第5話
「んで、ソラは今日1日何してたの?」
「翔と一緒にカテナチオへ行ってた」
「アンタ達もよく飽きないわね……」
彩乃は呆れたような顔で蒼空を見る。
「どうせ、ソラは生姜餃子定食。あのバカは餃子定食とラーメン大、あと替え玉って感じでしょ?」
「おぉ、大正解。何で分かったの?」
「アンタ達いっつも同じメニューしか頼まないじゃない。まぁ、あのアホは毎回何頼むか考えた上で、いっつも同じメニューなのが意味分かんないけど」
彩乃はやれやれといった感じだった。蒼空もそれにつられて苦笑する。
「ソラもあのバカに付き添って毎週ラーメン食べに行ったりしてるみたいだけど、ちゃんと嫌なときは断らないとダメよ? あのバカは強引なんだから」
彩乃は心配そうに蒼空を見る。
「別に嫌で行ってるわけじゃないから大丈夫。それに僕、基本家から出ないからさ、翔が何かと理由をつけて僕を連れ出してくれることには感謝してるんだ」
「ふーん……まぁ、ソラがそう言うなら、そういうことにしてあげる」
確かに翔はバカと言われてもおかしくないような行動をいつも取っているが、何かと騒がしい翔と一緒にいるだけでも飽きなかった。
しかし、翔が何故蒼空とばかり遊ぶのかは分からなかった。彼の明るい人柄ならきっと友達も多いだろう。
ならば、自分などに構わず、他の友人と遊ぶ方が有意義なのではないかと思うことも度々だ。
「ちょっとソラ、話聞いてる?」
ハッとして、彩乃の方を見る。彩乃は怪訝そうな顔で蒼空の顔を覗き込んでいた。
「ごめんごめん。で、何の話だったっけ」
ハァ……と彩乃は深くため息をつく。
「どうせアンタのことだから、まーたロクでもないこと考えてんでしょ。今のは『なんで翔はこんなつまらない自分と関わってくれてるんだろう』……って言ったところかしら?」
ドンピシャだ。
昔から彩乃は感が鋭かった。
彼女は相手の考えていることが手に取るように分かるのだ。
なので、蒼空や翔は彩乃に対して頭が上がらなかった。
「アンタは自己肯定感が低すぎる。もっと自分に自信を持ちなさい」
「いきなり、そんなこと言われても……」
中々に無理難題を言う。
確かに、自分の自己肯定感がかなり低いのは分かっているつもりだったが、それを上げるというのも一朝一夕で出来ることではない。
そうこうしているうちに自宅が見えてきた。
このままだと、彩乃の説教がしばらく続くのが目に見えたので、話題を変えることにした。
「あっ、もう家近くなってきた。荷物もう僕が持つよ。今日は藍森さんのおかげで助かった、ありがとね」
「アンタねぇ……まっ、いっか。ここまで来たら、ちゃんと玄関まで運ぶわよ」
蒼空はポケットから鍵を取り出し、自宅の扉を開ける。
そして、蒼空と彩乃は持っていた買い物袋を玄関に置く。
「さて、アタシは用も終わったし帰るわ。おばさんや色羽によろしく言っておいて」
「分かった。今日はほんとに助かったよ。今度なにかお礼するね」
「ふふっ。この対価は高くつくわよ」
彩乃はくすっと笑いながら、「じゃあ」と言って小鳥遊家を後にしようとしたが、蒼空は聞こうと思っていたことを思い出した。
「ねぇ」
彩乃はドアを開けようとした手を止め、蒼空の方を不思議そうに見る。
「最近、身の回りで何か変わったことってなかった?」
直球で「七草さんの彼氏できたって本当?」などと彩乃に聞く度胸は蒼空にはなかった。最も、翔ならやりかねないかもしれないが。
彩乃はしばらく考えるような素振りをした後、
「特に無いわね。強いて言えば近所の野良猫が子猫を産んだことくらいかしら」
と言った。
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