第17話

そうして男がススーっと滑るように台所へと移動し、コップの中の自分を覗き込む姿を、柚は少し離れた所から見守っていた。



そしてついに男がコップを覗き込んだその瞬間、男はすぐに大声を上げ、床に尻もちをついた。



「いやぁ!お化けぇ!あぁ…!遅かったんだ…もう手遅れだった!僕はとっくに悪霊になってしまっていたんだぁ〜!あぁ〜!!」



男は叫びながらそのまま床に寝転がり、子供のようにギャンギャンと泣きはじめた。



「ちょ、ちょっと!お願いだから大声出さないでよ!近所迷惑だから!」



とにかく大声を出す男を宥めたくて、柚は男へと駆け寄り、そのまま手で男の口を塞いだ。



「いいんです!どうせ僕の声なんて誰にも聞こえてやしないんだ!うわぁ〜!呪ってやるぅ〜!僕は僕を悪霊にしたこの無慈悲な世界を呪ってやるぅ〜!!」



「あぁもう!声が大きい!ほんとにいい加減にしてよお!」



ジタバタと暴れ、声を上げる男に、柚はとうとうまどろっこしくなり、男の顔を思いっきり自分の胸へと押し付けた。



すると不思議なことに、騒がしがった男はピタリと止まり、スーハースーハーと、深く呼吸し始めたのだ。



「???」


「………てる…」


「なに?」



ボソリと男の呟きが聞こえず、一度男から体を話して顔を覗き込むと、今度は男からギュッと柚を抱きしめてきた。



「うわぁ!ちょっとたんまっ!」


「触れてる!僕、今君に触れてるよね!?奇跡だ!僕、悪霊になんてなってなかった!あぁ…嬉しい!これも君のお供え物のおかげかもしれない!本当にありがとう!これからは僕が君をずーっと守るよ!」



満面の笑みの男に、柚はわけも分からず首を傾げるしかなかった。



「は?」

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