第42話 回りだす思い
ジェットコースターから降りると、足元がふらふらともたついた。回っている時には感じなかった重力が戻ったような感覚がして少し気持ちが悪い。
それは大和も同じなようで、二人してよたよたと歩く。
「情けないわねー」
「ですねー。超楽しかったのに」
それに比べて女性陣は元気一杯、むしろやっと興が乗ってきたとでも言いたげであった。
元気すぎるでしょ君たち……。
しかしこの二人は遊び慣れているので理解は出来るが、大和がグロッキーになっているのは予想外だ。
恋伊瑞の弟というだけあり顔は凄く整っており、カッコよさの中に可愛さもある。つまりは陽キャだと思っていたが、実は違うとか?
「大和はこういうの慣れてないの?」
「いやジェットコースターは平気なんすけど……」
気になって聞いてみると、少し言いよどむ。
そして照れているのか頬を搔きながら。
「相馬さんが隣にいるって思ったら緊張で吐きそうでした」
「あいつの兄によくそんなこと言えるな……」
こいつ陽キャだわ。俺が泉を守らねば。
「次あれ行きましょうよー!」
泉は軽くジャンプしながら次なるアトラクションを指さした。てか動作可愛いから止めなさい。大和が惚けちゃってるでしょ!
泉が指さした先には大きな円がそびえ立っている。
「観覧車か」
「この観覧車八十メートルあるんだって!」
「へぇー」
ジェットコースターに揺られている時は全然見られなかったが、やはり下から見てみると大きい。
八十メートルってことは新劇場版のエヴ〇と同じ大きさかー。
そんなことを考えながら列に並んでいると、いつのまにか先頭になっていた。
「ではお入り下さーい!」
観覧車担当の係員に言われると、ここでもまた泉が先導する。
「じゃあ泉と大和君で先に行くね! 行くよ大和君!」
「え!? う、うん!」
「頑張ってねお兄ちゃん!」
何を頑張れと言うのだろうか。
観覧車の中に入っていった二人は、ゆっくりと上昇してく。
妹が男と密室で二人きりというのは心配になるのだが、まぁ大和なら変なことはしないだろう。
「高いな」
「……み、みたいね」
答えた恋伊瑞はどこか落ち着きがない。不思議に思い顔を見てみると、ふいっと逸らされる。
「どうした?」
「……なにが?」
ジェットコースターの時とのテンションの変わりように、一つの疑念が生まれた。
「もしかしてだけどさ」
「……」
「お前、観覧車苦手?」
俺の言葉に体をビクッと跳ねさせると、一度は俺の顔を睨むも、そのまま横にスーと顔を動かし。
「別に」
それは否定のように見える肯定だろって……。
ジェットコースターは平気で観覧車はダメってどういうことなのだろうか。
「そういうのは先に言えって。戻るぞ」
「へ、平気だってば!」
「いや平気って。強がることじゃないだろ別に。苦手なら止めとけって」
「本当に大丈夫!」
その言葉はただ強がっているだけではないと言っているようであった。
「昔は無理だったけど今はもう高校生だし」
「いやお前」
「それに、思い出じゃない。こういうのって」
そう言われてしまうと黙るしかなくなる。
わざわざ辛い思いをしてまで残したい思い出など欲しいものなのかと疑問に思ったが、それを止める権利は俺にはなかった。
そんな不合理に思える考えも、彼女なりの何かがあるのだろう。
俺の考えが彼女に分からないように、彼女の考えも俺には分からないのだから。
だから今俺に出来るのは、そんな思いを尊重することぐらいだ。
「本当に無理だったら目瞑っとけよ」
「うん。ありがと相馬」
とは言ったものの、やはり恐怖には勝てないようで手が震えている。
入る前からそんなんで本当に大丈夫か……?
「まぁなに。落ちるわけじゃないしさ、気楽にな」
「そうね」
少しでも恋伊瑞の負担を減らせるように、微々たる慰めであるが口にする。
「……落ちないわよね?」
「少なくとも俺は聞いたことないから大丈夫だ」
本当に苦手なんですね……。
どうやら俺たちの会話を待っててくれたらしい係りの人は優しい笑顔で観覧車の扉を開ける。
待たせてごめんなさい!
俺が先に乗り、その後に恋伊瑞も乗り込むと、お互いに対面で座りあう。
「それでは行ってらっしゃーい!」
元気な言葉を聞きながら、二人を乗せた観覧車は回り始めた。
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