第10話
「お父さん、これはなに?」
キツネの人形を手に抱きかかえた少年が、椅子に深く腰掛け少年を暖かな眼差しで見つめる男性に何かを質問している。
少年とその父親らしき男性がいるのは書斎で、あたりには所狭しと様々な言語で書かれた難しそうな表紙の書物が本棚の中にずらりと並んでいた。
「あぁ、それはね……」
男性は椅子から立つと少年が指さしたテーブルの上に置かれている木製の箱を手に取り、少年のもとに向かう。
男性はメガネを掛け髪を七三分けにしており、柔和な雰囲気を醸し出していた。
少年の顔と男性の顔はとても良く似ており、傍から見ても親子であることは一目瞭然だった。
男性は膝をつき、少年と目線の高さを合わせて木箱を開けた。
少年が目を輝かせながら箱の中身を覗くと、中には所々破れた羊皮紙に包まれた小さめの鍵のようなものが入っていた。
破れた羊皮紙から見える鍵の色はきれいな銀色で、表面は奇妙な紋様のような意匠が施されていた。
「外国にいる僕の友達から譲って貰ったんだ。どうやら大昔に作られたものらしいけど、起源とかはまだはっきりしていないんだ。この鍵について調べたら、もしかすると、今この地球上で誰も知らなかった新しい事実が分かるかもしれない。だからね、父さんの仕事はこの鍵を調べることなんだ」
そう言って男性は少年の頭を撫でた。
「それを使ってどこかあけるの?」
「いや、この鍵は何に使われていたのか、全く分かっていないんだ。でも、もしかするとこの鍵は――」
男性が熱く語りだしたが、まだ幼い少年には言っている内容が難解で、理解することは出来なかった。
少年は男の話を無視して鍵を見つめていたが、どうしてもそれが欲しくなってきた。
「ねぇ、お父さんがその鍵調べ終わったらぼくにちょうだい!」
少年が未だ熱く語り続ける男に対し、期待に染まった顔で言うと、男は困ったような笑みを浮かべた。
「うーん……困ったなぁ。ソラが大きくなるまでに終わるかなぁ」
男はうーんと唸る。
「分かった。ソラが二十歳になったらこの鍵を成人祝いとしてあげる。それまでに僕は頑張ってこの鍵のことを調べ上げるよ!」
「ほんとぉ!?」
「あぁ、本当さ。父さんが今までソラ達に嘘をついたことなんてないだろう? これは男と男の約束だ。母さんやイロハにはこの話は内緒だぞ?」
「うん!」
男は自身の小指を少年の目の前に差し出す。少年は嬉しそうに父の小指に自身の小さい小指を絡める。
「ゆびきりげんまんうそついたら――」
男は少年が歌っているのを微笑ましそうに見つめる。
すると、少年と男の顔が急にぼやけていき――。
やがて視界はすべて黒く塗りつぶされた。
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