【毎日17時投稿】月影の怪盗 - LUNA

湊 町(みなと まち)

第1話 月夜の襲撃

ソウルの夜は、深い静寂に包まれていた。市内中心部にそびえるジェハン美術館は、厳重な警備のもと、その美しい建物を冷たく輝かせている。照明が美術品の展示室を照らし、財閥の権力を象徴するように堂々とその存在感を主張していた。今夜も、多くの美術品が完璧なセキュリティシステムに守られている――はずだった。


誰も気づかないうちに、美術館の屋上に一人の影が現れる。黒いコートに身を包み、顔には銀色のマスクをつけたその人物は、月明かりを背にしながら静かに立っていた。怪盗ルナ。彼女の鋭い目が、建物の周囲を一瞬で見渡す。警備員たちが定期的に巡回していることも、隠された監視カメラの位置も、彼女にとってはすでに頭の中で描かれた地図の一部にすぎなかった。


ルナは、腰に取り付けた装置から細いワイヤーを引き出し、ひっそりと屋上の縁に結びつけた。美術館の壁を一気に滑り降りるその動きは、まるで影のように軽やかで、無音だった。足が地面に着く瞬間、彼女は次の行動に移っていた。小さな装置を取り出し、外部のセキュリティシステムに侵入する。ルナの指がキーボードの上で踊るたびに、セキュリティの赤いライトが静かに青に変わっていく。


「予想以上に警備が増えているわね…でも、問題ない。」


彼女は冷静に呟く。ルナにとって、どれだけ強固なセキュリティがあろうと、計画は既に完璧に練られていた。彼女の脳内では、既に成功した未来が描かれている。それでも、少しの油断も許さない。全ては一瞬の判断にかかっている。


数分後、ルナは無事に美術館内に潜入していた。静まり返った館内の展示室に並ぶ美術品の数々が、青白い月明かりに照らされて神秘的な輝きを放っている。美術品の一つ一つに目を向ける余裕はない。彼女の目的はただ一つ、「青い月」と呼ばれる財閥のシンボルともいえる宝石だ。


「ここにいる。」


展示ケースの中に鎮座するその宝石を見つけた瞬間、ルナは小さな笑みを浮かべた。ジェハン財閥がその象徴として誇る「青い月」。財閥の力を象徴するこの宝石を盗み出すことこそ、彼女の計画の第一歩だ。


だがその時、彼女の背後で音がした。警備員の足音が近づいている。


「まずい…」


一瞬、躊躇する。しかし、ルナはその足音を完全に無視し、細やかな手つきで展示ケースのロックを解除する。すぐに宝石を取り出し、コートの内側にしまい込む。タイミングは完璧だった。警備員が現れる前に、ルナは影のように次の出口へと向かう。


外に出た彼女は、美術館の裏手に停めていたバイクに飛び乗った。エンジンを掛け、夜の街へと消えていく。彼女の姿が完全に見えなくなった後、警報が鳴り響いた。


「次は、ジェハン財閥の本丸…」


ルナは月明かりの下で、静かに呟いた。


---


ルナの復讐の旅は、今まさに始まったばかりだった。彼女の胸には冷たい決意と、家族を失った悲しみが深く刻まれている。これから、彼女の計画はさらに大きな波紋を広げ、やがてソウルの街全体を揺るがすことになる。

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