第23話 特別




試験が終わって、夏休みが始まった。

エリアスの提案で、アルブレヒトはサラの祖母の家に行くことになった。

他人の自分が行っても邪魔するだけだと思い、最初は遠慮したが、サラとエリアスの説得されて仕方なくいくことにした。


サラの祖母の家は市街から遠く離れた僻地で、よく言えば自然が豊か悪く言えばド田舎だった。


アルブレヒトは帰りたくなったが、サラが楽しそうにはしゃぐので文句は言えなかった。

それに、サラは今まで見たことが無いくらい元気だった。


崖から飛び降りるし(崖ではなかったが)、魚を追いかけて川に落ちかけるし、怪しい洞窟の中に飛び込んでいくし、アルブレヒトは今日だけで何十年分も寿命が縮んだ気がした。

だが、楽しそうなサラを見ていると、つられてこっちも楽しくなった。


最後に訪れた湖では、サラの魔術を披露された。

湖の水が生きているかのように姿を変える、美しい魔術だった。


「そんなに魔力を消費して大丈夫なんですか。」

「うん。全然平気だよ。これくらい魔術が使えれば、護衛騎士にも胸張ってなれるって思ったんだけど、北東の街に帰ったら元に戻っちゃってね。体は丈夫になったからよかったけど。あの時は落ち込んだなぁ。まあ、もうその必要もなくなったんだけどね。」

「……。」


サラは明るく言ったが、アルブレヒトは何と言っていいか分からなくなってしまった。


「アルブレヒト君はどんな子供だったの?」


サラが気を聞かせて話題を振ってくれた。

アルブレヒトは、つい話すつもりのなかった自分の過去を話した。


「チャンスだと思った。僕は護衛騎士になりたかった。それに、両親のことも見返せる。そうやって、僕はあなたから護衛騎士の座を奪ったんです。」

「……。」


アルブレヒトの長い話を。サラは静かに聞いていた。

アルブレヒトは、サラに嫌われて当然だと思っていた。

むしろ、罵ってほしかった。


だが、サラは否定も肯定もしなかった。


「今日見せた場所はね、今までずっと私一人で来てたんだ。だから、誰かに共有したかったの。アルブレヒト君がいてくれてよかった。」


サラが優しく微笑みかけてきた。

全てを受け入れてくれた気がして、目元が熱くなった。


「そうだ、何か魔術を見せて。」

「魔術ですか?」


突然サラがねだるので、アルブレヒトは先ほどのサラの魔術に自分の魔術を掛け合わせて、溶けない氷の宝石を作って見せた。


「すごいねアルブレヒト君!こんなに綺麗な魔術みたことない……」

それはこっちのセリフだと思った。


サラのダークブラウンの瞳に、自分が写っている。


アルブレヒトは吸い込まれるようにサラに口づけた。

サラもそれに応えてくれる。

アルブレヒトは胸が苦しくなった。小さい彼女の体を腕の中に閉じ込める。


魔力を交換しないただのキスは、おかしくなりそうなほど気持ちよかった。


サラはこの土地にいれば、あんなに美しい魔術を使える。


「ここに居ればあなたは魔術を好きなように使える。だけど僕たちは帰らないといけない。だから、向こうに戻ったら僕があなたに魔力を分けてあげます。」

「え、でもそれはっ、」


断ろうとしたサラの唇を塞いでとめる。

自分から離れたところに行かせるなんて、もう無理だった。


____________________



「ん、アルブレヒト君、やだ」

「いやじゃないでしょう。ちゃんとこっちに集中して。」


サラの部屋のソファにサラを押し倒し、アルブレヒトは唾液を飲ませていた。


北東の街に帰ってきてから、遠慮するサラを捕まえて、こうして二、三日に一度は

定期的に魔力を分け与えた。


「ん、!」


脇腹をなぞると、サラの体がしなった。


「も、じゅうぶんだから、」

「まだです。」


魔力を与えつつ、ロングスカートの中に手を潜らせ、柔らかい太もも撫でる。


サラは耳まで真っ赤に染めた。


サラはどんなに口づけても、決して欲の籠った目でアルブレヒトを見なかった。

ぎらつく女子たちとは違うサラの目は、アルブレヒトをどこまでも安心させた。

こうして試すように彼女の体をもてあそんでも、それは変わらない。


むしろ清廉すぎて、段々と壊したくなってきた。

自分の指先でサラの体がしなるたび、アルブレヒトは昏い快感を覚えた。


今なら、自分に縋ってきた女子たちの気持ちが痛いほど理解できた。

自分にできることは何でもしてやりたい。

そして自分だけを見てほしい。


あれほど嫌悪していた感情に共感する日が来るなんて、ずいぶんと虫のいい話だ。

そう自嘲するが、手に入れた快感をアルブレヒトは手放すことができなかった。

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