない、ということだな。」


「その通りです。」


芹沢は書類の中から一枚を取り出した。それは、再開発計画に関与した政治家たちのリストだった。


「この中に、私たちの動きを妨害しようとする者がいる可能性が高いです。彼らの動きを封じ込めるには、メディアを活用するのが一番です。」


斉藤は頷きながら言った。


「よし、信頼できる記者を呼ぼう。それと同時に、捜査本部としての動きを強化する。奴らの逃げ道を全て塞ぐんだ。」


数時間後、芹沢と斉藤は信頼するジャーナリスト・佐藤真希に接触した。彼女はこれまで数々の不正を暴いてきた敏腕記者で、二人が持ち込んだ資料を真剣な表情で確認していた。


「これが本当なら、とんでもないスクープになりますね。」


真希が資料に目を通しながら言った。


「ただし、公開するには確固たる証拠が必要です。ここにある情報を裏付ける追加の証言が必要かもしれません。」


芹沢は静かに頷いた。


「そのために、村上修一を確保しなければなりません。彼からの直接の証言が、全てを確定させる鍵になります。」


「奴が素直に口を割ると思うか?」


斉藤が懸念を示すと、芹沢は微かに笑みを浮かべた。


「そこは私に任せてください。心理学者として、彼の防御を崩す方法を考えています。」


同じ頃、大山家の屋敷では、村上修一が緊迫した表情で電話をかけていた。彼は資料が芹沢たちの手に渡ったことを知り、焦りを隠せなかった。


「大山さん、事態は深刻です。これ以上は耐えられません。逃亡の準備を……」


電話の相手が何を答えたのか、村上は静かに頷き、スーツケースに書類を詰め始めた。


「やむを得ない。だが、その前に奴らを始末しろ。」


その声は冷酷だった。


芹沢たちは村上の行動を追跡し、彼が最後に逃亡を図る予定だった工場跡地に向かった。そこは彼がかつて再開発計画の拠点として使用していた場所だった。


工場に到着すると、数人の黒服が待ち構えていた。芹沢は彼らの様子を観察し、斉藤に低く囁いた。


「彼らの緊張感が高まっていますね。恐らく、私たちをここで始末する計画でしょう。」


斉藤は拳銃を確認しながら静かに頷いた。


「なら、奴らの計画を逆手に取るしかないな。」


二人は慎重に建物内へ足を踏み入れた。薄暗い空間の中央に村上が立っており、その背後には黒服の男たちが控えている。


「やはり来たか……だが、ここで終わりだ。」


村上は冷たく言い放つと、部下たちに指示を出した。


「こいつらを消せ!」


黒服たちが芹沢と斉藤に向けて動き出そうとした瞬間、芹沢は冷静な声で言った。


「待ちなさい。」


その声は静かでありながら、鋭く場の空気を切り裂いた。村上が苛立った表情で芹沢を見つめる。


「何を言い出すつもりだ?」


芹沢は一歩前に出た。


「あなたたちが私たちをここで殺したとしても、全てが終わるわけではありません。既に証拠のコピーは複数の場所に送られています。」


その言葉に、村上と黒服たちの動きが一瞬止まった。


「さらに、これまでのあなたの行動は全て記録されています。それが公開されれば、あなたもあなたの背後にいる者たちも、全て失うことになる。」


村上は声を荒げた。


「 bleff(はったり)だ!」


芹沢は微笑みながら答えた。


「そう思うなら試してみてください。しかし、もしあなたが協力するなら、事態を少しでも好転させる道を提案する用意があります。」


村上は一瞬躊躇した後、深く息を吐いた。


数分の沈黙の後、村上はゆっくりと椅子に座り込んだ。そして、諦めたように口を開いた。


「……わかった。全て話す。」


村上は再開発計画に関する詳細、川村紗英の失踪の背景、大山家がどのようにして計画を推進してきたかを語り始めた。


斉藤はその証言を全て録音しながら、慎重に言葉を選んで質問を続けた。


「つまり、大山家の指示で紗英を……?」


村上は苦しげに顔を歪めた。


「あの子は計画の危険性に気づき、止めようとした。それが彼女の運命を決定づけたんだ……。」


その言葉に、芹沢の目が鋭く光った。


「これで全てが繋がりましたね。」


次回予告


村上の証言により、再開発計画の真実が明らかになった。しかし、大山家は最後の反撃に出る――。次回、「影の崩壊」――すべてを終わらせる戦いが始まる。


読者へのメッセージ


いよいよ核心に迫る展開となりました。村上の証言によって真実が明らかになりつつありますが、まだ戦いは終わりません。次回もどうぞお楽しみに! ご感想やコメントをお待ちしています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る