第29話 幼馴染と王子とどっち

 ──これは、三人での・・・・デートの提案だよ


 そんな峰岸の提案を(主に六華が)受けての、翌日。


「やぁやぁ、テスト前にご機嫌ようですテルくん!」


「テスト前は基本的にご機嫌じゃねぇんだよなぁ……」


 待ち合わせ場所に一番乗りしていた俺は、次に来た六華とそんなやり取りを交わす。


「おっとぅ? もしかして、テスト前ブルーな感じですかっ? そういう時こそ、六華ちゃん家庭教師はいかがですっ? 雇用することで、盛り上がること間違いなしですよ! なお、変な意味ではありませんから勘違いしないように! ……あっ、間違いました! へ、変な意味じゃないんだから勘違いしないでよねっ!」


「あの、六華……」


「おやおや? 即座にツッコミが来ないとは……本当にテンション低めだったりします? それとも、私にツッコミを入れるのはもう飽きちゃったとでもっ? あれだけ日々色々と突っ込んでおきながらっ」


「いや、その、六華……後ろ……」


「後ろ……?」


 俺の人差し指の先を追って、六華が振り返る。


 すると、そこには。


「ふっ……あははっ」


 今まで堪えていたのが決壊したらしい、破顔する峰岸の姿があった。


「み、峰岸さん!? いつの間に……!?」


「さっきからずっといたんだよなぁ……」


 俺の姿を見つけた瞬間に駆け寄ってきた六華のすぐ後ろを、峰岸がゆったりと歩いてきていた形である。


「あぅあぅ……」


 峰岸の存在を認めて顔を真っ赤にした六華は、口をパクパクさせていた。


「聞いてはいたけど、思ったより愉快な人なんだねぇ月本さんって」


「聞いてはいた……?」


 そんな六華を眺めて満足げに笑みを深める峰岸の言葉に、俺は小さく眉根を寄せる。


 これまでの状況から推察するに、この・・六華を見たことがあるのは恐らく俺だけ。

 俺が峰岸の前で直接的に六華のキャラに言及したことはないはずなので、そうなってくると当然……。


「……流石に、当日いきなりこのテンションを晒すと驚かせてしまいますので。昨日の段階で、こっち・・・の私の感じはお伝えしておきました」


 疑問の目を向けると、未だ顔の赤い六華は視線を逸らしながらモニョモニョとそう説明する。


「しかし、逆に!」


 かと思えば、カッと見開いた目をこちらに向けてきた。


「逆に、もう踏ん切りがつきましたよねっ! 一度見られた以上は、もう何度見られたって一緒! そう、好きな人に裸体を見られた時のように! って、テルくん! なんてことを言うんですか! 女の子の裸は、そんな安いものではないのですよっ!」


「発言する隙を与えず捏造するのやめてもらえる?」


 いや、じゃなくて。


 これまでの話を総合すると……六華は今日、最初から峰岸の前でもこっち・・・でいくつもりだったってことか。

 まぁ確かに、三人で過ごす以上はどっちかに統一する必要はあったんだろうけども。


「……普段のテンションの方に揃えるって手はなかったのか?」


「それは……だって……」


 俺が疑問をぶつけると、六華は少し赤くなった顔を伏せる。


こっち・・・の私じゃ、消極的なアプローチしか出来ないだろうから……」


 そんな風にモジモジする様は昔を思い出して、なんとも可愛……。


「ふふっ、可愛いね」


 ……今のは、俺ではなくて。


「み、峰岸さんっ!?」


「……峰岸さん?」


 今度のは前者が六華で、後者が俺の声だ。

 六華はますます顔を赤くして、俺の方は半眼を峰岸に向けて。


 何しろ峰岸はといえば六華の顎に手を添えて、その顔を覗き込むようにしながら目を細めていたのだから。


「おっと、失礼」


 俺たちの反応に、峰岸は慌て……た様子もなく、優雅にスッと六華から手を離した。


「月本さんがあまりに可愛くてつい、ね」


 と、ウインク一つ。

 この仕草……流石の『王子』過ぎるな……思わず俺も乙女になるかと思ったわ……。


 ていうか峰岸、これどっちかっていうと六華の方を落としにかかってない……?

 俺、実は警戒の方向性間違ってたりする……?


「あぁ、勘違いしないでね? 私は、男性のことが好きみたいだから。最近気付いたんだけど、ね?」


 と、今度はこちらにウインクを向けてくる峰岸。

 冗談めかしてはいるけど、冗談ではない……ん、だよな……未だに信じがたいけれど。


「さて、それはそうと」


 こちらを動揺させるだけさせておいて、当の峰岸は涼しい顔でポンと手を打つ。


「せっかくの休日に集まったんだし、早速どこかに遊びに行こうよ」


 なるほど、建設的な意見である。


「でも、デート……というか、誰かと遊ぶ時ってどういうところに行くのが普通なのかな? 恥ずかしながら、こういうことには疎くって。何しろ、ずっとバスケ浸けの生活だったから」


 と、はにかみながらこちらに視線を向けてくる峰岸だけれど。


「いや、俺も中学からは部活一筋だったから……」


 そして、小学校以前となると一緒に遊んでいたのは六華とばかりで。

 野山や海辺を駆け回り……というのは、流石にこの場面で参考にはならないだろう。


「何を隠そう、私も似たようなものでしてー……」


 六華も気まずげな苦笑を浮かべている。

 聞く限り六華も中学時代は部活に打ち込んでたみたいだし、小学校以前は言わずもがなだもんな……。


「あー、っと」


 そうは言っても、少なくとも俺に関して言えば中学時代に友人と遊んだ経験がゼロってわけでもない。


「とりあえず、あそこに行くってのはどうだろう?」


 その数少ない経験を元に、俺が提案したのは──





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幼馴染をフッたら180度キャラがズレた はむばね @hamubane

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