第1部

第1話

 ラーメン店【カテナチオ】はその名前に反して中華風の外装をしており、駅の近くに立地していることもあって地元では人気が高い。


 昼は近くの大学の学生が、夜は仕事終わりのサラリーマンと訪れる人は多く、昔から繁盛している。


 このラーメン店は他のラーメン店とは違う独特な特徴がある。


 それは、ここに訪れる客はラーメン目当てではなく餃子を目当てに来ているということだ。


 挙句の果てには、餃子を食べるおまけでラーメンを注文するなんて客もいる。

 そのくらい、ここの餃子は絶品だった。


 小鳥遊蒼空たかなし そらは幼馴染の辻ヵ谷翔つじがや かけると昼食を取りにカテナチオを訪れていた。


 昼前で混んでいたこともあり、30分ほど外で待つこととなったが、むしろ30分程度で済んだのはラッキーだったと思う。


 混雑時は2時間待ちということもざらにあるので今日は運が良かった。

 店員に案内され、カウンター席に座る。


「いやぁ、ここ来るのも久々だな!」


 隣の席に座っている翔はごきげんなのか、ニシシと歯を見せて笑う。

 翔は大学二年生の蒼空にとって、幼稚園からの幼馴染だった。


 彼は先月買ったという、背面に虎のイラストが施されたシルバーとブルーのスカジャンを着ており、スパイラルパーマのかかった茶髪と整った顔立ちをしていた。


 当然、女性にモテるのだが、本人にその気がないのか、浮いた話は一度も聞いたことがない。


 そんな彼は現在フリーターで、アルバイトをしながら実家で暮らしていた。


 蒼空は近くに置いてあるピッチャーを手に取り、自分と翔の二人分の水をコップに注ぐ。


「最後に来たのいつだっけ」


「先週も来なかったか?」


「先週は翔が『バイト入った。すまねぇ……また今度な!』って言ってドタキャンしたじゃん」


「そうだったか? まぁ、細かいことは気にせず、とっとと頼もうぜ!」


 メニュー表を手に取り、「どれにしようかな~」と楽しそうにしている翔を尻目に蒼空はため息をつく。


 これは今に始まった話でもない、翔は昔からこうなのだ。

 今更何を言ったところで翔には響かないだろう。


 翔は何にしようか悩んでいるが、この店に来た客が選ぶメニューはほぼ全員が餃子定食で、それ以外のメニューを頼んでいる客を今まで見たことがない。


「よし、俺は決めたぜ。すいませーん」


 翔が厨房に向かって店員を呼ぶと、店員は「はーい」と愛想の良い返事をしながらテーブルに注文を取りに来た。


「餃子定食とラーメン大お願いしまーす。蒼空は?」


「僕は生姜餃子定食で」


「餃子定食と生姜餃子定食、ラーメン大ですね、かしこまりましたー」


 店員は注文を取ると厨房に戻っていった。


「お前、ほんっと生姜餃子好きだよな。ここで生姜餃子食ってるやつ見たこと無いぜ。ニンニクを食えニンニクを」


 翔は蒼空を呆れたような目で見ながらコップに注がれた水を飲んでいる。


「別にいいでしょ……そういう翔だってラーメン頼んでるじゃん」


「俺は餃子のついでにラーメンを食べるから別にいいんだよ」


 翔は得意げに胸を張って答える。


「あっ、そうだ」


 翔は何かを思い出したかのように、手をポンと叩きながら言う。


「ヒナ、彼氏できたらしいぜ」

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