第13話 絶望と希望の間で
倉庫の中、冷たく張り詰めた空気が二人の間を漂う。ソ・イネの冷ややかな笑みが、ルナの心に重くのしかかっていた。テジュンは銃を構えたまま、一歩も引かない。
「どうしてここに?」ルナは問いかけたが、その声はどこか乾いていた。彼女はすでに、イネが何らかの形で背後で糸を引いていたことを感じていた。
「ここに来るのは、当然のことよ。あなたがた二人がどんな決断をするか、それを見届けるためにね。」イネの声は、まるで手の内を見透かしているかのように冷静だ。
「もうお前のゲームには乗らない。俺たちは真実を暴く。それがすべてだ。」テジュンは鋭い声で告げるが、その声にもどこか焦燥感が漂っている。
「真実…ね。」イネは微笑を浮かべ、静かにルナに近づいた。彼女の姿が、薄暗い倉庫の中でまるで影のように揺らめく。「ヘジン、あなたは何を本当に求めているの?」
イネの問いかけに、ルナは答えられなかった。彼女の中で、複雑な感情が渦巻いている。復讐、父への愛、真実を追い求めること。それはすべて繋がっているはずなのに、イネの言葉は彼女を迷わせる。
「あなたがこれまで追い求めてきたものは、すべて幻想よ。財閥の秘密?父の真実?それを知ったところで、あなたは何も得られない。ただ絶望が残るだけよ。」イネは冷酷な言葉を続ける。
「黙れ!」テジュンが声を荒げた。「彼女を惑わすな。君のゲームはここで終わりだ。」
しかし、イネは動じることなく、ゆっくりと首を振った。「終わり?これが終わりだと思う?いいえ、これは始まりよ。」
イネは再び微笑み、バッグの中から小さなデバイスを取り出した。それは、ジェハン財閥のデータにアクセスするための鍵だった。
「このデバイスがあれば、財閥のすべての秘密にアクセスできるわ。でも、それを使うかどうかは、あなたの選択次第。」
イネはルナにデバイスを差し出す。その瞬間、テジュンが反応するが、イネは手を挙げて制止する。「触れないで。これは彼女のためのものよ。」
ルナはデバイスをじっと見つめた。もしこれを使えば、財閥を倒すことができるかもしれない。しかし、イネがただそれを渡すはずがないことも分かっている。
「何が狙いなの?」ルナは低い声で問いかけた。
「狙い?私はただ、あなたがどんな選択をするのかを見たいのよ。あなたがこのデバイスを使って財閥を暴くのか、それとも…私と手を組むのか。」
「手を組む?」ルナは驚き、テジュンも眉をひそめた。
「ええ、あなたは私と共に新しい未来を作ることができる。私たちが財閥を乗っ取り、新たな力を手に入れるのよ。復讐なんて小さなことに囚われるのはもうやめなさい。力を手に入れて、全てを変えるの。」
イネの言葉は甘い誘惑のように響いた。ルナは再び迷いの中に立たされている。父の敵を討つことが本当に彼女の望みなのか、それとも力を手に入れて、もっと大きな変革を起こすべきなのか…。
「ヘジン、そんな奴の言葉を信じるな。」テジュンが静かに警告する。「彼女はただ君を利用しようとしている。俺たちは真実を追い求めるべきだ。」
しかし、ルナはどちらの言葉を信じればいいのか分からなかった。彼女の心は激しく揺れ動いている。イネの誘惑的な提案か、テジュンの真実への忠誠か。どちらを選んでも、彼女の運命は大きく変わるだろう。
「どうするの、ヘジン?あなたの選択で、すべてが決まるわ。」イネの声が、再び彼女の耳に響いた。
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ルナは深く息を吸い、デバイスを見つめた。彼女の心には様々な思いが去来している。父の死、母の涙、そして自分自身の未来。それらすべてが、今この瞬間にかかっている。
「私は…」
その瞬間、倉庫の外からサイレンの音が響き渡った。警察が近づいてきている。時間がない。ルナは決断を迫られている。
「時間がないわ。さあ、選んで。」イネの声が冷たく響いた。
ルナは再びテジュンの目を見つめた。彼もまた、彼女の選択を待っている。そして、ルナはついに動いた。彼女はゆっくりと手を伸ばし、デバイスを取った。
だが、次の瞬間、ルナはデバイスをイネの足元に叩きつけた。
「私は…誰にも利用されない。」
イネの目が驚きで見開かれた。そして、テジュンもまた、思わず息を呑んだ。
「私は自分の手で、この道を切り開くわ。あなたのゲームにはもう付き合わない。」
ルナの言葉には、揺るぎない決意が宿っていた。彼女は復讐でも、力のためでもない。彼女自身の正義を追い求めるために、この戦いを続けると決めたのだ。
「愚かね…でも、面白いわ。」
イネは冷たく笑いながら、崩れたデバイスの残骸を見下ろした。「その選択が、あなたに何をもたらすか見物ね。」
イネはその場から立ち去る。外から聞こえるサイレンの音がますます近づいてくる。
「行くぞ、ルナ!」テジュンが彼女の手を引き、二人は倉庫から走り出た。雨の中、二人は共に未来へと走り出す。彼らが選んだ道の先に何が待っているのかは、まだ誰にも分からない。
だが、ルナはもう迷わない。彼女は自らの手で、真実を掴み取るために進むと決めたのだ。
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