第1部エピローグ 白の部屋

 気が付くと、そこは際限なく広がる純白の空間だった。


 360度見渡しても、白以外の色は存在しなかった。


 まるで世界から全ての色彩が失われてしまったかのような錯覚に陥る。

 これは夢なのだろうか——そんな思いと共に、おそるおそる壁に手を伸ばした。


 指先に伝わってきたのは、大理石のような滑らかで冷たい感触。

 あまりにもリアルで、夢とは思えないほどだった。


 この世界の果てには何があるのだろう。


 そんな好奇心に突き動かされるように、足は自然と前へと進んでいく。

 しかし、どれだけ歩いても景色は一向に変わらない。


 まるで際限なく続く無限回廊に迷い込んでしまったかのような気分だった。

 白一色の空間を進み始めてから5分が経過しただろうか。


 いや、もっと長い時間が過ぎているのかもしれない。

 この空間では、時間の感覚さえも曖昧になってしまう。


 現実でこんな場所に閉じ込められたら、きっと正気を保てないだろう——。


 そんな考えが頭をよぎった瞬間、意外にもあっけなく行き止まりが姿を現した。

 そこには一つの扉があった。扉には「13」という数字が刻まれている。


 扉全体が周囲の壁と同じ白一色で構成されており、近づかなければ存在すら気付けないほどだった。


 震える指先でドアノブに触れると、扉は静かに、しかし確かな存在感を持って開いていった。


 扉の向こうには、まるでブラックホールのような漆黒の空間が広がっていた。

 今まで見てきた白一色の世界とは、あまりにも対照的な光景。


 不思議なことに、その暗闇を前にしても恐怖は感じなかった。

 むしろ、懐かしさに似た温かい感情が胸の奥で静かに揺らめいていた。


 意識が途絶える直前、手は自然と黒い空間へと伸びていった——。

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僕(ボク)のラストリゾート 不労つぴ @huroutsupi666

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