第17話
「よう、お前ら。やっと帰って……なんか雰囲気暗くね?」
ベンチに座っていた待っていた翔が立ち上がる。
そして、待ってましたとばかりに手を振り上げた仕草も、蒼空たちの様子を見て途端に止まった。
眉間に皺を寄せ、怪訝な表情を浮かべる。
「なんかあったのか?」
「……なんでもないよ。ねっ、そーちゃん」
陽菜に話を振られた蒼空は一瞬たじろぐ。
だが、喉まで出かけた言葉を飲み込み、無言で頷くことしか出来なかった。
「そういや色羽は一緒じゃねぇのか?」
「色羽ちゃんなら、さっき電話がかかってきたみたいでまだ電話してるみたい」
「そうなのか。もしかして彼氏とかかー?」
翔は「アイツも高校生だしなー」と笑いながら言った。
だが、その瞬間、場の空気は一気に凍りつく。
元々淀んでいた空気は冷え固まり、陽菜の表情にも苦い色が浮かぶ。
彩乃素早い動きでは翔の頭を叩いた。
パンッという威勢の良い音が響く。
「あんたは余計なこと言わないの!」
「なんでだよ!? 俺別にワリィこと何も言ってねぇだろ!」
翔の言う通り、彼自身は何も悪くないのだが、如何せんタイミングが悪かった。
翔と彩乃はその後もギャーギャーと騒がしく言い争っていた。
ふと、蒼空が陽菜の方を見やると、陽菜と目があった。
だが、陽菜は申し訳なさそうな顔をした後、すぐに目を逸らしてしまう。
その仕草に蒼空の心まで締め付けられる。
「――君が小鳥遊蒼空くんだね?」
突如響いた声に全員が振り返った
声がした方を振り返ると、そこには初老のメガネを掛けた男性が立っていた。
歳は40代くらいだろうか。
彼は染みの入ったしわくちゃのシャツに、伸び切ったヒゲと髪の毛。
彼の姿は遊園地の華やかな雰囲気には似つかわしくなかった。
だが、何より蒼空の気を惹いたのは、男の目だった。
男の眼球は重度の充血を引き起こしており、目の下には濃い隈ができていた。
蒼空には、まるで男が何か強迫観念のようなものに支配されているような気がしてならなかった。
「オッサン、 蒼空の知り合いか?」
「このバカ! 初対面の人に失礼でしょ」
彩乃は翔を肘で小突いた。
しかし、男はそんな二人のやり取りには一切関心を示さない。
ただ蒼空を見つめ、どこか懐かしむような目で言った。
「大きくなったね。最後に私が会ったときはこんなに小さかったのに」
蒼空は目の前の男に既視感を覚えた。
遠い昔、どこかで会ったことがあるかもしれない。
いや、この男とは確実に会ったことがある。
だが、思い出せない。
該当する記憶には濃いモヤのようなものがかかっており、無理に思い出そうとするとズキンと頭が痛む。
「っ…………」
「そーちゃん!?」
突如降り掛かった激しい頭痛による頭を抑える蒼空を見て、陽菜が心配そうに駆け寄る。
心配する陽菜に蒼空は「大丈夫だから……」と言って落ち着かせる。
”今すぐこの男から離れろ”。
脳内で、そのような警告が何度もリピートされる。
「……あなたは……一体誰なんですか?」
男はメガネはゆっくりとメガネを上げた。
「自己紹介が遅れたね。私の名前は
「君のお父さん――
「そして……」と豊川を名乗る男は間を置いて話を続ける。
「君のお父さんを殺したのは私だ」
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