第11話

「…………父さんッ!」


そう叫びながら蒼空が飛び起きると、そこはいつもの見慣れた自室の光景だった。

寝る前にカーテンを締め切ってはいなかったが、陽は落ちきってしまったのか部屋は真っ黒だった。


しばらく呆然と部屋を見つめていると、暗闇の中でも段々目が慣れていき、やがて部屋にあるものが見えるようになった。


「夢か……」


蒼空が時計を見ると時計は午後10時を指していた。


あの後、何事もなく陽菜を家まで送り届けたものの、疲れからかそのまま自室で眠ってしまったらしい。


別れ際に陽菜は、

「今週の日曜日楽しみにしてるからね!そーちゃん!」

と満面の笑みを蒼空に見せた。


その時に蒼空は、やっぱり彼女は笑顔が似合うななんてことを頭の片隅で思った。


「にしても、懐かしい夢だったな」


蒼空は首にかけたままだったシルバーのアクセサリーを外し、勉強机の上に置く。

アクセサリーには銀色の鍵がついていた。


「あれ?」


蒼空は机に置いた小さな銀の鍵を見て疑問を抱く。


――何故この鍵を自分が持っているのだろうか?


これは本来、父が所持していたはずのものだ。

なのに、なんで自分が持っているのだろうか。それに、本来の所有者である父は今どこにいるのか。


一度疑問が湧くと、それが連鎖してどんどん思考がまとまらなくなってくる。

何かがおかしい、けれど何がおかしいのか自分自身でも分からない。


いや、きっと分かってはいるはずなのだ。だが、それを自分自身で――。


「……お腹空いたな」


ふと、蒼空はポツリと呟く。

すると脳内で先程まで疑問に思っていたことが段々と薄れていき、最後には何を考えていたのか思い出せなくなってしまった。


「あれ? 何を考えていたんだっけ?」


思い出そうと頭をひねるが全く思い出せない。

先程まで何を考えていたのだろうか。


いや、思い出そうとしても思い出せないのだろう。

そう、これは


寝起きはどうしても頭が回らない。

それに加えて、空腹のせいでいつもより頭が回らなくなっているのだろう。


蒼空はそう自身で結論づけ、夕食を取るために自室を後にしようとする。

自室のドアノブに手をかけた時に、机の上に置かれた銀色の鍵が視界に入った。


先程まで考えていたことはあの鍵のことだったかもしれない。

そんなことを蒼空はぼんやりと思ったが、数秒後には完全に忘れてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る