第15話 幼馴染と向き合おう⑤
街で六華と峰岸に会った翌日、学校にて。
それは、別段確固たる意思を伴っての行動ってわけではなかった。
先生からの頼まれ事で職員室に行った帰り、ふと思っただけに過ぎない。
(そういや、十組ってこの上か)
六華のクラス。
そちらに足を向けてみたのも、ただの気まぐれに過ぎない。
「そういえば、月本さんさ」
ちょうど十組の前を通りかかったところでそんな声が聞こえてきて、思わず足が止まった。
隠れるような格好でそっと中を窺ったことにも、特に意味はない。
なんとなく他クラスを堂々と覗き見るのが気まずかっただけだ。
「天野と付き合ってるんだよね?」
今話しているのは、峰岸だった。
「あっ、やっぱりそうなんだー」
「まぁそうなんだろうなって思ってたよ」
「ウチの中学じゃ、狙ってる子も多かったんだけどねー。月本さんレベルじゃないと無理だったかー。そりゃ全員玉砕もするわ」
他に女子が三人いて、六華が囲まれているような形。
俺としては、「いやぁ、ラブラブカップルっぷりがこんなところにまで伝わっているだなんて少し照れますねー!」とかって感じの返しを想像したんだけど。
「ううん、付き合ってないよ」
六華は、控えめな笑みと共にそう答えただけだった。
声量も小さめで、たまたま出入り口に近いところで話していなければ俺には聞こえなかったかもしれない。
なんだ……?
やっぱり、峰岸相手だと大人しめなのか……?
つーかテンションはともかくとして、なんで敬語まで外れてるんだ……?
………………んんっ?
なんだろう、この違和感というか……胸がざわざわする感じ。
「んー、確かに天野も付き合ってないとは言ってたけど……」
「あっ、わかった! じゃあ、付き合う直前って感じだ? 一番いい時期じゃん!」
「それも……違う、かな」
六華は、他の女子と話す時も同じ調子だ。
峰岸の前だから?
奇妙な確信が胸にある。
「えー? でも、いっつも校門前で天野くんと待ち合わせしてるよね?」
「あれは、私が勝手に待ってるだけだし……」
「天野くんが待ってる時もあるじゃん? それに、文句言われたりしてないんだったら絶対向こうも好意持ってるっしょ」
「どうだろう……テルくんは、優しいから」
「ほらもー、『テルくん』って呼び方がもう彼氏に対するものじゃん!」
「昔っからそう呼んでるからってだけだよ」
俺は、
「えー? それってもしかして、昔っからキープされてるってことじゃ……」
「違うよ」
「え……?」
「テルくんは、そんな人じゃないよ」
そして、その事実を認識した瞬間。
俺の胸に走った衝撃は、とてつもないものだった。
「お、おぅ……急になんか笑顔が怖くなったような……いや、まぁ、そうだよね。今のはウチが悪かったよ、ごめん。好きな人を悪く言われたら、いい気しないよね」
「そ、そんな、好きな人だなんて……」
「そこは照れるんだ……」
「ははっ、可愛い人だね」
なんて会話が、徐々に遠ざかっていく。
俺が、教室から離れているから。
目眩を感じて、廊下の壁に手を付く。
その体勢のまま、考えた。
今のは……誰だ?
まぁ、その、わかってはいる。
当たり前だ。
あれは、月本六華だ。
……いや。
昔の六華のまま……では、決してない。
俺の知るかつての六華だったら、あんなにスムーズな受け答えは出来なかった。
というか、四人に囲まれた時点でテンパって俺の背中に隠れていただろう。
だけど……控えめな態度に抑揚少なめの声、なのに妙なところで頑な。
それは、かつての六華の延長線上としてこの上なく納得感のある姿だった。
翻って。
再会してからの六華に対しては、ずっと疑問を感じていた。
どうにも、あの頃の姿から繋がる道筋が想像出来なかったから。
かつて共に過ごした時間が、再会してから積み重ねた時間が、直感させる。
今見た六華が、素の六華なんだと。
なら、俺が接してきた六華は。
なぜ、そんなことをしているのか。
何が、そうさせたのか。
誰の、せいなのか。
そんなことは、考えるまでもない。
嗚呼、であるならば。
俺は──
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