第7話
「痛っ…………なにこれ」
どうやら本棚から1冊の本が頭に落ちてきたようだった。
その本は高級そうな手触りの本皮で作られたような外装をしており、がっしりとした作りのものだった。
だが、その本にはタイトルは書いておらず、ところどころ傷が入っていた。
蒼空は落ちた本を拾うためにしゃがむ。
意外なことに、その本は見た目に反して軽量だった。
パラパラとその本のページを捲る。
その本は見たことのない言語で書かれており、何を意味しているのか分からない謎の挿絵がほぼすべてのページにも描かれていた。
また、所々ページが破れていたり、文章が黒く塗りつぶされていた。
この本のノドには何のラベルも貼っていなかった。
本来ならこの図書館に置いてあるすべての本には分類用のラベルが貼られているのだが、この本にはそれが見つからなかった。
また、背面にも貸出用のバーコードも貼られていなかった。
「これどう見てもこの本棚の本――いや、この図書館の本じゃない……よね」
誰かがいたずらで、落ちやすいような位置にこの本を置いたのだろうか。
しかし、本が見た目に反して軽量だったからよかったものの、見た目通りの重量で打ちどころが悪かったら誰か怪我人が出ていたかもしれない。
いたずらにしてはあまりにも度が過ぎている。
こういった場合どうするべきなのかよく分からないが、とりあえずこの本をロビーの係員に渡し、事情を話そうなどと考えていたところ――。
「だーれだ」
突然視界を何者かによって塞がれた。
いや、声の主は誰だかとっくに分かっている。
ただ問題なのは、今その人物と会うのが些か気まずいということで――。
「な、七草さん……?」
蒼空が恐る恐る答えると、視界を塞いでいた両手が取り外された。
そして蒼空が後ろを振り返ると、そこには予想した通りの人物――
服装はチュニックにスカートと春らしい装いだった。
「やっほー、そーちゃん」
陽菜は蒼空の方を見ながらニコニコと笑っている。
「そーちゃんは何をしているところ?」
「か、課題で必要な本があって……それで図書館へ借りに来たんだ」
「そーちゃんは勉強熱心で偉いねー」
なおも陽菜は蒼空の方へ太陽のような笑顔を浮かべる。
蒼空は思わず顔を赤らめてしまうが、陽菜に悟られまいと視線をそらす。
「その本もお勉強に必要なの?」
陽菜は蒼空の持っていた厚皮の本を指差して尋ねる。
「いや、この本はさっき棚の上から落ちてきたやつだから関係ないよ。でもこの本、図書館のものじゃないみたいで……」
蒼空が全部言い切る前に、陽菜は「えぇー!?」と少しオーバーリアクションなのではないかというような声を上げ、蒼空に近づく。
その反応に驚いて、蒼空は思わず尻もちをついてしまう。
「大丈夫? そーちゃん、どこか怪我とかしてない?」
陽菜は心配そうに蒼空の体をペタペタと触る。
陽菜からは甘い良い匂いがして、蒼空は思わずドキッとしてしまう。
「だ、大丈夫だから……」
蒼空は陽菜との近すぎる距離をどうにかするため、後ずさりながら答えた。
「でも、気をつけないとダメだよ? そーちゃんはちょっと注意不足なところがあるから気をつけなきゃ」
「おっしゃるとおりです……」
「ふふっ、分かればよろしい」
陽菜はにっこりと微笑むと尻もちをついている蒼空に手を差し伸ばした。
「その本まだ貸し出し終わってないんでしょ? 一緒に行こ」
陽菜は蒼空の手を取ると、陽菜は蒼空の手をそのまま掴んだまま引っ張るように歩き出した。
もう既に、謎の本のことなど蒼空の中からは綺麗さっぱり抜け落ちてしまった。
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