第17話 父の危機

ルナとテジュンは、ジェハン財閥本社の上層階に到達し、廊下の隅からテロリストたちの動きを窺っていた。二人は静かに呼吸を整え、銃を握りしめながら、慎重に進むタイミングを待っていた。廊下の奥、CEOオフィスのドアの向こうでは、カン・ジョンウが人質として捕らえられている。


「準備はいい?」テジュンがルナに小声で問いかけた。


ルナは力強く頷いた。「ええ、今しかないわ。」


二人は無言の合図を交わし、廊下の先にある扉に向かって静かに歩み寄る。オフィスの中には、複数の武装テロリストが銃を構え、カン・ジョンウを取り囲んでいた。緊張が走る。


テジュンがゆっくりとドアの鍵を確認し、ルナがその隙間から内部の状況を見つめた。ジョンウは椅子に座らされ、冷や汗をかいていたが、彼の表情は冷静だった。しかし、テロリストのリーダーは銃口をジョンウの頭に向け、何かを強要しているようだった。


「何か言え!お前が隠してきたすべてを話せ!さもないと…」


その瞬間、ルナとテジュンは行動に移した。ドアを蹴り開け、ルナが素早く飛び込む。彼女の目に入ったのは、テロリストたちが驚愕する姿だった。テジュンもすぐ後に続き、素早く銃を構えてテロリストたちを牽制した。


「動くな!」ルナが叫ぶ。


しかし、状況は一瞬で緊迫した。リーダーの男が激昂し、咄嗟に銃をジョンウの足に向けて引き金を引いた。


パンッ!


銃声が響き渡り、ジョンウが苦痛の叫び声を上げた。彼の足に銃弾が命中し、椅子から転げ落ちるように倒れ込む。


「父さん!」テジュンが叫び、すぐに駆け寄る。


ルナもすぐにその場をカバーしながら、リーダーに銃を向け続けた。「やめなさい!これ以上撃ったら、あなたの命も終わりよ!」


リーダーは一瞬だけ怯んだが、すぐに冷笑を浮かべた。「ここまで来て何をするつもりだ?お前たちが俺を止められると思っているのか?」


「試してみる?」ルナは冷静さを保ちつつ、銃口をわずかに下げた。「今すぐに投降しなさい。もう逃げ場はない。」


リーダーはルナの目をじっと見つめた。彼の手が震え始め、次の行動を迷っていることが明らかだった。その瞬間、テジュンがジョンウの元へ駆け寄り、彼の足の傷を確認した。


「しっかりして、父さん!」テジュンが声をかける。


ジョンウは苦痛に顔を歪めながらも、意識を保とうとしていた。「くそ…足が…」


「大丈夫、救急を呼ぶ。耐えてくれ。」テジュンは慌てながらも、なんとか父親の血を止めようと布を足に巻きつける。


「テジュン…ルナ…」ジョンウは息を切らしながら、彼らを見つめた。これまで冷酷だった彼の目には、今まで見せたことのない弱さが垣間見えた。「俺を…こんな形で…助けに来るとはな…」


「黙って!」ルナは振り返り、ジョンウに冷たく言い放った。「まだあなたを救うかどうか決めてない。」


その言葉にジョンウはかすかに微笑んだ。「それでも…俺はもう…」


「しゃべるな!」テジュンが必死に父をなだめる。「まだ死なせない。絶対に。」


その時、テロリストのリーダーが再び銃を持ち直し、抵抗しようとした。しかし、ルナの動きが早かった。彼女は一瞬の隙をつき、リーダーの手から銃をはじき落とし、彼を壁際に押さえ込んだ。


「終わりよ。」ルナは静かに、しかし決然とリーダーに言い放った。「もう逃げられない。」


リーダーは黙り込み、状況を受け入れるしかなかった。警察のサイレンが外からさらに強く聞こえてきて、ビルの外からは特殊部隊が接近しているのが分かった。


「テジュン、早く救急を呼んで。」ルナが指示を出しながら、銃をリーダーに向けたまま、警察の到着を待った。


テジュンはすぐに連絡を取り、ジョンウの足の応急処置を続けながら、妹と父を交互に見つめた。この戦いの中で、兄妹としての絆が試され、彼らの父が目の前で崩れ落ちている。


「まだ終わっていない…」ジョンウがかすれた声で呟いた。


「何が?」ルナが冷たい視線を彼に向けた。


「真実は…まだ隠されたままだ…お前たちが知るべきことが…」


その言葉に、ルナとテジュンは顔を見合わせた。父が何を隠しているのか、そして彼らがこれから向き合うべき新たな真実が何なのか、まだ誰にも分からなかった。


---


警察のサイレンが響き渡り、特殊部隊がジェハン財閥本社ビルに到着した瞬間だった。ビルの3階フロアで、突如として爆発音が轟いた。


ドン!


ビル全体が激しく揺れ、衝撃波が上階にまで響き渡る。窓ガラスが粉々に砕け散り、オフィス内にいたルナ、テジュン、そしてカン・ジョンウはその振動に押され、床に倒れ込んだ。壁に飾られていた絵や書類が散乱し、天井からは無数の粉じんが舞い落ちてくる。


「何だ…?」テジュンは混乱しながらも、すぐに立ち上がり、状況を把握しようとした。だが、その足元はまだ揺れ続けていた。


「爆弾が…!」ルナが叫んだ。「テロリストが仕掛けた爆弾が爆破したのよ!このビル、崩れるかもしれない!」


ジョンウも足の傷を抱えながら床に倒れ込んでいたが、顔をしかめ、痛みをこらえながら言った。「このビルの構造は強固だ。簡単には崩れないはずだが…」


彼の言葉が途切れる前に、再びビルが大きく揺れ始め、天井から破片が降り注ぎ始めた。ルナとテジュンは急いでジョンウの元に駆け寄り、彼を支え起こす。


「急いで出なきゃ!」ルナは叫んだ。崩壊の危険が迫る中、彼女の心臓は激しく鼓動していた。ビル全体が揺れる中、足元に亀裂が入り始め、時間がないことが明らかだった。


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場面転換: ビル外の混乱


外では、警察や特殊部隊が混乱に陥っていた。爆発による衝撃でビル全体が揺れ、瓦礫が地面に落ちてきた。建物の下には緊急車両が集まり、人々が避難していたが、ビルの崩壊が迫る危機に、誰もが恐怖を感じていた。


「ビルが倒壊するかもしれない!」警察官が無線で叫ぶ。「全員退避!今すぐ離れろ!」


だが、ビルの中にはまだ人質がいる。中で何が起きているのか、外からでは誰も把握できなかった。


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場面転換: ビル内、崩壊寸前のフロア


ルナとテジュンはジョンウを支えながら、崩れかけた廊下を急いで抜け出そうとしていた。ビルの揺れが強まり、天井の一部が崩れ落ち、火花が散っている。彼らは必死に脱出ルートを探していたが、爆発の影響で通路が閉ざされていた。


「行き止まり…!」テジュンは焦りの表情を浮かべながら、目の前の崩れた瓦礫を見つめた。「どうすればいいんだ!」


ルナもまた周囲を見渡しながら、焦燥感に駆られていた。「下の階に行くしかないわ。ここにいたら全員死ぬ!」


だが、ジョンウの足の傷は深刻で、彼が自力で歩ける状態ではなかった。彼の体重を支えながら、ルナとテジュンは慎重に歩を進めた。だが、ビルの揺れは止まるどころか、さらに激しくなっていた。


「このままじゃ…」ルナはふと不安が頭をよぎった。「私たち、全員ここで死ぬかもしれない…」


その言葉に、テジュンは振り返り、妹の目を真剣に見つめた。「そんなことはさせない。俺たちはここを抜け出す。絶対に。」


ルナはその言葉に小さく頷き、再びジョンウを支え直した。「行くわよ、テジュン。」


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再び大きな揺れがビルを襲い、瓦礫が崩れ落ちてくる。ルナは素早く反応し、倒れかけた天井の一部からジョンウをかばった。


「気をつけろ!」彼女はテジュンに叫んだ。


「ありがとう…」ジョンウは辛うじて息を吐きながら、ルナに感謝の言葉を口にした。だが、彼の目にはまだ冷たさが残っていた。「お前たちがこんな形で俺を助けるとはな…」


「まだ終わってないわ、ジョンウ。」ルナは鋭い視線を彼に向けた。「あなたの秘密をすべて暴くまで、私は諦めない。」


ジョンウは微笑を浮かべたが、その微笑みはどこか皮肉に満ちていた。「なら、その時まで生き延びろ。俺たち全員が、な。」


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場面転換: 絶望的な脱出劇


廊下の先に、階段への通路がかろうじて残っているのを見つけたルナとテジュンは、そこに向かって走り出した。しかし、その瞬間、再び大きな爆発音がビル全体に響き渡り、崩壊の危険が一層高まった。


「早く!」テジュンが叫ぶ。


三人は何とか階段にたどり着くが、崩れ落ちた瓦礫と火花が彼らの脱出を阻む。揺れるビルの中で、生き延びるための道は限られていた。

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