第4話

あっという間に時が経ち、僕は4年生になりました。


「会長、この資料の確認をお願いします」

「ええ、分かりました」


生徒会役員から書類を受け取り目を通します。確認を終えて書類を返し、その前から行っていた作業に戻りました。

僕は3年生の時に生徒会に入り、4年生の夏に生徒会長になってしまいました。優等生のフリをし続けてきたせいで生徒会に勧誘され入ったのですが、それが間違いでした。1年間、真面目に生徒会の仕事を行なっていたら周りから次期生徒会長と噂されるようになっていたのです。やらないと明言していたにもかかわらず、先生方や前生徒会長からどうしてもと懇願され続け断りきれず生徒会長に立候補することになり、最年少での生徒会長就任となってしまいました。

会長になったのですから責任を持って仕事しなくてはいけません。今日も結構な量の書類を片付けます。


「クノウ君、お茶淹れたからそろそろ休憩しよ?」


溜まっていた書類を片付けているとティアがお茶と菓子を用意してくれていました。


「ありがと、助かるよ」


ティアの淹れてくれたお茶を飲んで一息つき、周りを見てみると生徒会室は僕とティアの2人だけになっていました。


「あれ?みんなはもう帰ったの?」

「うん。今日の分の仕事は終わってたみたいだから帰らせたよ。クノウ君がまだやっているから申し訳なさそうだったけど」

「そっか。ティアも終わったなら先に帰っていいよ?」


生徒会長は生徒会役員を指名することになっており、ティアには書記をお願いしました。


「私ももう少しやっておきたい事があるから気にしないで」

「それならいいんだけど」


ティアと少し喋りお菓子も食べ終えると作業を再開しました。そして30分程経過したあたりで今日までに終わらす予定だったものは終わらせることができました。


「終わった〜」


体がこわばっている気がして伸びをしていたらティアがクスクスとこちらを見ながら笑っていました。


「ごめんなさい、笑っちゃった。お疲れ様」

「ティアも仕事終わったの?」

「うん。少し前に終わったのでクノウ君見てた」

「そ、そう。じゃあ一緒に帰ろうか」


帰りの支度は済ましているティアに待ってもらい、一緒に帰ることになりました。


「珍しいね、クノウ君がこんなに遅くなるなんて」


帰る頃には陽が暮れていていつもより大分遅い帰宅時間になってしまっています。


「明日から勉強会が始まるからね。書類は全部片付けておきたかったんだ」


1年生の時から続けている勉強会なのですが、2学期には生徒たちの中で噂になり他のクラスの人も参加したいと申し出てくるようになりました。

気軽に参加してくださいと、僕は快く受け入れ、想定したよりも多くの人が参加しましたが問題なく行われました。

ここまでは良かったのですが……

学年が上がると下の学年の子も参加したいと願い出てくるようになりました。最初は断ろうとしたのですが、どうしてもと頼まれ、まぁ学年が違うしそこまでの人数参加しないだろうと了承してしまったのです。しかし勉強会が開かれる度、どんどん勉強会の参加者が増えてきました。正直、違う学年の方は他で勉強会を開いてほしいと思うのです。きっぱり断れない性格となってしまった所為で苦労する事になっていますが、自業自得なので何も言えません。皆さんがテストで赤点にならないよう教師役をしっかりと頑張るつもりではいます。これで違う学年の生徒にも恩を売れると考えれば悪くはないのでしょう。





「では、始めましょうか」


翌日、放課後になり勉強会が開始しました。本来教室を貸しきるには、教員に説明したり書類を提出したり色々と準備があるのですが、僕主導で毎回テスト期間になると教室を貸し切って勉強していることは学校中に知れ渡っており、事前にどこの教室を借りるかだけ教員に言えば借りられるようになりました。今回はこの学院で最も広い教室を貸し切ることができたので、参加人数が100人超えていてもスペースに余裕があります。


「ーーでさぁ」

「ほんとにぃ?」


勉強会を開始してから数十分、勉強に関係のない話をされている人を見かけます。

これだけ人数が多いと友達と喋って勉強しようとしない人が参加することは予想していました。ですので、そういう人には一度注意した後、改善されなければ帰っていただくようにしています。僕が喋っている生徒に注意をすると素直に従い、教科書を開いて勉強し始めました。しかし何分かすると勉強に飽きたのかまた二人で喋っています。これはダメだなと思い、係の人に目配せをして追い出してもらいました。迷惑な方はいなくなり、追い出された二人を見ている生徒たちはああはなりたくないと思い真面目に勉強してくれますので一石二鳥です。


「損な役割させてすみません。助かりました」

「いえ!クノウ様の役に立てるならこんなの何でもないですから!」


追い出してくれた係の人にお礼を言います。彼は僕の代わりに追い出した二人から逆恨みされる可能性もあります。僕は誰にも恨まれたくなく、恨まれないように立ち回っているので自分の代わりになってくれている人には感謝しなくてはいけません。


「追い出した二人から何かされたのなら言ってくださいね」


追い出した二人が筋骨隆隆な彼に何か出来るとは考えられないので、思ってもないことも言えてしまいます。


「はい!ありがとうございます」


その後は皆さん真面目に終了時間まで勉強に取り組んでくれました。勉強会は1週間開いているのですが、今回初日以外は追い出した生徒はおらず、参加した生徒たちは赤点を取ることなく済んだようです。





季節は冬になり、最近は生徒たちがソワソワして落ち着かないように感じます。何か知っているかとティアに聞いたところ、2日後にちょっとしたイベントがあるからだそうです。その日は気になる異性や仲の良い友人にお菓子をあげる日になっているようです。数年前から平民の間でだんだんと流行り始めて、上級階級の人にもそのイベントが知れ渡るようになったとのことです。そういえば去年のこの時期にお菓子をもらったのもイベントだったからなのですね。ティアが言うには今年は去年以上にそのイベントに参加する生徒が増えるそうでみんな誰にあげるか、貰えるかで盛り上がっているようです。


「じゃあ僕もティアに何かあげるよ」

「え!?」


軽い感じで言ったのですが、凄く驚いたという顔をティアがしています。


「迷惑だった?」

「いっいえ!全然。嬉しい」

「そっか。あとは生徒会とクラスの人たちにもあげようかなぁ」

「え?」


日頃から仲良くしている人には渡しておこうと、渡すリストを頭の中で考えていると、


「…クノウ君、お菓子を渡す人数は1、2人程度が普通なのです」


真顔で言ってくるティア。


「あっそうなんだ」


いろんな人に渡して出来るだけ多くの人に媚を売ろうと思っていたのですが、そういう決まりがあるのなら仕方ありません。


「じゃあティアだけに渡すよ」


この学院で一番仲がいいのはティアですので彼女に渡すのが一番でしょう。


「はい。私も持ってくるので交換しましょうね!」




「クノウ様、これどうぞっ」

イベント当日の朝、登校していると何人かの生徒からお菓子を貰えました。


「ありがとうございます」

「はひ、じゃっじゃ私はこれでっ!」


昨年もそうでしたが、何故か皆さんお礼を言うと顔を赤らめて逃げてしまいます。お菓子をくれるということは、僕に好感を持ってくれているということなので一緒に登校して仲良くなりたいのですが…

いつもより遅い時間に教室に着き、周りを見てみると特に男子生徒がソワソワしているように見えます。異性から贈り物を貰えるのではないかと期待しているようですね。女子生徒と仲良くしているところを見たことさえ無い男子生徒まで貰えるのではないかとソワソワしており、なんとも言えない気持ちにさせられます。貰える可能性は限りなくゼロに近いでしょうに…


「今朝、後輩から貰っちゃった!」

「まじか、裏切り者」

「いや〜すまんねっ」


やはり異性から贈り物を貰えることは嬉しいことなのでしょう。朝から貰えた生徒の舞い上がった姿見て楽しそうだなという感想しかないです。みんなに好かれるよう行動している僕としては、何人からか貰えるのは当たり前のように感じてしまっており、有り難みが薄れてしまっているように思います。

授業と授業の間の休み時間にもお菓子をくれる生徒が現れるので笑顔で対応し続け、帰る頃には両手では持ちきれない程のお菓子の量になってしまいました。


「私も持つよ」

「いや、大丈夫。僕だけで持つよ」


みんなから貰ったものをティアに持ってもらうのはなんだかいけないような気がしたので、大きな袋に入れどうにか一人で持ちました。いつもより重い荷物を持って帰りましたが、ティアと会話しながら歩いているとあっという間に自分の部屋に着くことができました。貰ったお菓子を改めて見ました。


「すごい量だね」

「うん。思ったよりも貰えてビックリしたよ」

「ふふっ、クノウ君は大人気だからね」


部屋に上がってもらい、いつもはティアにお茶を淹れてもらうのですが、今日は淹れたい気分だったので僕が淹れます。


「どうかな?ティアには敵わないけどそこそこ美味しくできたでしょ」

「うん、とても美味しいよ」

「よかった」


その言葉の後は互いに言葉を発することなく沈黙してしまいました。


「………」

「………」


何故でしょう。お菓子を渡すだけですのにこうも気恥ずかしくなってしまうのは。

ですが時間が経つにつれどんどん渡しづらくなってしまうのは分かりきっています。ここは思い切って言うほかありません。


「ティア」

「はっ、はい」

「いつもありがとう。君がそばで支えてくれてどれだけ助けられたか分からない。これからもよろしくお願いします」


感謝の気持ちを伝えてティアのために選んだお菓子を渡しました。


「手作りしてみたかったんだけど、あまり時間が取れなくて市販のものになっちゃったのはごめんね」

「ううん、嬉しい…」


渡したお菓子を大切そうに胸に抱きながら、眩しいくらいの笑顔で僕にお礼を言いました。


「ありがとっ」


この後はティアからお菓子をもらい、僕の部屋でゆっくりと過ごしました。



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