第18話 命懸けの脱出
崩壊寸前のジェハン財閥本社ビルの中、ルナ、テジュン、そしてジョンウは生き延びるために必死に階段へと急いだ。だが、ビルの揺れは止まるどころか激しさを増し、瓦礫が無情にも彼らの道を遮っていた。
「くそ…」テジュンは目の前の瓦礫を見つめ、焦りの表情を隠せなかった。「このままじゃ、逃げられない!」
ルナは素早く状況を把握し、彼女の目に鋭い閃きが走った。「テジュン、あの非常用のハッチを見て!」
階段の踊り場に、ビルの外に繋がる非常用のハッチが辛うじて残されていた。だが、そのハッチにたどり着くには、瓦礫を避けながら細い通路を通り抜ける必要があった。
「ここしかないわ…行くしかない!」ルナは決意を込めた声で叫んだ。
テジュンも頷き、ジョンウを支えながら一歩一歩慎重に進む。「父さん、しっかり掴まっていてくれ!」
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ビルの揺れはますます激しくなり、まるで今にも全体が崩れ落ちそうだった。瓦礫の隙間をすり抜けながら進むルナとテジュンの背後では、崩壊した天井や壁が次々に落ちてきた。
「急げ!」ルナが叫びながら振り返る。
テジュンも必死に進むが、ジョンウの足の怪我が彼らの動きを鈍らせていた。ジョンウは顔を苦痛に歪めながらも、懸命に息を整えていた。「もう少しだ…」
やっとのことで三人は非常用ハッチの前にたどり着いたが、そこでルナの顔色が変わった。「くそ、開かない…!」
ハッチが緊急時のロックによって閉ざされていたのだ。外に出る唯一の道が封じられていることに、ルナは思わず拳を壁に叩きつけた。「こんな…こんなところで終わるなんて…!」
「待て、何か方法があるはずだ!」テジュンは必死に周囲を見渡し、何とかハッチを開ける手段を探そうとした。だが、その時――
ゴォォン!
ビル全体に再び大きな揺れが襲い、足元の床が大きく崩れ始めた。テジュンがジョンウを支えながら急いでその場を離れると、数秒後には床が大きく陥没し、下層階までの深い穴が露わになった。
「危なかった…」テジュンは汗をぬぐいながら言った。
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その瞬間、ジョンウがポケットから小さなデバイスを取り出した。「これがあれば…ハッチを開けられる。」
ルナとテジュンは驚愕の表情でジョンウを見つめた。「それは…何?」
ジョンウは苦しそうな表情を浮かべながらも、冷静に説明を始めた。「これは財閥本社の緊急ロックを解除するためのキーだ。だが、このことは限られた人間しか知らない。非常事態の時にのみ使える。」
「なんでそんなものを今まで黙ってたの!」ルナは苛立ちを隠せずに問い詰めた。
「今まで使う状況ではなかったからだ。」ジョンウは静かに答えながら、そのデバイスをハッチにかざした。数秒後、ハッチがゆっくりと開き始め、冷たい外の空気が流れ込んできた。
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「行こう!」ルナはジョンウを手早く支え直し、テジュンと共にハッチの外へと急いだ。
外に出た瞬間、彼らの目の前に広がったのは、ビルが崩壊する寸前の光景だった。瓦礫が次々と落下し、ビルの上層階が倒れかかるようにして傾き始めていた。
「急げ、崩れる!」テジュンが叫び、全員でビルからできるだけ離れるために走り出した。
彼らが辛うじて距離を取ったその瞬間――
ドォン!
ビル全体が大きな爆発音と共に崩れ落ち、巨大な煙と粉塵が舞い上がった。瓦礫が辺り一面に散らばり、周囲は砂煙に包まれた。
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ビルの崩壊を目の当たりにした警察や救助隊は、必死に生存者を探し始めた。爆発と崩壊の衝撃で一時的に混乱が生じていたが、ルナとテジュン、そしてジョンウは辛うじて無傷で外へと脱出できていた。
「無事だ…」ルナは肩で息をしながら、テジュンとジョンウを見回した。「よく生きて出られたわね…」
「父さん、しっかりしてくれ…!」テジュンが苦しそうに倒れ込むジョンウを支えながら、救急隊の元へと向かった。
ジョンウは足の傷の痛みに顔をしかめながらも、薄く笑みを浮かべた。「やっと…ここまで来たな…」
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崩壊したジェハン財閥本社ビルの瓦礫の中で、ルナとテジュンは必死に息を整えながら、父ジョンウを救急車に運び込んでいた。外では救助隊が動き回り、混乱の中で生存者を捜索していたが、彼らの周囲には瓦礫と砂煙が立ちこめ、何もかもが不安定に見えた。
「父さん、しっかりして!」テジュンは焦る心を押し殺し、ジョンウの意識を保とうとしていた。
ジョンウは意識が朦朧としながらも、かすかに笑みを浮かべ、息を切らしながら言葉を紡ぎ出した。「俺たち…まだ…終わってない…」
ルナはその言葉に苛立ちを覚え、厳しい声で問い詰めた。「何が終わってないって?あなたはずっと何かを隠してる。今度こそ、すべてを話してもらうわ。私たちは何も知らないままじゃない!」
ジョンウは息を切らしながら、目を閉じかけていたが、かすれた声で応じた。「お前たちには…すべてを話すつもりだった…ただ…あまりにも深い…」
「深いって?」テジュンが食い気味に尋ねた。「父さん、今度こそ隠さずに話してくれ。もう、俺たちはこれ以上振り回されたくないんだ!」
その瞬間、救急車のサイレンが鳴り響き、ジョンウは再び意識を失いかけた。救急隊が彼を急いで担架に載せ、搬送準備を始めた。
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病院の緊急治療室の前で、ルナとテジュンは待合室の椅子に座り、沈黙を守っていた。ジョンウは緊急手術中だったが、兄妹の間にはまだ解決しきれない疑念と怒りが残っていた。
「彼は私たちに何を隠しているのかしら?」ルナは足を組みながら、不安げに問いかけた。「今までずっと、父親としての責任も果たさず、私たちを苦しめてきたのに…」
「隠していたことは一つや二つじゃないはずだ。」テジュンはルナを見つめ、少し疲れた顔で続けた。「でも、今になってもまだ真実を話していないってことは、それが相当ヤバいものだってことだろうな。」
その時、彼らの会話を遮るかのように、ドアが静かに開いた。医師が現れ、冷静な顔で二人に近づいてきた。
「手術は成功しました。しかし、カン・ジョンウさんは今すぐに話すことはできません。彼には休息が必要です。」
「彼が回復するまで待つしかないってこと?」ルナは苛立ちを隠せずに医師に問いかけた。
医師は静かに頷いた。「ええ。彼の体力が回復するには時間がかかります。ですが、すぐに彼と会うことは可能です。」
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ルナとテジュンは、静かな病室に入った。ジョンウは病床に横たわり、呼吸器を付けながらも微かに意識を取り戻しつつあった。彼の目がゆっくりと開き、二人の姿を捉えた。
「ジョンウ、話して。」ルナは彼に近づき、声を落ち着けながらも鋭い視線を向けた。「あなたが私たちに隠していた真実を…」
ジョンウはかすれた声で応じた。「…すべては…ジェハン財閥のためだ。俺が守ってきた…この財閥には、深い闇が…」
「闇?」テジュンは耳を疑いながら問い返した。「父さん、いったい何があったんだ?俺たちが知らないことって?」
ジョンウは一瞬、言葉を詰まらせたが、次第にその瞳には恐怖の色が浮かんできた。「ジェハン財閥は表の企業活動だけじゃない…裏で…裏社会と繋がっている。政府や組織犯罪にまで関わっているんだ。」
その言葉に、ルナとテジュンは言葉を失った。父が守り続けてきた財閥が、単なる企業ではなく、違法な取引や犯罪にも手を染めていたという現実が突きつけられた。
「だから、母はそれを知って…財閥を倒そうとしたのね。」ルナは、母の死の真相がついに明かされる瞬間を感じていた。「母は、すべてを知っていた…」
ジョンウは深い息をつきながら頷いた。「そうだ。お前の母は、それを知り、俺を裏切った。だから、俺は…」
彼の言葉が途切れる。ルナは目を細め、冷たい声で問い詰めた。「だから、母を切り捨てたの?」
ジョンウは目を閉じたまま、苦しそうに息を吐き出した。「彼女を守ることができなかった。それが、俺の最大の後悔だ。」
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病室を出たルナとテジュンは、再び無言のまま廊下を歩いていた。兄妹の間には、父が隠していた深い秘密がすべて明かされたわけではないが、その核心に触れたことで、これまでの復讐心が新たな形を取り始めていた。
「どうする?」テジュンがふと問いかけた。
ルナはしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。「母の遺志を継ぐしかないわ。この財閥を倒し、裏の腐敗を暴く。父が何をしようと、私たちの道は決まっている。」
テジュンもまた、彼女の意志に共感しつつ、深く頷いた。「ああ、俺たち兄妹で、すべてを終わらせるんだ。」
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病院の廊下を歩きながら、ルナとテジュンは心の中で重い決断を下していた。彼らは母親の遺志を継ぎ、ジェハン財閥の腐敗を暴こうとしていたが、今となってはその考えに迷いが生じていた。
「父は、腐敗の一端だった。でも、彼がすべて悪かったわけじゃない。」ルナは立ち止まり、窓の外を見つめながら小さく呟いた。「財閥そのものを潰すことが正しいとは限らない…」
「どういう意味だ?」テジュンがルナを見つめ、少し戸惑った表情を浮かべた。
「私たちが財閥を潰すことで、ただ失われるだけじゃないかって思うの。」ルナは視線を外さずに言葉を続けた。「財閥がもたらす雇用や、家族を養っている人たちがいる。私たちが全てを壊すことで、その人たちの未来まで奪うことになる。」
テジュンは一瞬言葉を失ったが、やがて考え込んだ。「…確かに、財閥は多くの人に影響を与えている。だが、それでも父さんのように権力を悪用する連中がいる限り、放置していいとは思えない。」
「だからこそ、私たちが変えなければならないのよ。」ルナは強い決意を込めてテジュンに向き直った。「ジェハン財閥を倒すんじゃなくて、私たちが新たに再建するの。クリーンで公正な企業として、もう一度生まれ変わらせるの。」
テジュンは驚いたように妹の顔を見つめた。これまで復讐の念に燃えていた彼女が、未来に目を向け始めている。彼もまた、深い葛藤を抱えていたが、妹の言葉には重みがあった。
「再建…か。だがそれをやるとなれば、かなりの抵抗があるだろう。内部にはまだ古い体制を守ろうとする勢力が残っている。何より、父の敵も多い。」
「だからこそ、私たちが立ち上がるのよ。」ルナはテジュンに力強く頷いた。「私たち兄妹で、ジェハン財閥を清算し、新しい企業に生まれ変わらせる。それが、母と私たちの戦いの意味になる。」
テジュンは深く息をつき、考え込んだが、やがて微笑みを浮かべた。「いいだろう。これからは俺たちのやり方で進もう。父さんの影響を完全に断ち切って、新しい財閥を築くんだ。」
「ええ。」ルナは決意のこもった目で頷いた。「私たちが新しい未来を作る。」
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数週間後、再建が進むジェハン財閥本社の大きな会議室で、ルナとテジュンは財閥の役員たちと対峙していた。彼らは、これまでジェハン財閥を支えてきた古参の経営陣であり、財閥の利益を最優先に考える保守派だった。
「新たなビジョンを掲げると言うが、あまりに急進的すぎる。」古参の役員の一人が、ルナに冷ややかな目を向けて言った。「これまで私たちが築き上げてきたものを簡単に壊すつもりか?」
「違います。」ルナはきっぱりと言い返した。「壊すのではなく、未来を築くのです。私たちのやり方は、過去の腐敗や不正を一掃し、公正で透明な経営を目指すものです。今の時代、変わらなければ企業は生き残れません。」
「しかし、あなた方兄妹に経営の経験があるとは思えません。」別の役員が声を上げた。「我々のリーダーシップの下で財閥は成長してきたのだ。それを否定するつもりか?」
テジュンはその声を静かに聞きながら、冷静に応じた。「過去に成し遂げたことを否定しているわけではありません。しかし、今のジェハン財閥は危機に瀕している。これ以上、同じやり方を続けていては、確実に破綻します。私たちは、新しいアプローチを採るしかないのです。」
「新しいアプローチが必要なら、私たち兄妹がそのリーダーになる。」ルナが力強く宣言した。「私たちはこの財閥を再建し、未来のために変革を進める覚悟があります。それを理解していただきたい。」
役員たちは互いに視線を交わし、しばらくの沈黙が続いたが、やがて少数の支持者が頷き始めた。
「我々も、未来のために新しい変革を見守ろう。」最年長の役員が静かに言った。「だが、覚えておけ。成功するか失敗するかはお前たち次第だ。責任を持って経営に臨むことだ。」
ルナとテジュンは頷き、会議室を後にした。これから始まる新たな戦いに向け、兄妹の決意は固まっていた。
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