第49話 クジ引き
文化祭マジックという言葉がある。
イベントの熱に浮かされて男女の付き合う確率が上がるという眉唾ものの話だが、これはなかなかどうして否定出来ない。
「私たち文化祭から付き合いだしました!」とかよく耳に入ってたしね。そしてクリスマス前に別れるまでがワンセット。
まぁ別れるのは本当に祭りの熱に冒された青春ジャンキーだけなので、そんなのは別れて当然だ。
そうではなく、今まで募った想いを文化祭という非日常溢れるシュチュエーションで告白するのはありだろう。
そこまでいかないとしても、文化祭で杏奈さんと斎藤が更に仲良くなるきっかけ作りは出来るはずだ。
恋愛は孤独の戦い。
背中を押してくれる友達がいても、応援してくれる仲間がいても、行動するときに勇気を出すのは自分自身だ。そこに他人の介入は出来ない。
がんばれよ杏奈さん!
俺は心の中で、彼女にエールを送った。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「うそん……」
目を見開き絶句する。しかし何度瞬きしても、その事実は変わることがないと悟る。
黒板に書かれた『文化祭実行委員 相馬湊』の文字。
杏奈さんにエールとか送っている場合ではなかった。
文化祭HRで実行委員を決めることになったのだが、もちろん誰も立候補などしない。
それでは話が進まないのでと、担任が提案したのがクジ引きだった。
俺には関係ないと高をくくっていたのが祟ったのか、気づかぬ内に実行委員にされてしまったのだ。
「よし! それじゃあ相馬、頼んだぞ!」
笑いながら言う担任、その姿を殴りたいと思っても罰は当たらないだろう。
いや頼んだとか言われましても……。
この担任は知らないのか、陰キャと陽キャの絶対なる差を。
もし陽キャなら何をやっても笑いが起こり、なんだかんだで話が進んで、結果的になんかいい感じになる。
しかし陰キャの場合は何も起こらない。
良いやつが話をまとめてくれたとしても、残るのは「あいつ何もしなかったよね、マジなんなの?」と陰口を言われる結果だけだ。陰口を言うなら陰で言ってください! 聞こえる陰口はただの暴力なんですよ!
出来れば他の奴に押し付けたいが、それもスクールカーストが高くなければ許されない。くそっ、俺にもっと地位があれば!
担任に前で司会を務めろと命令されたので、泣きそうになりながら前に出る。
もう嫌だ、死にたい。てか帰りたい。
しかし当然と言えば当然か、教壇の前に立っても俺を見ているクラスメイトなんて少数であった。横の奴と喋ったりしていてこっちを見ていない。
しかしその安堵も束の間、この
「じゃあ相馬。次は女子の実行委員を決めてくれ」
何故俺が……?
てっきり俺みたいにクジ引きで決まるものかと思っていたのに。
「えっと、クジ引きなんじゃ」
「最初の一人はな。あとは生徒の自主性に任せるよ」
なら俺の自主性も汲んでもらいたい。辞めたいです!
とは言えないのが日本人特有の空気読みなのだろうか。
「えーと、その」
「緊張してるのか? しょうがないな。おーい、女子で実行委員やってくれる奴はいないかー?」
担任が呼びかけるが、もちろん誰からの反応はなし。
「いないのかー? みんなで楽しめる文化祭を作り上げる、やりがいがある仕事だぞー」
先生、俺楽しめてないです……。みんなの中に俺がいないのは慣れているが、さすがにこれは泣きそうです。
「せんせー、男でもいいなら俺やりますよ!」
手を挙げたのは斎藤だった。
「いや決まりで男子は一人になってるんだ。それにお前は体育祭実行委員だったしな」
「あー、そっか」
斎藤は俺に向かってジェスチャーで手を合わせる。
やだイケメン……あいつ良い奴すぎるだろ……! ありがとう斎藤、少しだけ心が救われたよ。
そして心を救ってくれたもう一人。
恋伊瑞は俺が前に立った時から手を挙げるかどうか迷っていた。胸くらいまで手を挙げては下げてを繰り返している。
恋伊瑞に目線を送りながら首を振り、その助けは必要ないと伝えた。
あいつ、絶対こういうの苦手だろうしな。
あぁ早くクジ引きで決めることになんないかなぁ。
そう思っていると。
ずっと不安そうに見ていた椎名さんが手を挙げる。
「あ、私――」
「わたしやるよー」
――よりも先に、白波さんの手が伸ばされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます