第14話 幼馴染と向き合おう④
とある休日。
俺は、久々に一人で街に出ていた。
基本的に休日は六華と一緒にいることが多いけど、全部が全部ってわけでもない。
つーか、思えば今までこんな時間なんてなかったよな……小学生以前は大概六華と一緒だったし、中学時代は部活一色、高校生になったらまた六華と……って。
「ん……? あそこにいるの、六華か……?」
前方、待ち合わせスポットしてよく使われる謎のオブジェの前で所在なさげに立っている六華を見つけて思わず呟く。
友達と待ち合わせ中かな? 邪魔しちゃ悪いし、ここは見なかったことにして……。
「……む」
踵を返す直前、六華に近づいていく二人組の男が見えて思わず呻く。
たぶん、
そう思って、足早に六華の方へ。
僅差だったけど、ギリで男たちより先に辿り着くことが出来た。
「よぅ、待ったか?」
さも待ち合わせ相手かのように振る舞うと、男たちは舌打ちして去っていく。
よし、セーフ……。
「……?」
俺が密かに安堵する中、六華が不思議そうな表情で顔を上げて。
「ぴぁぅ!?」
なぜか、俺の顔を見た瞬間に奇声を上げた。
「て、てる、てるてるてるテルくんくん!?」
「DJのスクラッチか?」
よくわからんけど、なんか驚かせてしまったらしい。
「なんでここに!?」
「あー……驚かせて悪い。今、たまたま見かけて……」
一応、状況を説明しようとしたところで。
「ごめん、その子は私の連れなんだ。今回は遠慮してもらえないかな?」
そんな声と共に、後ろから肩を叩かれた。
「ん……?」
「あれ……?」
振り返ると、そこで意外そうに片眉を上げているのは峰岸。
「なんだ、天野だったのか。これは失礼」
と、片手を手刀状にして謝意を示してくる。
「いや、別にいいんだけどさ。今日、六華と待ち合わせって峰岸?」
「うん、そうだよ」
なるほど。
てことは、余計な手出しだったな。
さっきの感じ、俺が行かなくとも『王子』が見事に撃退してくれていたことだろう。
まぁ、その前に六華が普通に断るかもしれないけど。
「そりゃ悪い、デートのお邪魔をしちまったな」
「あっ、やっ、違っ……!」
冗談めかして肩をすくめると、大慌てで六華がブンブン首を横に振る。
「いや、わかってるって……冗談だから、そんな焦って否定しなくても」
まぁ確かに、『王子』相手だと若干洒落になってなかったか……?
「そうそう、君の王子様はもう決まってるみたいだしね」
と、峰岸はウインク一つ。
いちいち絵になる奴め……。
「端から見りゃ、王子様とお姫様とお付きの者である俺って感じだと思うけどな」
自然、苦笑が浮かぶ。
そして、こんなことを言うとたぶん六華は「そんな、お姫様だなんて……テルくん、なかなか良いことを言いますねぇ!」ってな感じで……。
「あうあうあう……」
来るかと思ったんだけど……コイツ、なんでさっきからずっとテンパってんの……?
「六華、マジで俺は誤解とかしてないからな? 峰岸相手に……つーか誰と出掛けてようと、お前の気持ちを疑うつもりなんて微塵もない」
「あ、あう……」
念のため心からの言葉を伝えると、六華は顔を赤くして俯いてしまった。
峰岸の前でこういうこと言うのはだいぶ恥ずかしいけど……これからは、ちゃんと前向きに向き合おうって決めたからな。
あぁ、峰岸といえば……。
「そういえば、峰岸……峰岸?」
「………………」
振り返ると、峰岸はポカンとした表情でこちらを見ていた。
珍しい、ちょっと間の抜けた感じの顔だ。
「どうかしたか……?」
「あぁ、いや、その……」
問いかけると、ようやくハッと我を取り戻した様子。
言葉を探すかのように、視線を左右に彷徨わせて。
「本当に付き合っているんだな、と思ってさ」
どこか困惑が混じったような表情で、そう口にする。
前にも言った通り、付き合ってはないんだけどな……その、今はまだ。
「キミが意外と情熱的なもので、驚いていたんだよ。うん、なんだか新鮮というか……胸がムズムズするような、妙な気分だね」
微苦笑を浮かべて、自らの胸を押さえる峰岸。
「悪かったな……」
似合わないことしてるのはわかってるよ。
「ははっ、悪いとは言ってないよ。ところで、さっき何か言いかけてなかった?」
「あぁ、うん。峰岸、今日部活は?」
「先輩方が今日、遠征でね。一年は午前で練習終了なんだ」
「なるほどな」
「それで、せっかくだからと思ってさ。月本さんに前から頼まれていた通り、中学時代のキミの好みを反映させた服選びを……」
「わわわっ! 峰岸さん、それは……!」
「っと、失礼。本人の前で言うことじゃなかったね」
まぁ、もうほとんど言っちゃってたけどな……。
「あの、えっ、と……」
六華は、なぜかオロオロとした様子で俺と峰岸の顔を交互に見る。
「んっ……!」
それから、気合いでも入れるかのように口を引き結んだ。
「突如猛烈な尿意が襲ってきましたので、ちょーっとお手洗い失礼しますねっ!」
次いで横にしたピースサインを右目の前に持ってくるという恒例の謎ポーズを取ったかと思えば、猛然と走り去ってしまった。
『……?』
俺と峰岸は、疑問符混じりにそれを見送る。
「彼女、どうしたの……?」
「だから、猛烈な尿意に襲われたんじゃないのか……?」
本人がそう言っていた以上、俺にはそうとしか返せない。
「そういうことじゃなくてさ、今の……」
峰岸は、六華の去って行った方を指差して。
「……いや」
思い直したかのように、首を横に振った。
「キミに言うのは良くない案件なのかもね」
「……?」
何かを察した様子だけど、どういうことだ……?
この人、鋭いんだけど鋭すぎて常人には考えが読めないことが多々あるんだよな……。
「時に、キミはどうしてここに?」
もう、今の話は終わりってことらしい。
別にいいけどさ……。
「この辺りをブラブラしてたんだけどな? たまたま六華を見つけて、そしたらそこに近づこうとしてる奴らがいたからさ」
「なるほど、ナイトの登場に至ったというわけだ」
「ま、王子がいるなら不要だったわけだけどな」
「そんなことはないさ。月本さんも、私に助けられるよりキミに助けられる方が嬉しいに決まってるじゃない」
「そう……か?」
いやまぁ俺としてもそう思いたいところなんだけど、さっきのリアクション的に怪しいよな……。
つーか、今の一連の流れはマジで何だったんだ……?
新たな芸風でも模索してるんだろうか……?
「まぁいいや。今日は六華のこと、頼んだぜ」
だから、俺はどういう立場でこれ言ってんだろうな……。
「心得た」
だけど疑問に思った様子もなく、峰岸は芝居がかった仕草で一礼してくれた。
普通に考えれば、美少女が二人ともなればナンパの食いつきも倍以上になるところだ。
でも、そこはこの『王子』。
姫との時間を邪魔するべからずってオーラを周囲が勝手に感じ取って、むしろナンパ避けになる……らしい。
まぁ六華も峰岸もナンパなんて慣れっこだろうし、対応は心得たもんだろう。
「んじゃ、俺は行くわ」
「うん、また学校で」
さしたる不安もなく、峰岸と片手を上げ合って別れる。
さっきの六華の様子は気になったけど……ま、普段からあのテンションだ。たまには調子が狂う時だってあるんだろう。
そう考えて、納得しておくことにした。
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