第17話 幼馴染が抱いた想い②
「んっ、確かに今日の卵焼きは格別だな……」
公園の芝生にシートを敷いて、お弁当を食べる。
そんな何気ない時間も、たまらなく愛しい。
だけど、だからこそ不安も押し寄せてくる。
テルくんは、本当に楽しんでくれてるのかな?
無理に私に付き合ってくれてるんじゃないの?
──俺の一番の理解者は六華だよ。今も、昔もな
テルくんはそう言ってくれたけど、それは過大評価もいいところだと思う。
私はいつだって、テルくんの本心がわからず不安になってる。
今も、昔も。
「うん、美味しかった! ごちそうさま!」
「お粗末様ですっ!」
「ホントに料理上手くなったよな、六華」
「ふふっ! そうでしょうとも! この三年間、みっちり鍛えちゃいましたからね! もちろん、たった一人に食べて欲しいという健気な乙女心ですよっ?」
そんなネガティブな自分を、虚構の自分で抑え込む。
「………………」
すると、なぜかテルくんは私の顔をジッと見つめてきた。
また、内心を見透かされているようで……あと、単純にこの距離で見つめられると普通に心音が高鳴る。
はぁ、何度見ても顔が良い……い、いえ、顔も良い……。
「あっはー! どうしましたっ? この可憐なご尊顔に見とれちゃいましたかねー? いいですよ、どんどん見ちゃってください! 私のお顔はテルくん専用ですからっ!」
殊更大きな声で言いながら、自分の胸に手を当てる。
そうしないと、鼓動の音が聞こえちゃいそうで。
「……あのさ」
どこか神妙な顔でそう切り出したきり、テルくんは黙り込んだ。
その沈黙が妙に意味深に感じちゃうのは、私の心にやましいことがあるからなのかな。
「もう、なんですかー? 今日そのパターン、多いですよっ。気になることがあるんなら、ガンガン言っちゃってください! 隠し事はナッシンです!」
ははっ……現在進行系で自分を隠してる私が何を言ってるんだか。
「……そうか、なら」
と、テルくんは何かを決意するみたいに一つ頷く。
「海に行こう」
そして、そう提案してきた。
♥ ♥ ♥
テルくんが漕ぐ自転車に乗せてもらって、海へ向かう。
間近で見るテルくんの背中は凄く大きく逞しくて、ドキドキしちゃう。
でも……それとは別の意味でもドキドキしてる。
たぶん、本題については海に着いてから話すってことなんだろうけど……どうしよう、別れ話だったりしたら……いや、付き合ってないのに別れ話も何もないんだけど……やっぱり、このキャラはウザかったかなぁ……そりゃ、普通に考えたらウザいもんなぁ……。
「六華? どうかしたか?」
「あっ、いえ!」
ぼんやり考え事をしている間に、いつの間にか到着してたみたい。
テルくんに呼びかけられて、慌てて自転車を降りた。
「久々に嗅ぐ潮の香りを、ちょっと堪能しておりましたっ!」
「こないだ来たばっかだろ」
と、テルくんは笑ってくれる。
「ほら、行こう」
それから、こちらに手を差し出した。
昔は、いつもこうやって私の手を取って引っ張ってくれた。
再会してからは、私の方が引っ張り回してばっかりだったから……なんだかとっても、懐かしい。
「はいっ!」
そんな気持ちを胸に、その手を取る。
この間とは違って、ゆっくりと歩いて砂浜へ。
やっぱり私たちの他に人影はない。
「覚えてるか? 小六の夏に、家族で海水浴に来た時にさ」
「あっ、さてはアレのことですねっ! テルくんの海パン大破損事件!」
「いや、六華の浮き輪消失事変の方」
「そっちでしたかー!」
潮の匂いを嗅いでいると、地元の思い出が次々と頭に蘇ってきた。
そして、その思い出のほとんどはテルくんと一緒に作ったもの。
「ここ、泳いでも大丈夫なとこですよね? 夏になったら今度は泳ぎに来ましょう! あの時のリベンジで、今度は華麗な遠泳を披露してみせますのでっ!」
「あぁ、楽しみにしてるよ」
この街でも……テルくんと、沢山の思い出が作れるといいな。
「水着にも期待してくれてオッケーですよっ! テルくんのお好みは可愛い系ですかっ? セクシー系ですかっ? はっ!? まさか、意表をついてスク水とか!? でもでも、安心してください! テルくんがどんな性癖な持ち主だろうと受け止めてみせますのでっ! 月本六華Ver.2は拡張性もバッチリです!」
あっ、ヤバ……微妙に考え事しながら喋ってたらまたテンション感を間違えた気が……あと自分でやっといてなんだけど、このピースサインを目のとこに持ってくる謎ポーズって何なんだろう……最初にやっちゃって以来、なんか癖になってる……。
「もっちろん、本体のボリュームにもご期待……」
「六華」
珍しく、テルくんが私の言葉を遮った。
いつも、なんだかんだ私のこのノリにも付き合ってくれるのに……どうしたんだろう?
「話があるんだ」
あれ……?
なんだか、ちょっとシリアスな感じ……?
「なんですかなんですかっ? 何のお話でしょうっ? も・し・か・し・てぇ? ついについにの告白タイムですかっ?」
駄目だ、テンションが暴走しすぎてブレーキが……。
「……確かに、これは一種の告白とも言えるのかもしれない」
………………えっ。
えっえっ、告白?
「六華、その……何ていうか……」
もしかして、ホントに愛の告白ってこと……!?
「無理を、しないでくれ」
って、流石にそんな都合がいい展開はないよねー。
……んんっ?
無理?
いや、無理なんて……とっても、してるけど。
「ご心配痛み入りですっ! でも、私は能天気に定評がある月本六……」
「見たんだ」
見た?
何を?
まだ、何もわからないけれど。
妙に嫌な予感がして、背中に変な汗が流れていくのを感じる。
「学校で」
あ。
「峰岸たちと話す、六華のこと」
あっ……。
「あれが……素の六華なんだろ?」
あぁっ……!
「だから、俺の前でも……そういうの、無理しないでほしいんだ」
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
バレた。
バレちゃった。
キャラを作っている恥ずかしい女だって。
わざわざキャラを作ってまで彼の気を引こうとしている浅ましい女なんだって。
嗚呼、なんて恥ずかしい。
きっと、今の私の顔は真っ赤になってるだろう。
油断してた。
入学当初から、学校でテルくんと顔を合わせることがないよう動いてたはずなのに……学校でテルくんの姿を目にすることさえめったになくて、いつの間にかか注意が疎かになってたみたい。
「……ごめん」
どうして、テルくんが謝るの?
テルくんが謝ることなんて、何一つないでしょう?
ただ、恥ずかしい女の恥ずかしい秘密が暴かれただけなんだから。
「俺、泣かせちゃってばっかだな……昔からさ」
泣く?
誰が?
「……え?」
自分の頬を何かが流れていく感触に、遅れて悟る。
あぁ、そうか。
私だ。
私が泣いてるんだ。
そりゃそうだ、この場に他の人なんていないんだから。
だけど……どうして私は、泣いてるんだろう?
それも、こんなに止めどなく。
まぁ、泣けるほど恥ずかしい気持ちではあるけど……。
「……そっか」
唐突に、納得する。
あんなに熱を持っていたはずの頬が、いつの間にか冷たくなっているのを自覚した。
だって、これでテルくんとの関係が本当に終わってしまうんだから。
昔、テルくんは自分を演じてた。
それは、自分を守るための嘘。
私は別にそれが悪いことだとは思わないけど、テルくんが気にしてたのも知ってる。
でも、再会してからのテルくんは自然体だった。
それはきっと、自分を演じなくても過ごせる強さを手に入れたから。
実際今のテルくんは、あの頃とは大きく変わってる。
あの頃より、もっと魅力的になってる。
一方、私はどうか。
強くなれた気になって、意気揚々と追いかけてきて。
再会した瞬間に日和って、『足りない』だなんて言い訳して、自分を偽った。
たぶん、テルくんが最も嫌悪する姿だと思う。
「ごめん」
謝らないで。
悪いのは、私なんだから。
「六華にばっかり、頑張らせてしまって」
頑張る?
確かに、頑張ってはいたかも。
明後日な方向にだけどね、ははっ。
「だから……今度は、俺の方から言わせてほしい」
嗚呼、二度目の玉砕は間近。
せめて、告白してからが良かった。
そのチャンスを潰したのは、他ならない私だけど。
本当に、あまりにも愚かしくて笑えてくる。
さぁ愛しい人、この愚か者に裁きを下してくださいな。
はっ、何を悲劇のヒロインぶって……。
「好きだ!」
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ん?
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