第13話 幼馴染と向き合おう③

 その日の帰り道。


「なぁ六華、峰岸といつもどんなこと話してんだ?」


 当然の如く一緒に帰っている六華へと、直接尋ねてみた。


「なんですか、藪から棒に」


「いや、なんとなく気になって」


 別段深い意味があったわけでもないので、そう答えるしかない。


「そうですねー、やっぱりテルくんの話題が多めでしょうか」


「俺の……?」


 意外に思って、首を捻る。


「一番共通する話題ですからね」


「あぁ……まぁ、確かにな」


 そもそもが、俺経由で繋がったようなもんだし。


 そうなるのも自然なことかもしれない。


「むふふー、中学時代のテルくんのこと沢山聞いちゃってますよー?」


 と、六華がニンマリと笑った。


 最初の頃は自分の知らない俺について話す峰岸に嫉妬してたようだけど、今はもうそういうこともないみたいだ。


「俺の恥ずかしい過去をか?」


 峰岸なら、そりゃ俺のその手のエピソードなんて山程知ってるだろう。


「いえいえ、中学生のテルくんも格好良かったというお話ですよー!」


 と思いきや、六華はそんなことを言い出した。


「特に格好良かったのは、三年生の全中での県大会決勝! 残り五秒でパスを受け取ったら普通は焦ってすぐにシュートに行くところを、テルくんは冷静にワンフェイントを挟む! 完全に引っかかった相手を抜き去った後のシュートで、見事逆転優勝! いやぁ、漫画みたいで痺れる流れですねぇ」


 身振り手振りも交え、熱く語る。


「まるで見てきたかのような口ぶりだな……」


 実際、言ってること自体は事実だけど。


「いやぁ、峰岸さんがお話上手ですので! 臨場感たっぷりに、まるで舞台上の俳優さんみたいに語ってくれるのですよ!」


「あぁ……」


 その様がありありと想像出来て、微苦笑が浮かんだ。


「ちなみに、峰岸さんが語っている間はクラス中がオーディエンスになります」


「あぁ……」


 その様もありありと想像出来て、今度は半笑いが漏れる。


「他にも二年生の時の『東西宿命の対決』とか一年生の時の『ニシローランドゴリラ、ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ事件』とか、色々と聞いてますっ」


「それについては俺も初耳なんだが……」


 まぁ、峰岸がなんか適当に脚色して名付けてるんだろう。


 なんとなく、あれのことなんだろうなって想像はつくし。


「いやぁ、本当に峰岸さんの語るテルくんは……」


 そこで、六華は言葉を切って。


「格好いい、です」


 なぜか、俺にジト目を向けてきた。


「峰岸さんがそう思ってるからなんでしょうねー?」


 どうやら、またあらぬ誤解をしているらしい。


「峰岸が語ったら誰の話でも英雄みたいに格好良く感じるってだけだろ」


 なにせ、語り手が『王子』なんだからな。


「……そうですかねー?」


 六華の目から、疑わしげな色は消えない。


「つーか、俺の恥ずかしエピソードはホントに聞いてないのか?」


「そうですね、格好いいお話ばっかりですよ」


「……まぁ、考えてみれば人の恥ずかしい過去を勝手に人に話す奴でもないか」


「ほーん? へー? お互いのことをよーく理解し合ってらっしゃるんですねー?」


 ……なんか峰岸関連、六華の地雷多くない?


 ていうか、やっぱり未だに峰岸相手に嫉妬してるのか……。


「……俺の一番の理解者は六華だよ。今も、昔もな」


 少し照れくさかったけど、そう本心を伝える。


 以前の俺なら、こんなことをハッキリと口には出来なかったろう。

 俺にそんな資格はあるのか、って想いがブレーキをかけて。


 だけど、そういう後ろ向きなのはもうやめようと思う。


「……そう、ですか」


 んんっ……?

 なんだ、そのテンションの低いリアクション……あれか、ちょ、ちょっと流石にクサすぎたか……?


「あっはー! 何を当たり前のことを言っているのでしょう! この月本六華は、日本で唯一のテルくん検定一級の持ち主ですよ!」


 かと思えば一転、今度はドヤ顔で胸を張った。


 さっきのは、ただの溜めだったのか……?


「どこで発行されてるんだよ、その検定は……」


「天野家の皆さん(ただしテルくんを除く)によって合否が判定されます」


「微妙にリアルで嫌だな……」


 つい、苦笑してしまう。


「それで、六華の方は昔の俺のことを峰岸に話してるわけだ?」


 これ以上掘り下げてもしゃーないので、話を戻すことにした。


「いえ……それは、あんまり」


「ん? そうなのか?」


 てっきり、お互いが自分の知ってる俺の話をしてるんだと思ってたけど。


「まぁ、峰岸は俺の昔のことになんて興味はないか」


 だけど、これも考えてみれば当たり前の話だった。


「いえ、そんなことはないですよ。むしろ、凄く聞きたそうな雰囲気を感じます」


「そう……なの?」


 王族が庶民の暮らしに興味を持つ、みたいな感じなんだろうか。


「なら、別に話してくれもいいんだぞ?」


 正直、あまり振り返りたくない過去ではある。


 でもまぁ、六華なら俺が本当に話してほしくないところを語ったりはしないだろう。


「いえ、というよりも」


 と、六華は自身の胸に手を当てる。


「テルくんとの思い出は、私の胸だけにしまっておきたいので」


 それから、ふわりと微笑んだ。


 それは、昔を思い出す穏やかなもので。


「っ……」


 思わず、顔を逸らしてしまった。


「おま、急にそういうのは反則だろ……」


「? そういうの、とは?」


 視界の端に、六華のキョトンとした表情が見える。


「その……そういう、可愛いの」


「ふぇっ!?」


 だけど俺が本心を伝えると、明らかに動揺した様子を見せた。


 こういうのも、今まではあんまり伝えてこなかったからな……。


「あ、えと、その………………ありがとうございます?」


 どう返せばいいのかわからなかったんだろう。


 六華は、赤くなった顔を少し俯けながらなぜか礼を言ってきた。


「いや、その……」


 そして、俺もそれに対してどう返せばいいのかわからない。


「………………」


「………………」


 結果、お互いにもじもじと顔を背けたまま謎の沈黙が流れた。


「あっ、えっと、てことは、アレなんだな」


 その気まずさを打破すべく、適当に何か話題を……。


「峰岸と話す時は、専ら六華が聞き手って感じなのか?」


「そうですね、そんな感じです」


 どうにか会話が繋がって、六華もちょっとホッしているように見える。


 あと、これで謎も解けたな。


 いかな六華といえど、聞き手に徹すればこのテンションも発揮はしきれないだろう。

 それが、峰岸のあの印象を生んでたってわけだ。


 納得納得。

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