第11話 選択
「昨日は一日空けてしまってすまなかったね。外の探検は楽しかったかい、サラ、アル。」
「はい!昔となんにも変わらなくて、ついはしゃいでしまいました。アルブレヒト君も連れ回してしまって。」
「崖から飛び降りたり、川に落ちかけたり、こっちはずっと気が抜けませんでした。」
「はははは、これじゃどっちが年上かわからないな。」
翌日、サラとアルブレヒト、父、祖母で朝食をとった。
昨日、サラはただ無邪気に遊んでいたが、アルブレヒトは気が気ではなかったらしい。正反対なテンションの二人をみて、父が豪快に笑った。
「若いのがいると、にぎやかでいいねぇ。」
「普段は二人とももっと静かなんですけどね。大自然のパワーでしょうか。」
今朝の料理も祖母が手によりをかけて用意してくれた。
野菜がゴロゴロ入ったスープがお気に入りだ。
「今日はこっちにいられるんですか、お父様。」
「ああ、もう用事は済ませたからね。今日は狩りに行こうと思うんだ。アル、一緒に行かないか。」
「……お供します。」
「じゃあ、サラは私と一緒にお菓子を作らないかい。昨日採ってきてくれた野苺もあるしね。」
「うん!」
そうして各々準備を整え、父とアルブレヒトは狩りに出かけて行った。
不思議とアルと顔を合わせても気まずさはなかったが、今日は別行動でよかったかもしれない。
それに、祖母と料理をするのはとても楽しい。
間近で祖母の料理を観察することができる。
「サラとキッチンに立つのはいつぶりだろうね。」
「私がまだ子供用の包丁使ってた時だから、もう10年ぶりくらいかな。」
「あらぁ、その間にこんなに大きくなって。」
「ははっ、また言ってる。」
サラは祖母の指示通り野苺を丁寧に洗い、ヘタを取り除いていく。
「サラは、卒業したらどうするんだい。」
「お父様の秘書をやらせてもらうことになったよ。」
夏休みに入ってから、父と話して決まったことだった。
父から提案されたことだったが、今まで護衛騎士について学んできたことを活かせるし、ちょうどいいとサラは思っていた。
「そうかいそうかい、あの家に残るんだね。」
「……おばあさまも、私が家を出たほうがいいと思う?」
「誰かにそう言われたのかい?」
「友達が、私には家の仕事以外にもやれることが沢山あるからもったいないって。」
ミナリに言われたときは、考えるのを後回しにしてしまった。
だが、納得する答えが見つけられていない思っていた。
「そうだねぇ、サラは他にやりたいことは無いのかい?」
「やりたいこと、うーん。今までずっと護衛騎士になるものだと思ってたから、正直あんまり。誰かの役に立てたらいいなとは思ってる。」
答えながら、自分の空っぽさに気づいた。
「私、全然だめだね。」
「何がだい。全然だめなんかじゃないさ。」
祖母はクッキー生地をこねていた手を止めた。
「サラ、昨日お前のお父さんが行っていた魔術支部局ではね、魔術研究員を募集しているんだ。この土地の地力を利用して、様々な術式の検定を行っていてね。魔力を使うことはそんなにないし、それにここはサラの気質に合ってるから。どうだ、行ってみないか。」
「え!そんな突然……」
「突然じゃないさ。アルブレヒトがシュルツ家に来る前から考えていたんだ。サラにピッタリの仕事だと思ってね。まあ、お前のお父さんはお前がシュルツ家に残ってくれたほうが嬉しいだろうさ。」
祖母は顔にしわを寄せて笑った。
「サラ、お前は若い。まだまだ可能性があるんだよ。一つの選択肢だけじゃなく、色んなことをやってほしい。もし興味があれば、私が支部局に連絡するから、いつでも声をかけとくれ。」
「うん……。」
サラは舞い込んできた話に、どうすればいいか分からなかった。
家を出ることが実現可能になってきた。
しかし、落ちこぼれと言われた自分にできるだろうか。
そう思うことも家に守られたいという甘えなのだろうか。
そうこうしているうちに、キッチンに甘い匂いが漂い始めた。
バターたっぷりのクッキーや、野苺のジャムを包んだパイなど、どれもおいしそうだ。
1つ味見して、思わず頬が落ちそうになった。
「おいしい!」
「明日帰るんだろう。いくらか包んでおくから。」
「ありがとう!」
手際よく紙袋に菓子を包んでいく。
シュルツ家に帰ってもしばらくお茶菓子には困らなそうだ。
「ただいま戻りましたよ。」
玄関の方から父の声が聞こえた。
祖母と一緒に向かうと、満面の笑みの父と、祖母の背くらいはある大鳥の脚を掴んで持っているアルブレヒトがいた。
「きゃあっ、大きい……。」
「これはまたえらい大物だね。」
「すごいでしょう。アルが獲ったんですよ。」
「アルブレヒト君が!?」
「別に……大人しい奴だったので。」
アルブレヒトが獲った大鳥はその日の夕食に並んだ。
「これは四人じゃ食べきれないな。よくこれがまるまるオーブンに入りましたね。」
「うちのオーブンは豚一匹は余裕さ。」
「すごくおいしそう、食べてもいい?」
「どうぞ。」
こんがりと焼き目の付いた鳥の丸焼きは、食欲をそそった。
アルブレヒトに許可を取り、ハサミで切り分けて頬張った。
「!」
口に入れた瞬間に鳥のうまみと脂が広がった。
「とんでもなくおいしい!みんなも食べて!」
サラはアルブレヒトたちにもチキンを取り分けた。
それぞれチキンにかぶりつき、舌つづみを打った。
「こんなにおいしい鳥をとってきてくれてありがとう、アルブレヒト君。」
「……これくらいなら」
「ちょっと、お父さんのウサギもおいしいぞ。」
「ははっ、今食べますから。」
祖母の家で過ごす最後の晩にふさわしいにぎやかな夕食になった。
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