第24話 旅の電車は静かに揺れる


 電車に乗ること数時間。

 途中の駅でおにぎりを購入し朝ごはんにしたり、乗り換えを間違えそうになったりと色々あったが、何とかあと少しで目的地へ到着するらしい。

 ガタンゴトンと揺れる電車内に人は少なく、早起きしたこもあってか睡魔が襲う。


「見てこれ可愛くない?」

「インスタに載せてたやつよね? どこのやつだっけ?」


 対角に並んで座る女子たちはキャッキャウフフと写真を見せ合っているらしい。女子高生は元気だなぁ。隣の斎藤も外の景色をパシャパシャ撮影しているので元気度で言ったら負けていないけど。

 しかしあれだな。女性陣は全員見た目が良い上に外の景色も相まって、一枚の絵画のようだ。

 

「見てこの人。絶対整形したよねー」

「あー、これはしてるな」

「してるね~」


 会話は奇麗じゃないけど。

 でも女子って整形に敏感だよな。泉と母さんも芸能人の整形に直ぐ気が付くし。


「そういえばクラスで遊びに行った日には、皆いなかったな」

「あー、グループで言ってたやつか」

「あったわね、そんな話」


 ナニソレオレシラナイ。

 斎藤が言い出したその言葉にハテナを浮かべるが、俺以外はそうではないらしい。 


「その日わたし達は三人で遊び行ってたんだよねー」

「私も鈴ちゃんと遊んでたんだ」


 森川さんの本名は森川鈴音もりかわすずねだ。お互いを渾名で呼び合っている様はクラスを和ませるほどに微笑ましい。

 しかしあるとは思っていたけどやっぱり存在するのかクラスのチャットグループ。

 一学期も終わり夏休みに入ったこの時期に今更入りたいとは思わないけどな。入ったとしても誰も返信をくれないか、俺のいないグループを別で作ってそっちで陰口大会が行われる未来が見えるし。


「相馬君は何してたの?」


 色素の薄い長い髪を揺らしながら白波さんは聞いてきた。

 

「普通だよ。映画見たり、ゲームしたり、本読んだり」

「想像通りだー」


 うーんこの笑い方には悪意がありますね、わかります。

 まぁ後は恋伊瑞と原宿に行ったくらいだし嘘はついていない。


「普通ではないからね……。相馬って同じ年齢の人たちと旅行なんて初めてでしょ」

「憐みの視線を向けてるとこ悪いけどな恋伊瑞。俺だってそれくらいしたことある」

「えー、相馬君にも友達居る頃があったんだ」

「そうだったのね。ごめん相馬、馬鹿にして」

「いや、あの……修学旅行、とかね……?」


 そ、そんな目で見ないでよ!

 しかも修学旅行では合計百文字も喋ってないと思う。


「そんなことより大富豪でもやらない? 暇だしさ」

「お、いいね」

「さんせ~い」


 俺のトラウマをそんな事呼ばわりした杏奈さんの提案に、全員意欲的に参加表明をする。


「じゃあこのアプリインストールしてね」


 すると、海の家グループチャットに『大富豪』と書かれたアプリのURLが白波さんから送られてきた。

 大富豪か。ここだけの話、俺は大富豪には自信がある。数々のNPCとの戦いは今日この日のためにあったのかもしれない。

 サクっとインストールを完了しアプリを起動。

 戦いの火蓋が切って落とされた。


「湊が大貧民だなー」

「期待を裏切らないなー相馬君は」


 いや待ってほしい。

 斎藤と白波さんに言われたことを否定する気はないけど、これには理由がある。

 それは――


「あ、ちょっと待って! えっとえっと。そ、相馬君は二なんて持ってないよね!? そうだよね!?」


 椎名さんが可愛すぎる。

 俺の前にカードを出す椎名さんは、後半になると何故か毎回俺に確認をしてくるのだ。

 こんなこと言われたらカードを通すしか出来ないだろ!


「よかったぁ。あ、相馬君また大貧民だね。次は頑張って!」

「……うん、そうだね」

「ほんと馬鹿ね……」

 

 恋伊瑞の呟きに睨みを入れるが、睨み返されたことで目をそらす。忘れてた、あいつ意外と怖いんだった。


「時間的に次がラストかな。最後だしなんか罰ゲーム付ける?」


 なんか悪魔みたいなこと杏奈さんが言い出した。

 

「じゃあ大富豪が大貧民になんでも一つ命令出来るっていうのは?」


 なんでも!? なんでもって言うのは、つまりなんでもということなんでしょうか……。

 そんなことを考えている俺に、提案者である白波さんは二ヤっと笑うと。

 

「相馬君、変なこと考えちゃダメだよ?」

「え、冤罪だ! 俺が常日頃からそういうことを考えてるみたいな言い方は止めてくれ!」


 隣には斎藤だっているのに何で全員俺を見てくるのだろうか。

 俺だってそれ以外のことを考えていることだってあるのに。日本のこれからとか、自分の将来とか、世界平和とか。うーん、明るい未来は来るんですかね。

 

「じゃあ決まりだね」

「いいわよ」

「いいよ」

「いいよ~」


 意外にも女性陣はやる気なようで、メラメラと燃えているようにも見えた。

 これまでの大富豪は椎名さんのこともあって実力が出せなかったが、罰ゲームがあるというのなら話が変わる。

 一位になりたい訳ではないが、ビリだけは絶対に避けたい。

 椎名さんと白波さんは何を命令してくるか不安だし、杏奈さんは海で十分間潜れとか言ってきそうだからな。恋伊瑞はどうなんだろうか。無茶なことは言ってこないと思うが、いかんせん予想できない。

 安心なのは森川さんか斎藤か? 斎藤は安心という信頼があるが、森川さんは接点が無さ過ぎてわからない。

 まぁとはいえ大貧民にならなければ関係ないのだ。

 ごめん椎名さん、ここからは本気で行くからね。


「じゃあ大貧民は相馬君だね。おめでとう」


 ただでさえ不安な旅行に、更に腹を痛める問題が重なってしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る