第12話 幼馴染と向き合おう②
高校生活……それから、六華と過ごす日々にも慣れ始めた頃。
「なぁ、天野。ちょっと話があんだけどさ」
連れションからの帰り、鈴木がふとした調子でそんなことを言ってきた。
「なんだよ、改まって」
珍しく妙に真面目くさった顔に見えて、俺もちょっと身構える。
「月本さんと付き合ってること、やっぱ王子には言っといた方がいいんじゃね?」
だから、続いた言葉に何とも微妙な表情を浮かべてしまった。
「いや、わかる! お前の言いたいこともわかるよ!」
俺が何か言う前に、鈴木が手の平を突き出してくる。
「彼女が出来たからバスケ部にゃ入りません、はあんだけ熱心に誘ってくれてる王子には言いにくいよな! けど、それを隠してる方が不誠実なんじゃないかっ?」
まぁ確かに、事情を伏せている現状について不誠実だとは思ってるけども……。
「まして、王子は月本さんと友人関係でもある! だからこそ言いにくいってのもあるのかもしんけど、やっぱ付き合ってるってことは言うべきだと思うんだよ! 変なとこから漏れ聞くよりは、お前から直接聞いた方がまだ……」
「いや、あのな……俺と六華は……」
凄い捲し立ててくる鈴木相手に、とりあえず否定の言葉を返そうとしたところ。
「へぇ? 天野って月本さんと付き合ってるんだ?」
『うぉわっ!?』
後ろから美形が俺たちの間に割り込んできて、揃って声を上げてしまった。
だから近ぇんだよ!?
「ごめんごめん、驚かせちゃった?」
顔を引きながら、峰岸はイタズラっぽく笑う。
「っと、それより水臭いじゃない天野」
それから、少し眉根を寄せた。
「というかそういう意味では、月本さんも水臭いよねぇ。私、これでも結構仲良くさせてもらっているつもりだったんだけどなぁ。こんな重要なこと話してくれてないなんて」
次いで、少し悲しげな表情となる。
「や、じゃなくて、俺ら付き合ってねぇから」
そんな顔をさせるのも忍びなく、慌て気味に否定した。
「ん、そうなの?」
「お前、まだそんなこと言ってんの?」
目をパチクリと瞬かせる峰岸と、呆れ顔になる鈴木。
「放課後はいっつも校門で待ち合わせてどっか行ってるし、休日一緒にいるのを見かけたって目撃談も結構聞くぜ? これを付き合ってると言わずして、何と言うんだっての」
「あぁ、それは完全に付き合ってるねぇ」
「まぁ……」
客観的に見て、否定しづらいところではある。
「おめでとう、天野。お幸せにね」
そして、王子スマイルで言われるとますます否定しづらい……。
「……王子的には、そのリアクションでいいわけ?」
「うん? 流石に、これ以上の祝福の言葉は過剰だと思うんだけど」
「そうじゃなくて……」
「……?」
言葉を濁す鈴木に、峰岸は何を言いたいのかわからない様子。
「あのな、前から言ってるだろ? 俺と峰岸は、
「……あぁ、なるほど?」
けれど、俺の言葉でようやくピンと来たみたいだ。
「天野の言う通りだよ。私は天野に対して恋愛感情なんて抱いてないし、もちろん天野もまた然り。純然たる友人関係さ。ねっ?」
「そういうことだ」
「……あっそ」
鈴木は、小さく言ってプイと顔を逸らす。
コイツ、さては俺と峰岸がそういう関係だった方が面白いとか思ってやがるな……?
「そんなことより、月本さんだよ」
笑顔を戻して、峰岸はパンと手を鳴らした。
「いいよねぇ、月本さん。正直に言えば、最初はもっと軽い感じの子かと思ったんだけど……品があって、だけどユーモアにも富んでいてさ」
ユーモアはともかく、品はあまりないと思うんだが……?
「ははっ……やかましい奴だろ?」
「? いや、むしろ物静かな印象の方が強いけれど?」
「?」
お互い、顔に疑問を浮かべ合う。
峰岸にとっては、六華でさえも静かな子猫ちゃんってことか?
それとも、流石の六華も、『王子』の前だとあのテンションを発揮出来てないってことなんだろうか。
まぁ峰岸、こっちから距離を詰めれば詰めるほど向こうからも詰めてくる傾向にあるからな……六華に対しては相性勝ちってところか。
いや、何が勝ちなのかわからんけど。
「それに、身持ちもしっかりしてるよね。ウチの結構女子人気がある先輩がちょっかい出したこともあるみたいだけど、取り付く島もなかったって聞いてるよ。それも、キミってお相手がいたからなんだねぇ」
これに関しては、『結構女子人気がある先輩』とやらよりも『王子』と一定以上接した上で特に何もないという事実の方が身持ちの固さを証明しているような気がしなくもない。
「月本さんが変な男に引っかかったりしたら、物申すことも辞さない覚悟だったけど……天野なら安心だよ。凄くお似合いだしね」
「そう……かぁ?」
かなり懐疑的な声が漏れた。
実際、俺と六華じゃ釣り合ってる気がしないからな……。
「ははっ、何を謙遜してるのさ。キミだって十分魅力的なんだから自信を持って」
『王子』に言われると、根拠もなく信じちゃいそうになるけど……流石に、そう簡単にこの価値観は払拭されはしない。
「いやぁ、良いことを聞いたなぁ。めでたいめでたい」
言いたいことだけ言って、峰岸は自分の教室の方へと去っていった。
……にしても、峰岸と六華か。
今まであんまり気にしたことなかったけど、考えてみればどんなこと話してんのか想像つかねぇな。
「……あれ?」
と、そこまで考えてふと気付いた。
そういえば……俺、峰岸と話してるとこどころか一回も校内で六華を見たことなくね?
まぁ正直、学校でまでグイグイ来られても困るところだからありがたいところではあるんだけど。
たぶん、六華もそう思って気を使ってくれてるんだろうな。
その辺りの気配りりは昔と変わってないってのは、何度も実感してることだし。
ただ……そうなってくると、ちょっと興味が湧き上がってくるのも事実だった。
学校じゃ、六華はどんな風に過ごしてるんだろうか?
特に、峰岸との会話がどんな感じかってのは割と気になるなぁ……。
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