第7話 真実の深層
倉庫で発見された計画書を抱え、斉藤康隆は捜査本部に戻っていた。その古びたファイルの中には、大山家が進めていた再開発プロジェクトの詳細と、それに関与していた政治家や企業の名前が記されていた。しかし、内容が具体的であるほどに、そこに隠された闇の深さもまた浮き彫りになっていく。
捜査会議室に集まった数人の刑事たちの前で、斉藤は計画書を開き、その一部を読み上げた。
「このページには、土地の不正取得に関する詳細な記録がある。地元住民の嫌がらせ工作や、不当な契約条件……そしてここに書かれた名前たちだ。」
刑事たちは緊張した面持ちで資料に目を通した。そこには、大山家の主である大山重信を筆頭に、複数の有力政治家や企業の名前が記載されている。明らかに単独の犯行ではなく、地域全体を巻き込んだ巨大な汚職の構図が浮かび上がっていた。
「これが……10年前の紗英の失踪に繋がるものか?」
若い刑事が問いかけると、斉藤はゆっくりと頷いた。
「紗英はこの計画書を見つけ、持ち出そうとした。彼女が消えた夜、それは偶然ではない。」
その時、会議室のドアが静かに開いた。一人の男が姿を現す。40代後半、スーツ姿に冷静な眼差しを湛えた男。芹沢孝次郎だ。
「おや、資料の山ですね。興味深い。」
芹沢は軽い調子で声をかけると、斉藤を含む全員の注目を一身に浴びた。斉藤は彼を紹介する。
「心理学者で探偵の芹沢孝次郎さんだ。この件で協力をお願いした。」
芹沢は机の上の計画書に視線を落とし、その手に取りながら呟いた。
「なるほど、これは単なる再開発の資料じゃない。人間の心理を動かし、操作するための構造図のようだ。」
刑事たちは彼の言葉に困惑した表情を見せる。斉藤が代わりに問いかけた。
「どういう意味だ?」
芹沢は微笑み、計画書の一部を指差す。
「見てください。この一連の動きは単なる土地の買収ではありません。計画の背景には、住民たちに恐怖や不安を植え付け、彼らを動揺させ、最終的に選択肢を奪うように仕組まれている。それがこの『不正取得』の真の意味です。」
「つまり、大山家は住民たちを心理的に追い詰めたということか?」
「その通りです。そして、その中で紗英さんは、この不正がただの経済的な問題ではなく、人間の尊厳を破壊するものだと気づいた。」
芹沢の言葉に、室内の空気がさらに張り詰める。彼の鋭い洞察が、計画書の奥に潜む真実を暴き始めた。
「計画書が見つかったことで、紗英さんの行動と失踪の理由は明確になりつつあります。しかし、まだ分からないことがあります。」
芹沢は机に手を置きながら、斉藤に視線を向けた。
「その計画書を、10年間誰が隠し、誰が紗英さんを消そうとしたのか。そして、なぜそれを今、守ろうとしているのか。」
斉藤は深く頷き、答えた。
「それを追うために、大山家を徹底的に洗い直す。宮田の証言も、さらなる情報収集のカギになるだろう。」
「そうですね。ただ、一つ注意点があります。」
「注意点?」
芹沢は再び微笑みながら言った。
「大山家のような存在は、恐怖だけでなく信念を持っています。それを崩すには、私たち自身も揺るがない真実を持たなければならない。」
その言葉に、斉藤たちの決意がより一層強まった。
次回予告
過去に隠された闇が今、暴かれようとしている。大山家の背後に潜む勢力とは? 川村紗英が失踪した夜、彼女が目撃した「真実」の正体とは?
次回、「沈黙の鎖を断つ」――芹沢の洞察が、新たな局面を切り開く。
読者へのメッセージ
最後までお読みいただきありがとうございます!
ついに芹沢孝次郎が本格的に登場しました。彼の鋭い洞察が事件をどのように動かすのか、そして大山家の闇がどのように暴かれるのか――次回もぜひご期待ください! あなたのコメントや感想が、物語をさらに面白くする原動力となります。お待ちしています!
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