第18話 幼馴染へと今度こそ

「俺は、六華のことが好きだ!」


 叫んだ。


 今度こそ、俺の方から。


「ずっと前から、好きだった!」


 ずっと昔から、言いたかった言葉。


 三年前に、言う資格がなくなった言葉。


 今の俺に、その資格があるのかはわからない。


 けれど、今言わないと永久に失くしてしまうだろうと思ったから。


「真面目でいつも一生懸命で、知的で可憐なところ好きだった!」


 六華が俺の前でだけキャラを作っていたのは、変わろうとした結果なんだろう。


 たぶん、俺ともう一度再会するために。


 違ってたら滅茶苦茶恥ずかしい自惚れだけど、そうだっていう確信がある。


「時々見せてくれた、はにかむような笑顔が好きだった!」


 無理をしてほしくないって、そう思ったのは本当だ。


 だけど同時に、六華がそこまでしてくれたことが嬉しい。


「気弱なくせに、譲れない一線は守る芯の強さが好きだった!」


 だからこそ、伝えなければならない。


 そんなことをしなくても、俺はずっと六華のことが好きだったんだって。


「そんで!」


 そして……これも、伝えないといけない。


「再会して、もっと好きになった!」


 俺は、『今の』六華も好きなんだって。


「明るくて愉快で、真っ直ぐ全力なところが好きだ!」


 それは、作られたものだったのかもしれない。


「俺の悩みなんて吹き飛ばしてくれるくらい、あけすけな笑顔が好きだ!」


 それでも、六華の一部には違いないんだと思う。


「俺の弱気を飛び越えて、グイグイと引っ張ってくれるところが好きだ!」


 そんな六華に、俺は間違いなく救われていたんだ。


「どっちの六華も、大好きだ!」


 こんなことを言うのは、卑怯なのかもしれない。


「ずっと変わらず優しいところが好きだ! 自分より他人を優先出来る気高さが好きだ! 一緒にいるとそれだけで楽しくて、気の合うところが好きだ! 目標に向かって真っ直ぐ進める強さが好きだ! 全部全部、大好きだ!」


 だけど、とりあえず今はありったけの気持ちを吐き出そう。


「俺は、世界で一番月本六華を愛してる!」


 俺の一番は、六華だ。


 今も昔も。


「だから……!」


 この想いの強さは、他の誰にも負けるつもりはない。


「俺と、付き合ってください!」


 六華に向けて、手を差し出す。


「ぜぇ……はぁ……」


 碌に息継ぎもせずに叫んだもんだから、流石に息が切れた。


 でも、長年胸に吹き溜まってたものがすっかり消え去ったようなすっきりした気分だ。


 この告白が絶対に成功する、だなんて俺は少しも思っちゃいなかった。


 むしろ、分が悪いとすら思っている。


 なにせ、今しがた泣かせてしまったばかりだ。

 そこまで考えられてなかったけど、確かにキャラを作っていることを指摘されるってのは相当恥ずかしいことかもしれんと今更ながらにちょっと思い始めていた。


 再会してから、随分と情けない姿も見せてきた。

 そろそろ幻滅されていてもおかしくはない頃合いだろう。


 今の告白だって、思いつくままに言葉を紡いだだけの格好良さとは程遠いものだった。


 後はもう、どうとでもなれ……とまでは、流石に言えない。


 だけど六華に断られたとしても、たぶん後悔はしないだろうと思う。


 もちろん、心に大きなダメージを負いはするけれど。


「………………ふぁえ?」


 俺が叫んでいる間ずっと呆けた表情を浮かべていた六華が、数分ぶりに言葉を発した。


「あー……?」


 涙は、もう完全に止まっている。


 無表情に近いその顔からは、如何なる感情も読み取ることが出来なかった。


「いー……?」


 そのまま、しばらく。


「うー……?」


 時折謎の言葉を発する六華からは、なんとなく『再起動中』という言葉が想起された。


「………………え?」


 どこか虚ろだった目の焦点が、ようやく定まった感じがする。


「す……す……? すすすすすすすすすすすす?」


 かと思えば、なんかバグり始めた。


「テルくんが、わ、私? 好き、す? きす?」


 顔が徐々に赤く染まっていき、ダラダラと汗が流れ始める。


「………………」


 しばらく無言のまま、パクパクと口を開閉させて。


「すきょらてるわたわたわたわたわたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 謎の奇声を発しながら、六華は走り去っていってしまった。


「………………」


 結果、俺だけがポツンとこの場に取り残される。


「えー……っと」


 頭の中を整理。


 俺は、告白した。

 六華は、逃げた。


 ……つまり、これは?


「とりあえず、返事は保留……ってことで、いい……の、か……?」


 そう判断して、苦笑するのだった。

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