第23話 幼馴染の敵情視察
テルくんに対してどのキャラで接すれば良いのか迷った末、私が選択したのは。
「天野のお弁当、今日はチキン南蛮なんだね」
「最近は結構肉系多くなっきてんな」
「あぁ、もうダイエットはいいだろうってな」
敵情視察……お昼の教室でお弁当を囲むお三方を廊下から観察することだった。
やっぱり、敵を知らないことには方針も立てづらいもんね!
……違うから……結局決められなくて、テルくんの前に出られず出来るのはこうやって覗き見することだけってわけじゃないから……。
と、ともかく!
しっかり視察しちゃいましょー!
「ふふっ、それで油断してまた中一の頃の体型に戻っちゃったりしてね」
「おっ、そりゃ見たい見たい!」
「残念だったな、トレーニングとカロリー計算は欠かしてないさ」
ふむふむ……とりあえずの感想は……普通?
今のところ、ラブい雰囲気は見受けられない。
「天野って、そういうとこマメだよね」
「つーか、全体的に几帳面だよな。身体デカいのに」
「昔はクッソ雑だったんだけど、その反動かもな」
ていうか、えーと……鈴木さん? もいるんだし、峰岸さんといえどそんな露骨なアプローチをしたりはしないか。
まぁ、ただこの世に存在しているだけで魅了効果を発揮する存在だから油断は出来ないんだけど……。
「んっ……天野」
おや?
峰岸さん、どうしてテルくんの方に手を伸ばした……?
「ここ、ついてるよ」
く……唇についてるタルタルソースを指で取ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
そ、それは幼馴染くらいの距離感じゃないと出来ない禁断の技なのでは……!?
ていうか、私もやったことないんだけど!
「はい、取れた」
出た、王子スマイル!
ぐわぁー!? 何しろ顔が良すぎる!
あれで落ちない生命体とかいるのですか!?
テルくん、峯岸さんに抗することが出来る唯一の生命であれ!
「お、おぅ……サンキュ」
い、いやいや、ちょっと落ち来なさいよ六華ちゃん。
確かに、ぶっちゃけあれで落ちない女子はあんまりいないでしょう。
しかし、あくまで峰岸さんは女子特攻!
まぁバチクソに美人なんで普通に男子も落ちると思うけど、テルくんなら大丈夫……何しろ、あの距離感でずっと峰岸さんと接してきて今まで落ちなかった実績持ちなのだから……!
「んっ……美味しっ。このソース、お母さんの手作りなの?」
ゆ、ゆ、ゆ、指のソースを舐めたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
嘘でしょ、普通に間接キスじゃん!
こういうの、普通はなんか特別なイベント的な扱いなんじゃないの!?
こんな、ふっつーに日常のワンシーンで出てくるものなの!?
あと、これも私やってない!
「あー……そう、みたいだな」
い、いやしかし……!
逆に! そう、逆に!
全く動揺を見せない峰岸さんは、あまりに『王子』が過ぎる!
テルくんもちょっと赤くなってる程度だし、きっと今までに何度もこんなやり取りはあったのでしょう……!
……は?
今までに何度もこんなやり取りがあったことの方がヤバくない?
「ん? 天野、なんだか顔が赤い気がするけど体調悪いの? 大丈夫?」
「い、いや別に……」
「王子……一つだけ教えてくれ……それは、計算なのか……? 天然なのか……?」
そう、是非とも教えていただきたい!
今のは、天然ムーブなの!?
それとも、計算されたアプローチだったの!?
どっちにしろ、鈴木さんの反応的に今回のが初めてっぽいからそこは一安心だけど……。
「……? どういう……あっ」
おっと峰岸さん、今になって己の指を見て?
「……そっか。間接キス、しちゃった」
ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
ここに来てぇ!
最終兵器ぃ!
恋する乙女のはにかみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
ただでさえ破壊力が高いのに、さっきまでの落差によりその威力は何十倍にも増幅されているぅぅぅ!
「っ……」
あっあっ、テルくんが真っ赤になってる……!
でも、わかるぅ!
ていうか鈴木さんも真っ赤になってるし、たぶん私も真っ赤になってるぅ!
それほどの破壊力ぅ!
「ちょ、ちょっと、黙り込まないでよ二人共。なんだか照れちゃうじゃない」
ぶっちゃけ……クッソ可愛いな!?
美しさと可愛さって、こんな高レベルで両立出来るものだったんだね!
人類はたった今、新たな知見を得ましたぁ!
「……まぁ、でも」
かっ……かーらーのー……?
まだ……まだ、何かあるっていうの……!?
「たったこれだけのことで、こんなにもドキドキして……嬉しい気持ちになるだなんて。恋って、凄いんだね」
カンカンカンカァァァァァァァン!
はいっ、ただいま試合終了のゴングが鳴りましたぁ!
セコンド、タオルを投入です!
これ以上は、完全にオーバーキル!
というか、ここまでで完全でオーバーキル!
挑戦者の六華ちゃん、ノックダウンを通り越して死んでおります!
「うぅ……峰岸さん、強すぎるよぅ……」
これ以上は……見てられなくて。
私は、そっとその場を去ったのでした。
♠ ♠ ♠
「おや? 月本さん、帰っちゃったね」
未だ少し顔の赤い峰岸が、廊下の方へと目を向けた。
「……みたいだな」
そこに六華がいたことは、当然俺も気付いていた。
何しろ、めっちゃ前のめりでほとんど全身見えてたからな……。
いずれにせよ、話題が変わってくれたのはありがたい。
さっきの峰岸は……いくらなんでも、破壊力が高すぎだ……。
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