【完結】【韓ドラ】月影の怪盗 - LUNA

第6話 新たなる協力者

ソウルの夜空に散った雨が、静かに街を濡らしていた。月明かりが雲に隠れ、街灯がぼんやりとした光を放つ中、ルナは一人で歩いていた。カン・テジュンのオフィスから逃げ出してから数時間が経っていたが、彼女の心にはまだ静かに渦巻く感情が残っていた。彼が語った真実――それがどこまで信じられるものか、彼女にはまだ確信が持てなかった。

「父が…財閥の違法取引を知っていた…？」

ルナはその言葉を何度も反芻していた。もしそれが本当なら、父が命を落とした理由は彼が正義を守ろうとしたからだ。しかし、その正義のために、彼女は家族を失い、復讐に取り憑かれている自分自身を見つめ直さなければならなかった。

「私は何のために盗んでいるんだ…？」

雨が彼女のコートを濡らし、冷たい風が頬に吹きつける。しかし、ルナは止まらなかった。彼女にはまだやるべきことが残されている。そして、そのためにはさらなる情報と協力が必要だった。

その時、ルナは小さな路地に目を留めた。そこには、かつて彼女が何度も訪れた秘密の場所があった。スラム街の一角にひっそりと佇む廃れたバー「**影の酒場**」。そこは、表向きは忘れられたような古いバーだが、裏では情報屋たちが集う秘密の拠点として知られている。

ルナは静かにバーの扉を押し開け、中に入った。薄暗い店内には数人の客が座っており、低い声で話し合っている。カウンターの向こう側には、バーテンダーが彼女を見つけて一瞬だけ頷いた。彼はルナの顔を覚えているようだった。

「久しぶりだな、ルナ。」

バーテンダーは落ち着いた声で彼女に話しかけた。彼の名は**ミン・ジュンス**、かつて犯罪組織に身を置いていたが、今では情報屋としてスラム街に根を下ろしている男だ。彼はルナが何度も訪れていることを知っていたが、彼女の正体には気づいていなかった。しかし、ルナがただの盗賊ではないことは、彼の長年の経験からわかっていた。

「久しぶりね、ジュンス。」ルナは席に座り、彼に目で合図を送った。「今夜は少し厄介な話があるの。」

ジュンスは彼女の表情を読み取ると、他の客に軽く目配せした。まるで合図を受けたかのように、客たちは次々と席を立ち、バーを後にしていく。ルナがここに来たときは、いつもこうだった。彼女が求める情報は、誰にも知られてはならない。ジュンスもまた、彼女が大きな何かに巻き込まれていることを感じていた。

「何があった？」ジュンスは低い声で問いかけた。彼はルナの鋭い目をじっと見つめ、彼女が次に何を語るのか興味を抱いていた。

「カン・テジュンと会った。」ルナは率直に答えた。ジュンスの目がわずかに見開かれる。彼はすぐに理解した。テジュンはジェハン財閥の次期後継者として、今や権力の中心にいる男。そんな人物と対峙するのは、ただの盗賊にとってあまりに危険すぎる。

「テジュンだと…？何があったんだ？」

「彼は、私が父を失った理由を知っていると言ってきた。財閥の違法取引に父が関わっていたこと、そのせいで命を落としたことを。」

ジュンスはその言葉を聞いて眉をひそめた。「本当なのか？」

「わからない。でも、もしそれが本当なら…私の復讐は単なる盗みではなく、もっと深い意味を持つことになる。」

ルナの言葉に、ジュンスはしばらく沈黙して考え込んだ。彼は多くの人間が金と権力に翻弄され、命を落としていくのを見てきた。財閥や政府、闇の勢力が絡むこの世界では、誰もが自分の正義を持って生きている。しかし、その正義が何なのかを見極めるのは非常に難しい。

「もしその話が本当なら、お前が背負っているものは、もっと大きなものだな。」ジュンスは重々しく言った。「だが、気をつけろ。テジュンが何を企んでいるのか、完全に把握できるわけじゃない。お前を利用しようとしているかもしれない。」

ルナはその言葉を心に留めた。テジュンが彼女に対して何を考えているのか、まだわからない。だが、彼の言葉には何か隠された意図があることは確かだ。そして、彼女はその意図を見抜く必要があった。

「それで、どうするつもりだ？」ジュンスが問いかける。

ルナは一瞬、目を閉じてからゆっくりと答えた。「カン・テジュンの次の動きを探る。そして、彼が隠しているすべての証拠を暴き出す。それがジェハン財閥を倒す唯一の方法よ。」

ジュンスは頷きながらも、慎重に言葉を選んだ。「君が一人でそれを成し遂げられるとは思えない。テジュンは用心深いし、財閥の力は想像以上に強大だ。君が彼を倒すためには、もっと大きな力が必要だろう。」

その言葉に、ルナはしばらく考え込んだ。彼女はこれまで、ほとんどの仕事を単独でこなしてきた。だが、今や彼女が直面しているのは、個人的な復讐を超えたもの。ジェハン財閥という巨大な権力に立ち向かうためには、彼女一人の力では不十分かもしれない。

「協力者が必要だってことね。」

ルナは静かに言った。ジュンスは軽く頷いた。「そうだ。だが、君に協力できる人間はそう多くない。君の目的に共感し、リスクを負える者だけだ。」

ルナはジュンスの言葉に重みを感じながらも、冷静に思考を巡らせていた。協力者を得ることは確かにリスクを伴うが、それが彼女の目的を果たすための最短ルートであることは間違いない。だが、誰を信頼できるか、それが最大の問題だった。

「一人、心当たりがある。」ルナは口を開いた。「**ソ・イネ**…ジェハン財閥の秘書で、彼女は内部にいるにも関わらず、財閥を憎んでいる。彼女なら、内部の情報を提供してくれるかもしれない。」

ジュンスはその名前を聞いて驚いた。「ソ・イネ…確かに彼女なら内部情報を知っているだろうが、彼女は危険だ。財閥に長年仕えてきた人物が、簡単に裏切るとは思えない。」

ルナは静かに微笑んだ。「彼女もまた、財閥に家族を奪われた人間よ。彼女が持っている怒りは、私と同じ。信頼はできないかもしれないけれど、協力者としては最適な人物だと思う。」

ジュンスはしばらく考えた後、同意の意味を込めて頷いた。「わかった。だが、気をつけろ。裏切り者はどこにでもいる。信頼できるかどうか、慎重に見極めるんだ。」

ルナはその言葉を胸に刻み、ゆっくりと席を立った。「ありがとう、ジュンス。また連絡する。」

「気をつけろ、ルナ。」

彼女は軽く頷き、静かにバーを後にした。雨は依然として降り続けていたが、ルナの胸には一筋の光が差し込んでいた。ソ・イネとの接触――それが、次の一手となる。彼女の復讐の旅は、まだ終わっていない。むしろ、ここからが本当の始まりだった。

---

外に出たルナの目には、暗い街が広がっていた。だが、その先にはテジュンとのさらなる衝突、そしてジェハン財閥の崩壊という目標が待っている。彼女は足早にその場を後にし、新たなる協力者を得るための一歩を踏み出していった。

果たして、彼女が求める真実は手に入るのか――その答えは、まだ霧の中にあった。