第16話


家に閉じ込められましたが、なんとか逃れる事に成功しました。部屋に戻り、ドアをしっかり施錠して寝ます。もう声がしても絶対に開けません。


『開けてぇ!!勇者様!!お願い!ちょっとだけだから!!』


絶対に開けません。


朝になるのを待ちます。

日が昇り始めたのに気づくと、村人と会わないようコッソリ村から出ました。


馬車か仲間が欲しかったですが、もうあの村の人達と話をするのも遠慮したいので今まで通り1人歩いて帰ります。



数日歩いて、街に到着しました。ここの街は前には滞在していないので、誰も僕を勇者だと勘違いする人はいませんから安心です。

初めてこの街に来ましたが、店も人通りも多く賑わいがあって見てるだけでとても楽しいです。


「らっしゃい!!安いよ安いよ見ていって!」


野菜や果物が並べられている露天商のところで立ち止まり眺めました。それに気がついた店主が僕に声をかけます。


「お兄さん、うちのはとっても新鮮で美味しいよ!どうだい1つ!いや1つと言わずもっと買ってくれてもいいがね!!」


圧が強めの店主さん。うん、美味しそうなのは確かですから、1つ買おうかな?それに声を掛けてもらったからには何か買わないとなんだか悪い気がします。


「では、りんごを1つ頂けますか?」


お金を手渡し、りんごを受け取ります。やはり街を歩くのは良いですね。普段経験出来ないことがいっぱいあって刺激的です。

ふと思いました。


マルロ村に急いで帰る必要もないのでは?


多分、シーア教会に僕が勇者パーティーを抜けたという報告はされていない筈です。

マルロ村に戻っても毎日仕事の連続ですし、現在は他の神父が代行してくれています。

シーア教で出世したいのなら急いで帰る必要もありますが僕にそんな欲はないですし、ならゆっくり寄り道しながら帰るのがベストではないでしょうか。


「数週間この街に滞在してもいいかもしれませんね」


ええ。思わず口に出しましたが、それがいいかもです。ずっと旅をし続けて疲れが溜まってますし、しばらくとどまってリフレッシュするべきだと思います。


よし。この街に滞在する理由も出来たことですし、宿をとってから歩き回ろうと決めました。


宿に荷物を置き、ブラブラ当てもなく街を歩き始めました。


歩いて一番気になったのは、冒険者の数が多いことです。荒くれ者、学のない人がなるイメージの冒険者。僕の住む国ではあまり見かけない人達です。

主に冒険者の仕事は、魔物の退治、護衛、街の清掃など肉体労働です。近づいて因縁吹っかけてくるかもしれませんので、余り近づかないようにしましょう。


「ざっけんな!そっちが悪りーだろ!!」

「はあ?お前舐めてんだろ!」


僕が冒険者の側に行かないように決心した直後、さっそく目の前で冒険者同士の取っ組み合いを目にしました。


その二人は僕の想像した冒険者像そっくりな人たちでした。

髪も服装も綺麗とは言い難く少し臭います。想像通りの人がいたことにちょっと感動です。

心の中ではテンション上がっていますが、素ぶりには見せず彼らから離れようとします。なのに何故か彼らは僕の方に近づいてきました。


「あぁ?何見てんだオメー」

「見せもんじゃねんだぞオイコラァ!」


チラッと見ただけなのに絡まれてしまいます。

他の人も見ていたはずなのに何故僕だけ絡まれているのか釈然としませんし、喧嘩していたはずの2人が仲良く僕を責め立ててくるのも意味が分かりません。


「大きな声がしたものですから、自然とそちらに顔を向けてしまっただけなのです。不快に思ったのなら謝ります」


あまり騒ぎにしたくありませんし、軽く謝罪してこの場を収めようとしたのですが……。


「謝罪だけじゃあ足りねぇな」

「おう、金出せや。金」


えぇ、横暴が過ぎる…。


「そこまでよ」


どう対応すべきか悩んでいると、腰に剣を携えた赤髪の女性が僕と冒険者の間に割って入ってきました。


「あ?……って、アイリかよ!?」

「貴方達みたいのが居るから、冒険者のイメージがいつまでも低いままなのよ」

「んだとっ!」

「おい、やめとけ。そいつS級だ」

「………ちっ。覚えてろよ」


捨て台詞を吐き捨て、2人は何処かに行ってしまいました。ちょっと待って。なんで喧嘩してた同士で仲良く去っていったんですか?


「もう安心よ。ごめんなさいね、うちの冒険者が迷惑をかけて」


女性は、僕が去っていった彼らの方をずっと見ていて不安に感じていると思ったのか、肩に手を置き優しい声音で声を掛けてきます。


「いえ、助けて頂きありがとうございます」

話の流れからすると彼女も冒険者なのでしょう。冒険者なのに冒険者らしくないというかまともな人もいるんですね。


「私はアイリ。この街を拠点にしている冒険者よ。あの2人が逆恨みしてまた君にちょっかい掛けてくるかもしれないから帰る場所まで送るわ」

「いや、そこまでして頂かなくても大丈夫です。僕もこう見えて鍛えていますから」


僕も勇者パーティーの一員でしたから、そこらの冒険者に負ける筈ないです。

「いえダメよ。仲間も呼んでやって来るかもしれないわ。そうなったらいくら鍛えていても逃げられないでしょ?」


う、うーん。アイリさん、なんだか押しが強く、断るのに苦労しそうなのでお願いしますか。


「じゃあお願いします」

「ええ!任せてちょうだい」


本当はもう少し街を歩きたかったですが、明日の楽しみにして宿に戻ります。


「クノウ君、この街は初めて?」

「はい。さっきこの街に着いたところでした」


宿に戻る最中、アイリさんがよく話を振ってくれるので退屈せず過ごしています。


「そうなんだ。着いたばかりなのに災難だったね」

「いい経験できたと思ってます。僕の住んでいる国にはあまり冒険者は居ないので新鮮でした」


勇者パーティーにいた時は、冒険者を見かけた事はありますが、話をする機会はなかったんですよね。


「へぇ、クノウ君の国は冒険者いないんだ」

「はい、だから冒険者の方ってどういう人なのか興味があるんです」

「そっか。あ、冒険者ってクノウ君に絡んだ奴みたいなのばっかりじゃないからね。誤解しないでほしいな」

「ええ、アイリさんみたいに優しい方もいる事は分かってます。」

「……うん。そ、そうだ、冒険者に興味があるんだったら明日ギルドに行ってみない?冒険者登録って簡単に済むし、少し冒険してみるってのもいい経験になると思うよ」

「ギルドですか」


冒険者ギルド。冒険者の溜まり場と言うイメージのある場所です。そこで冒険者は仕事を請け負うのですから当たり前なんですけど。確かに興味があります。


「そう、しばらくはこの街に滞在するんでしょ?私も明日は暇だから案内するよ!」


突然の申し出に悩みますが、まぁ時間はありますし、案内してくれると言うなら甘えても良いかもしれませんね。


「そうですね。ではお願いしていいですか?」

「うん、約束だよ!」


話の区切りもいいところでちょうど宿の前まで着きました。


「あ、此処です。今日はありがとうございました」

「どういたしまして。じゃあ明日宿に迎えに行くから!」


彼女はそう言うと走って何処かに行ってしまわれました。

アイリさん、親切な人です。彼女と出会えたのはとても幸運でした。街に来るまでに女性に不信感抱いていましたけど、やっぱり良い人もいるんだと再認識しました。


宿に戻り、今夜は部屋でゆっくりしているんるですけど……。


「暇です」


ベッドに横たわり、思わず呟いてしまいました。やはり1人だと何もすることがなく、時間を持て余してしまいます。

まだ寝るにも早いですし……。


「あら、お客さんどこか行かれるんですか?」

「はい、少し歩いてこようと思いまして」


暇すぎるので、今夜は部屋で過ごすようにとアイリさんに言いつけられましたが、破って街を少し回ろうと考えました。


「あー、でも夜はちょっと治安が悪いですからやめておいた方がいいですよ?」


アイリさんだけではなく宿の店員も忠告してくるなんてこの街、そんなに危ないんですか。俄然興味が湧いてきました。


「大丈夫。こう見えて結構鍛えていますから、危ない目にあいそうだったら逃げるくらいは出来ますよ」


僕は、心配そうな顔をしてくる店員を振り切り街へ繰り出します。


「おう、にいちゃん。1人でなーにしてんの?」


すごい。またです。

夜、街に繰り出してからガラの悪そうな人に絡まれたのはこれで3回目になりました。

まだ30分も歩いていないのですけど、多過ぎじゃありませんか。


「あぁ?なに黙ってんだよ」

「なんとか言えや」


呆れて何も言わずにいると、彼らは気に食わなかったのか怖い顔をして威圧してきます。

仕方ない、またボコってしまいましょう。

此処じゃあ人目に付きますし、移動したいですね。なので僕は彼らに笑顔を向けて言いました。


「人通りが少ないところで話しませんか?」

「へげぇっ」

「ちょっ、まっ」 ドフッ


ホイホイついてきてくれた彼らを倒しました。勿論、一応話は聞いてから殴りましたよ。予想通り、聞くに耐えない話でしたが。


「ふぅ」


これでも元勇者パーティーメンバー。そこら辺の冒険者に負けるわけにはいかないのです。

そろそろ宿に帰ろうかと思っているところに聞き覚えのあるガラの悪そうな笑い声を聞こえてきました。確か、昼に僕に絡んできた連中です。

一度身を潜め、彼らの様子を観察します。


なんで路地裏でたむろっているのか、冒険者の人たちは謎ですね。また悪さを企んでいるのでしたら、僕がしっかりぶん殴っててやろうと心に決めます。

聞き耳を立てているとアイリさんの話をしていました。


「いやぁ、アイリの姉貴の無茶振りには困ったもんだぜぇ」

「ああ、あのイケメンも可哀想に」

「一目惚れしたからってああいう形で恩を売って近づくなんてなぁ」

「でもいい手ではあるよな。流石アイリの姉貴」

「そうだ、俺らも良い女がいたらああやって落としてるか!」

「おっ、いいな!!」

「よし、そうと決まったら仲間を集めて決行だ」

「「「ガハハハ!!」」」



…………………………………………………。僕は街から逃げ出しました。

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