第8話
図書館を出ると、あたりはすっかり夕方らしく、オレンジ色の夕日に照らされていた。
「こうやってそーちゃんとゆっくり話すのも久しぶりだね~」
蒼空は陽菜と他愛もない話をしながら歩いている。
あの後、本の貸し出しを終えた蒼空はそそくさと帰ろうとしたのだが、陽菜の「そーちゃんも帰るの? だったら私ももうやることないから一緒に帰ろ!」という一言により、一緒に帰路へつくこととなった。
もちろん久々に二人きりで一緒に帰ることは蒼空にとって喜ばしいことなのだが、どうしても先日の翔の言葉を思い出してしまう。
翔の言っていることが本当であれば、すでに彼氏がいる女の子と二人きりという状況はいささか――いや、かなりまずい状況なのではないだろうか。
正直なところ、この状況を陽菜の彼氏にでも目撃されようものなら、相手の男に殴られても文句は言えない。
陽菜は蒼空のことを天然と評しているが、蒼空からしたら陽菜も自分と同じか、それ以上に天然なところがあると思っている。
だから、彼女は自分が付きっている状態でこれまで通り蒼空と接していることが悪いことだと認識していないかもしれない。
さて、どうしたものかと蒼空は頭を悩ませる。
「おーい、そーちーゃーん」
ハッとして陽菜の方を向くと、陽菜が頬を膨らませて不満そうに蒼空の方を見ていた。
「あっ、ごめん。ぼーっとしてた。それで何の話だったっけ?」
「ふーん……そーちゃんは私と話すよりも自分の考え事のほうを優先するんだー」
「いや、そういうわけじゃ……」
「言い訳するんだ」
この状況は非常にまずい。
陽菜は笑みを浮かべているが、どう見ても顔が笑っていない。
これまで陽菜や彩乃の二人に口論では一度たりとも勝てたことがなかった。
一番口が達者なのは彩乃だったが、陽菜も普段のほほんとしていながらも、怒るとあの3人の中だと一番怖いのだ。
そもそも今回の状況で悪いのは話しているときに考え事をしていた蒼空自身なのだが。
「今、他の女の子のこと考えてなかった? いいねー、さっきの考え事も他の女の子のことなのかな? 私に詳しく教えてよ」
何故、彩乃といい陽菜といい、こちらの考えていることをズバズバと当ててくるのだろうか。
陽菜を見ると、先程よりも深い笑みを浮かべているが、どう見ても彼女は怒っている。
しかし、考え事をしていたと言っても、彼氏のいる疑惑の女の子と一緒にいるわけなのだし、状況的に仕方のないことなのではないだろうか。
「そーちゃん。何か言いたいことがあるの?」
「いえ、何も……」
これ以上余計なことを考えたり口に出すと詰められるので蒼空は陽菜に完全降伏することにした。
そもそも、悪いのは自分だ。恐る恐る彼女の表情を伺う。
すると、彼女は貼り付けたような笑みをやめ、いきなりお腹を抱えて笑い出した。
「はぁ、苦しい……やっぱそーちゃんは面白いね。わたし怒ってないよ? さっきのも冗談。そーちゃんの慌てる姿が面白くてさ、つい意地悪しちゃった」
状況が飲み込めず未だ呆然としている蒼空に対し、陽菜は続けて言った。
「でも、人と話してる時に考え事はよくないよ? あと、別の女の子のこと考えるのも」
「大変申し訳ございませんでした……」
言い返す言葉もない。
「じゃあ、そーちゃんにはお詫びとして私のお願いを2つ聞いてもらおうかな~」
「お願い?」
蒼空が聞き返すと、陽菜はまるで無邪気な子供のようないたずらな笑みを浮かべた。
「そう。最近みんなで集まってないよね。だから、今度の土日に色羽ちゃんも一緒に誘って、みんなでどこか遊びに行こう? あっ、そーちゃんは罰として絶対だからね」
「えっ、そんなのでいいの?」
どんな恐ろしい事を言ってくるのだろうかなどと思っていたので、陽菜の言葉を聞いた蒼空は拍子抜けしてしまった。
「じゃあ2つ目は?」
蒼空が質問すると、陽菜はニコッと笑った。
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