第2話
「………………は?」
蒼空は手に持っていたコップを落としてしまう。
幸いにも、コップの中には水が入っていなかったので、テーブルの上に軽い音を立てて転がるだけで済んだ。
「おいおい、しっかりしろよー」
翔は笑いながら、横向きになったコップを手に取る。
そして、「ほらよ」と言い、蒼空の前に置くが蒼空は固まったまま動けなかった。
「おまたせしましたー。餃子定食とラーメン大です」
店員の女性がお盆の上にラーメンと餃子を載せてやってきた。
「おっ、きたきた」
翔は蒼空の目の前にコップを置き、箸立てから割り箸を2本取り出して、自分と蒼空のテーブルに置いた。
続いて店員はフリーズしたままの蒼空の前に生姜餃子定食を置いた。
生姜餃子定食の内容は生姜餃子と唐揚げ、ご飯、スープ、どれも美味しそうだった。
「じゃあ、いっただきま~す」
翔は手を合わせた後、勢いよく麺を啜る。
翔の頼んだラーメンは醤油ベースで、スープの上に浮かんでいる、焼き加減の素晴らしいチャーシューはかなり大きさで食べごたえがありそうだった。
「飯食わねぇのか……? 冷めちまうぞ?」
翔が餃子を口いっぱいに頬張りながら話しかけてきたところで、蒼空のフリーズは解除された。
「な……な、七草さんが付き合ったってそれ本当!?」
「おいおい、落ち着けよ。ヒナの顔的に別に不思議なことでもねぇだろ? むしろ、今までいなかったことの方が不思議だぜ」
翔は、すごい勢いで口にご飯を書き込みながら答える。
「それ、誰から聞いたの?」
「この前、俺達4人で出かけただろ? その時に、たまたまアヤノとヒナが話しているのが聞こえたんだよ」
「…………つまり、盗み聞きってこと?」
蒼空も生姜餃子を箸で取り、それを口に入れる。
生姜の効いた、いつも通りの味だ。
しかし、いつもならそのまますぐに食べきってしまうのに、今日は何故か箸が全く進まなかった。
「まぁ、そうなるかもな。でも、あいつら絶対俺等に気づかれないようにコソコソ話してたぜ? それに俺等が席を外したタイミングで話してたし、戻ったときなんかすごい慌ててたぜ」
翔は餃子をタレにつけ、口に放り込んだ。
「俺も断片的にしか聞き取れてないから間違ってるかもしれないけどな。でも、俺この耳で、ヒナが確かに『私彼氏いる』ってアヤノに言ってたの聞いたぜ」
翔は昔から特に耳が良い。
翔はその耳の良さを活かして、近づく人を足音だけで判別するという離れ業を持っていた。
だから、おそらく彼女が言った言葉は事実なのだろう。
蒼空は目の前が真っ暗になったように感じた。
「でも、俺たちに隠すことは無いと思うんだよな。だって、俺たち幼稚園の頃からの付き合いだぜ? ヒナはすげーモテるから、そういうの周りに言い辛いのかもしれねぇけどさぁ……」
翔はブツブツと文句を言いながらも麺を啜る。
結局、その時は何も食べるような気分になれず、翔に全て食べてもらった。
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