第5話
それから橙真が部室へと柚を迎えに来たのは約1時間半ほどたってからだった。
「とうまぁ〜」
「帰るぞ」
バンドメンバーが練習をしている中、尚もゴロゴロと床でマイクスタンドを抱いている柚を橙真が上から見下ろした。
「お、やっと保護者様が居らっしゃった」
橙真の姿を見るなり、メンバーはパッと練習を止め、あっという間に橙真を取り囲む。
「橙真くん毎度毎度こんなの相手してたら、彼女に愛想つかされない?」
「そうそう、俺だったら絶対に彼女優先だわ〜」
「…………」
「へん、橙真はイケメンだからそうそう振られたりなんかするかっ!」
頭上で行われている会話に柚も思いっきり勢いを付けて立ち上がり、馴れ馴れしく橙真の肩に手を置く尚也の顎に頭突きをかました。
「いってぇ〜!!このガキっ!今度から出禁にすんぞ!」
痛みに顎を押さえながら目に涙を浮かべて叫ぶ尚也に、柚はベッと舌を出す。
それを見た尚也はすかさず柚を取り押さえてしまう。
二人がバタバタと床の上で暴れ回っているのを、橙真とその他のバンドメンバーは少し離れた位置から眺めていた。
「尚也にあんなふうに戯れつけんの、柚だけだよ」
「確かになぁー、尚也さんて気分屋だし、何処が地雷だか分かんないスよね〜」
「ベースは上手いし、俺らとしては移動して来て貰って万歳って感じだけどな」
「……………」
バンドメンバーの会話を横で聞きながら橙真は、楽しそうに声を上げながら尚也に体を押さえ込まれている柚に、ほんの少しだけ、眉を歪めた。
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