第16話
買い物から帰った柚は、両手に持ったスーパーの袋を冷蔵庫の前に置き、実家にいた頃の癖で「ただいまぁ〜」と家中に居る家族に聞こえるよう、割と大きめな声を出した。
そして台所で手を洗い始めたところで、自分以外この部屋には居ないのだと気付く。
「あ、お、おかえり…なさい…」
「!?」
誰もいないはずの部屋から聞こえる自分以外の声に、柚は反射的に振り返ってしまった。
するとそこには黒くて長い前髪で顔が見えない背の高い細身の男が、不自然にこちらへと手を伸ばして近付いて来ていた。
「うわぁ!」
まるで心霊もののホラー映画に登場する様な男の容貌に驚き、柚は無意識に後ろへ下がろうとして、台所にぶつかる。
「いって!」
「あぁ!あの!怖がらないで…!ぼ、僕は悪霊ではないから…!」
「おわぁ!どうでもいいからこっち来んな!」
「ちがう…違うんです!僕は怖くないから!ね?」
男は柚の要求など無視し、ひたすらに怖いビジュアルのまま、怖くないことをアピールしながら柚へと近付いてくるのだ。
「い、いや!だから怖いって!悪霊とかどうとかじゃなくて、ここは俺の部屋で、俺しか居ないはずなのに、"俺以外が既にいる"ことが怖いんだって!あと、まず自分の顔、鏡で見てみろ!」
柚にハッキリとそう言われ、ピタリと動きを止めた男は、「み、水を出してください…コップに…か、鏡には映れないので…」と震える声を出した。
「わ、分かった。分かったから、まだこっちには来ないで…」
急いでコップに水をくむ柚の言葉に、男は頷き、大人しくその場に立ち止まった。
「ここに置くから、俺が離れたら進んで」
「はい、分かりました」
柚はそっと台所に水の入ったコップを置くと、そろーっと男に近付かないよう、リビングの方へと移動した。
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