第15話 一大決心




「い、今なんて?」

「大学校を卒業したら、家を出たいんです。」


良く晴れた朝。皆今日は休日なので、いつもよりゆったりと食事をしていた。


「おばあさまの家の近くに魔術支部局があるでしょう。そこの研究員の職を紹介してくれるとおばあさまが。」

「お母様が!?私は何も聞いていないが……まさか魔術支部局で働くつもりなのか?」

「はい。まだ就職できるかはわかりませんが。」

自分のやりたいことやできることは今はまだわからないが、とにかく家をでて知らない世界を見てみたくなった。今までは家と父に守られて生きてきたが、それなしで自分の力で生きてみたいと思ったのだ。

そう思ったのは、アルブレヒトのおかげだ。本人にその気はないだろうが、アルブレヒトがサラを役目から解放してくれた。自由になれたのだ。ならば新しいことをしてみたい。


「サラ、急にどうしたんだ。わざわざ家を出なくても……。」

「ただ自分にできることをやってみたくなったんです。」

「できることって、私の秘書の仕事はどうするんだ。」

「マークさんに聞いたら、ちょうどいい人が知り合いにいるらしいです。」


父の現在の秘書をやっているマークは、子供が生まれるのでしばらく暇を取る。

それを機に、サラが仕事を引き継ぎ、父の秘書を二人体制で務める予定だった。


「マークさんに聞いたら、ちょうどいい人が知り合いにいるらしいです。秘書経験もあって、私よりずっと適任です。」

「そ、そんな、待ってくれ。準備が良すぎないか。」

「このままこの家にいたら、お父様やアルブレヒト君にずっと甘えたままでいちゃいそうで。私にもできることがあるんだって、一人でも大丈夫だってことを確かめてみたいんです。」

「サラ……。」


突然の娘の告白に困惑した父は、アルブレヒトに助け舟を求めた。


「アルも何か言ってくれ。こうなったサラはてこでも動かないんだ。」

「……。」


アルブレヒトは涼しい顔で優雅にパンを食べている。


「本人がそう決めたなら、僕たちは止められないんじゃないでしょうか。」

「そんな……。アルの方がサラのことわかっているじゃないか。だけどお父さんは寂しいよ。」


なんとか思いとどまってほしい父と、頑なに譲らないサラの攻防は、朝食が終わってもしばらく続いた。



____________________




膠着状態は一週間続いたが、ついに父が折れた。


「わかったよ、サラ。本気なんだね。」

「お父様!ありがとうございます。」


やっと父を説得出来て、サラは嬉しくなった。


「今までサラには沢山苦労を掛けたから……。サラにはやりたいことをやってほしい。できればお父さんの目の届く範囲がよかったけれど。」

「お父様には本当に感謝しています。何もかも。私のわがままを聞いてくれて、ありがとうございます。お父様がお父様でよかった。」


サラは笑いかけると、涙目の父に勢いよく抱きついた。

さすがは現役の護衛騎士なだけあって、なんなくサラを抱きとめると、父は苦しいくらいぎゅうぎゅうにしてきた。こうしていると自分が小さい子供に戻ったような感覚になる。


「いつでも帰ってきていいんだからな。お父さんにはずっとサラが必要なんだから。」

「もう、まだ就職できるとは決まってないですよ。」

「サラは、僕と君のお母さんの娘だよ。絶対に就職できてしまうに決まっているじゃないか。」

「ははっ、本当に親馬鹿なんだから。」


使用人が父の書斎を訪ねてくるまで、そうしてサラと父は抱き合っていた。

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