エピローグ


 先生が予約したホテルは乙女チック。



 あたしには似合わない内装。



 花柄の壁に、レースのカーテン。



 天蓋があるベッドには肌触りのいいシーツ。



 そのシーツに仰向けになる、お風呂上がりのあたしの髪を、これまたお風呂上がりの先生が優しく撫でながらキスを繰り返す。



 この間の時とは全然違うその感じに。



「今日は手、押さえないの?」


 緊張を隠す為におどけて言うと、先生は一瞬バツの悪そうな顔をして「すみません」と謝った。



「あの時はがっついてしまって……」


「がっつく?」


「はい。あなたを抱けると思うと気が焦って……」


「ああいうのが趣味なんじゃなくて?」


「違います! 絶対に違います! 本当は優しくしたいんです!」


「そっか」


「でもあの時は何と言うか……ずっと見てた人と現実にそうなった事に浮かれていて……」


「……見てた?」


「はい」


「え? 見てた?」


「はい」


「え? 見てたって何?」


「何と言われてもその言葉のままです」


「え?」


「僕は何度も駅前であなたとすれ違っているんです」


「ええ!?」


「声こそ掛けられませんでしたが、見てました。だからあなたに声を掛けられた時は物凄く驚いて」


「えええ!?」


「チャンスだと思ったんです。誰とも付き合っていないというのを聞いて」


「ええええ!?」


「勇気を出してよかった。やっと僕の夢が叶う」


「夢?」


「結婚してくれるでしょ?」


「は!?」


「した方がいいと思いますよ」


「何で!?」


「初めての相手と結婚して、生涯その人にだけ抱かれてると、死んだら妖精になれるって話です」


「妖精!?」


 あたしの驚きにクスクスと笑った先生の手が髪から体へと下降していく。



 優しい手つきの先生に抱かれながら、あたしはどうしても妖精になる運命らしいと、いつかはなるその姿を想像して、ちょっと幸せに思った。





 朱莉さんの不可解な一週間 完

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朱莉さんの不可解な一週間 ユウ @wildbeast_yuu

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