第12話 破滅の足音
ソウルの夜は、冷たい雨が止むことを知らなかった。激しい息遣いの中、ルナとテジュンは廃工場の地下通路を駆け抜けていた。背後から聞こえる男たちの足音が徐々に近づいてくる。彼らは追い詰められていた。
「こっちだ!」テジュンが指さしたのは、かつては使用されていたであろう非常口の扉だった。だが、扉は錆びつき、びくともしない。ルナは苛立ちを隠せないまま、背中を押し付けた。
「開かない…」
「待て、これを使う!」
テジュンは懐からピストルを取り出し、扉のロック部分に向けて発砲した。弾が放たれる音と共に、ロックが壊れ、扉が開いた。二人は一瞬も無駄にすることなく外に飛び出した。
外に広がっていたのは、闇に包まれた古い工業地帯。壊れかけた工場の建物が点在し、明かり一つないその場所は、不気味な静けさを漂わせていた。ルナとテジュンは息を整えながら、その場に立ち止まった。
「彼らはすぐに追ってくる。急ぐべきだ。」
「でも、このまま逃げていても何も変わらないわ。私たちは真実を明らかにしなければならない…」
ルナの言葉に、テジュンは冷たく笑みを浮かべた。「真実?君は本当にそれを求めているのか?復讐のためじゃなく?」
その問いに、ルナは瞬間、言葉を失った。彼女はこれまで、父の死をきっかけに財閥への復讐を誓ってきた。しかし、最近の出来事が彼女の心に疑念を生んでいた。本当に求めているのは復讐だけなのか?それとも、もっと深い何かがあるのか?
「私は…」
その瞬間、背後から銃声が響いた。二人は地面に倒れ込み、弾丸がかすめる音が耳元で鳴り響く。すぐに立ち上がったテジュンがルナを引っ張り、建物の影に隠れた。
「もう迷っている時間はない。君は自分が何をしたいのか、今すぐ決めなければならないんだ。」
テジュンの言葉が鋭く胸に刺さる。彼の目は真剣そのものだ。彼もまた、ルナと同じく大きな決断を迫られていた。父の裏切り、財閥への忠誠心、そしてその全てを裏切ってでも、彼女と手を組むという選択…。
「私が求めるのは…父の真実、そして…私自身の正義よ。」
ルナは決意を込めて言った。テジュンはその言葉を聞き、頷いた。彼女の目の中に、揺るぎない意志があることを確認した瞬間、彼もまた覚悟を決めた。
「わかった。ならば、俺も全力で協力する。だが、これから先に待っているのは、さらなる裏切りと血の雨だ。覚悟はできているか?」
ルナは静かに頷いた。
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その後、二人は安全な場所までたどり着くことができた。廃工場から離れた古びたカフェの奥、誰も来ることのない地下倉庫。そこには、テジュンが秘密裏に保管していたジェハン財閥の機密データが隠されていた。
「これが全てだ。」
テジュンは大きな黒いバッグをルナに渡し、中を見せた。中には無数のファイルとUSBが入っている。そのデータには、財閥が過去に行ってきた違法な取引や殺人計画が詳細に記録されていた。全てが露わになれば、財閥は一瞬にして崩壊するだろう。
「ここまで来たわね…でも、これを公にすれば、私たちも無事では済まない。」
ルナの言葉に、テジュンは苦笑した。「無事で済むつもりなんて、最初からなかったさ。」
ルナはその言葉を聞き、少しだけ胸が痛んだ。彼は彼なりに、長い間苦しんできたのだ。父親の影響下で育てられながらも、正義と不正義の間で揺れ動き、そして今ようやく自らの道を選んだのだ。
「ありがとう、テジュン。あなたの協力がなければ、ここまで来られなかった。」
ルナが静かに感謝を告げたその時、倉庫の入口から不気味な足音が近づいてくる。二人は瞬時に警戒心を高めた。テジュンは銃を手にし、ルナも武器を構えた。
「誰だ?」
テジュンが低い声で問いかけると、暗闇の中から現れたのは、見慣れた人物だった。ソ・イネ。彼女はいつものように冷ややかな微笑を浮かべ、二人を見つめていた。
「やっとここまでたどり着いたのね、ヘジン。さすがは私の期待を裏切らない女。」
ルナは拳を強く握りしめた。「イネ…あなたが仕組んでいたのね。」
「仕組んだ?そう言ってもいいわ。でも、これからはあなた次第よ、ヘジン。あなたが選ぶ道で、全てが変わる。」
イネの目には計り知れない陰謀と策略が渦巻いていた。彼女が何を考え、何を企んでいるのかは全く読めない。しかし、ルナは知っていた。これから先、最も恐ろしいのは敵ではなく、自分自身の選択だということを。
「選べ、ヘジン。私と手を組むか、それともテジュンと共に破滅を選ぶか。」
その瞬間、ルナは全ての選択肢が目の前に提示されたような気がした。彼女の心に浮かぶのは、父の笑顔、そしてこれまで歩んできた道。だが、イネの言葉がルナの耳に響くたびに、彼女の心は揺れ動いていく。
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