第24話 揺れる信念、迫る影

激しい雨が降り続くソウルの夜、ルナとテジュンは荒れ果てた路地を駆け抜けていた。暗い空と同じように、彼らの心にも重苦しい不安が広がっていた。協力者と合流し、辛うじて追跡者の目を逃れて進んでいたが、彼らが追いかけてくる気配は消えなかった。


「ここまで来たら、もう少しだ…」テジュンは息を切らしながら言った。


ルナは一瞬立ち止まり、暗闇の中で辺りを見回した。「本当に逃げ切れるの?」


その声には不安が色濃く滲んでいた。彼女の手にはまだ、父の罪を暴くための証拠が握られている。だが、それを守ることができるかどうか、自分たちの命が果たして助かるかどうか、その答えはわからないままだった。


「大丈夫、ルナ。俺たちは絶対に逃げ切る。」テジュンは彼女の手を握りしめ、力強い声で言った。


「こっちだ!」協力者が叫び、裏道にある狭い通路を指差した。


二人はそれに従い、急いでその方向へ進んだ。路地の先には、古びた倉庫が見えてきた。今にも崩れそうなその建物に入ると、中は暗くて湿っていたが、一時的な避難所には十分だった。協力者がドアを閉め、三人は息を整えるために立ち止まった。


「ここなら少しの間、安全だろう。」協力者は言いながら、周囲を確認した。「奴らもこの場所までは追ってこないはずだ。」


ルナは大きく息を吐き、背中を壁に預けながらスライドして座り込んだ。雨に濡れた髪が顔に張り付き、彼女の疲労感は隠しきれなかった。「…でも、これで終わりじゃない。」


「まだ終わってないさ。」テジュンも壁に寄りかかりながら、無理に微笑んだ。「これからが本当の勝負だ。」


その時、協力者が真剣な表情でルナに向き直った。「ルナ、あの書類を持っている以上、彼らは執拗に追ってくるだろう。君が暴こうとしている真実は、あまりに大きすぎる。君が父親を裏切る決断をしたこと、後悔はないか?」


その問いに、ルナは一瞬、言葉を失った。彼女が今握っているものは、父親カン・ジョンウが築き上げた財閥の裏の顔。そしてそれは、彼が犯してきた不正の証拠でもある。それを公表すれば、父が守り抜いた帝国は崩れ去り、名誉は地に落ちるだろう。


「後悔…あるわけない。」ルナは小さな声で言ったが、その言葉には確固たる決意が感じられた。「父を裏切っているのかもしれない。でも、私たちが正すべきことはこれしかないの。母さんが亡くなった理由も…父さんが犯した過ちも…」


テジュンはその言葉を聞き、黙って妹を見つめた。彼もまた、父親に対する複雑な感情を抱えながら、ルナと同じ道を選ぶ覚悟をしていた。


「ルナの言う通りだ。」テジュンが静かに口を開いた。「俺たちはもう逃げるわけにはいかない。このままでは、父さんが残した影が俺たちを支配し続けることになる。」


協力者は少し目を細め、何かを考えるように唇を噛んだ。「そうか…君たち兄妹の決意は固いようだな。」


その瞬間、倉庫の外から聞き慣れた音が響いた。車のエンジン音とともに、数人の男たちが近づいてくる気配がした。追跡者たちが再び彼らを見つけたのだ。


「まずい、来たぞ。」協力者が低く呟いた。


ルナとテジュンはすぐに立ち上がり、緊張した表情でドアの方を見つめた。外からは足音が徐々に近づいてくる。彼らの息遣いが聞こえるほど、距離はもうほとんどなかった。


「どうする?」ルナが焦りを隠しきれない様子でテジュンに尋ねた。


テジュンは一瞬考え込んだが、すぐに強い決意を込めた声で言った。「ここで待ち伏せして、反撃するしかない。これ以上逃げているだけでは、奴らにずっと追われることになる。」


協力者もすぐに動き出し、近くにあった金属パイプを手に取った。「彼らをここで食い止める。君たちはその間に証拠を確実に届けるんだ。」


「でも…」ルナは躊躇した。


「大丈夫、俺たちは生き延びる。」テジュンが彼女を真っ直ぐに見つめて言った。「これが最後のチャンスだ。俺たちはここで止まるわけにはいかないんだ。」


ルナはテジュンの言葉に力強く頷いた。そして、胸の奥で再び母の言葉を思い出した。


「真実を知りなさい。そして、恐れずにその道を進むのよ。」


外の音が一層大きくなり、追跡者たちが倉庫のドアに手をかけようとしていた。ドアが開け放たれた瞬間、テジュンは前に飛び出し、彼らの動きを止めようとした。協力者もまた、その場で必死に応戦する。


銃声と叫び声が倉庫の中に響き渡り、緊迫した空気が一瞬で場を支配した。ルナはその様子を見つめながら、心の中で祈り続けた。これが終われば、彼女はついに真実を手に入れることができる。


だが、そのためにどれだけの代償を払うことになるのか、まだ誰にも分からなかった。

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