土曜日 13:45
『今日、六時でいい?』
着信音が鳴ったスマホに出た直後に、聞こえてきたテンションの高い声。
寝起きのあたしが眉を顰めた事を通話の向こうのくるみは知らない。
だけど。
「……何が?」
聞き返したその声が、バカにも分かるくらいに寝起きの所為でしわがれてたから、バカのくるみにも理解出来たらしい。
『は!? 朱莉、寝てたの!?』
何で「は!?」なのか分かんない、「は!?」を繰り出したくるみは。
『何時だと思ってんの!?』
そのテンションを変えない。
朝までどうしても眠れなかったから今が仮令昼を過ぎてたとしてもまだまだ寝不足なあたしは、そのくるみのテンションに溜息を吐いた。
「疲れてんの」
『え!? 病気!? 病気なの!?』
「疲れてるって言ってんでしょ。病気って一言も言ってないでしょ」
『なら、今日来れるよね? いつもの居酒屋』
「何で今日の事を今日連絡してくんのよ!?」
『だって一葉に聞いたでしょ? 一葉昨日、朱莉のトコ行くって言ってたし』
「…………」
『聞いてたんでしょ!?』
「聞いてたけども」
『なら、いいじゃん。で、六時でいい?』
「あたし、お金ないし」
『あんたがお金持ってるとこ見た事ないけど!?』
「くるみの奢りなら行く」
『八割あたしが奢ってんだけど!?』
「その十割、あんたのバカな話聞いてやってんでしょ」
あたしのその言葉に『減らず口』って言ったくるみは、それでも『奢るから絶対来なよね』って言って通話を切る。
元々ひとりが嫌いらしいくるみは、男が出来るとその寂しがりな部分が増幅する。
男といて当たり前の状態なのに、ポッとひとりにされるのが我慢出来ないらしい。
だからくるみは男が出来ると、男ばっかりに構う反面、時間が空くとすぐに会おうとしてくる。
そういう感覚があたしにはないから、くるみがバカに思える。
男狂いするくるみを、同じ人間とは思えない時もある。
だけど男からすると、最後こそはそういう部分が重くなったりうざったくなったりするらしいけど、最初はそういう部分が可愛いと思うらしい。
バカがバカに惑わされてる。
溜息を吐いて布団から起き上がったあたしは、寝不足で重い頭をはっきりさせようと台所に行って珈琲を淹れた。
今日が休みで良かったと思うのは、あんな事があった所為で眠れなかったから。
先生との出来事をずっと悶々と考えてて全然眠れなかった。
多分、あたしは傷付いたんだと思う。
はっきりそうだと分かんないのは、今まで経験した事がないからだと思う。
ただ、先生のあの強張った顔を嫌でも思い出して、思い出す度に胸が苦しくなる。
何でこんな事になったんだろうって。
どうして処女だと「やめとこう」って事になるんだろうって。
ずっとずっと考えて眠れなかった。
やっぱり先生は去り際に謎を残す。
あたしじゃ解けない謎を残して、落ち着かない気分にさせる。
だけどその答えは、その数時間後に先生じゃない人から思わぬ方法で教えてもらえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。