第12話

 蒼空がリビングに行くと色羽がソファに座ってテレビを見ていた。

 色羽は蒼空に気づくと、リモコンを取りテレビの電源を切った。


「あっ、お兄ちゃんやっと起きたんだ。夕飯のときに起こそうとしたんだけど、お兄ちゃん爆睡してたから私達先に食べちゃった」


「そっか。ところで母さんは?」


「もう寝ちゃったよ。あっ、今日はカレーだから自分で温めて食べてねってさ。冷蔵庫にサラダとか入ってるからそれも食べてねってお母さんが言ってた」


 蒼空はキッチンに行き、蓋の付いた鍋の中にカレーが入っているのを確認し、ガスコンロのツマミを回して鍋を火にかけた。


「お兄ちゃん私と違っていつも寝起きいいから夕寝とかしててもすぐ起きるのに、今日は全く起きなかったね。何か疲れるようなことでもあった?」


「……特に何も無かったよ」


 冷蔵庫をあけると、ラップがかかったお椀の中に母の好物であるチーズと豆のサラダが入っていた。それを取り出し、テーブルの上に置く。


「お兄ちゃんがそんなこと言うってことは、絶対なんかあったんでしょ。ねぇねぇ、私に教えてよー」


 色羽はソファーに座りながら興味津々といった表所で蒼空を見つめている。


「聞いても面白いことないでしょ。実際、今日は特に何も起きてないし」


「じゃあ、私が当ててあげる。うーん……かけちゃんと一日中全力バスケとか?」


「やってないし、二度とやらないよ」


 蒼空はそう即答した。

 以前、翔に半ば無理矢理終日バスケの練習に付き合わされたことがある。

 だが、あの日のことは思い出したくもないほど酷い目にあったので、次に翔に誘われても二度とついていかないと蒼空は決心していた。


 元々、蒼空は運動が得意ではないのだ。

 なのに、あんなフィジカル怪人と手合わせさせられるこちらの身にもなって欲しい。


「まぁ、冗談はそこそこにして……お兄ちゃん今日ヒナちゃんと会ったんでしょ」


 ギクッとして色羽の方を見ると、色羽はニヤニヤとした笑みを浮かべながら蒼空の方を見ていた。


「ねっ、当たりでしょー?」


「……さぁね」


 何となく色羽にからかわれているように感じたので、蒼空は色羽からすぐ顔を背け、さも興味がないですといったような表情を作る。

 そして、カレーをゆっくりとレードルでかき混ぜる。


「否定しないんだ」


「七草さんとは図書館でたまたま会って、たまたま一緒に帰っただけで何も無いよ。ただそれだけ」


「その割には一緒に手繋いで帰ってて、二人ともすごく仲良さそうに歩いてたけど?」


 色羽の言葉に、思わず持っていたレードルを離してしまう。

 恐る恐る色羽の方を見ると、先程よりもさらにニヤニヤとした、こちらの様子を全力で楽しんでいますといったような笑みを浮かべていた。


 先程まで寝ぼけていた頭が一気にフル稼働し始め、どう言い訳をするか、どのような返答が返ってくるかの組み合わせが凄まじいスピードで脳内に浮かんでは消えたリを繰り返した。

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