ティア視点

*ティア視点*

彼、クノウ君と初めて出会ったのは5歳の頃。今まで出会った人の中で1番綺麗な子だった。それに性格も完璧で、私はすぐに彼のことが好きになった。

ーーーこの人のそばにずっと居たい

そう思った私は父に相談してみた。父はクノウ君の父親の護衛を務めている。彼と一緒にいたいのなら父に頼むのが一番だろう。父は困った顔をしながら難しいと言う。クノウ君はシーア教の重役になるであろう。婚姻も立場が高い人の娘とするだろうとのこと。私は絶望した。そんな私の顔を見た父は慌てて一つの可能性を示した。

「神殿騎士になればクノウ様のそばに居られるかもしれないね」

シーア教の重役の護衛は神殿騎士が任せられる。神殿騎士の父がクノウ君の父親の護衛に任命されているようにクノウ君の護衛になることが出来れば私もずっと彼のそばに居られる。考え込む私に父は慌てて付け加えた。

「ただ、神殿騎士になったからって絶対にクノウ様の護衛につけるとは限らないからね。簡単に神殿騎士を目指すとか言わないように」

父の言うことは無視。私は可能性があるのならばとそこに賭けることにした。下を向いていた私はパッと顔を上げ父に宣言する。

「お父様、私、神殿騎士になります!」

「ティア!?」


神殿騎士になるために頑張る。父に宣言してから私は努力し続けた。勉強だけではなく剣術の稽古も行っている。幸い、剣術は楽しく才能もあったみたいでめきめきと上達していった。クノウ君とはあまり会えず寂しく思うけど、将来は四六時中一緒に居られるのだから我慢。そんな生活を数年続けていった。

剣術に打ち込み続け、同世代の子達と比較すると私は頭一つか二つ抜けた存在となっていた。そして10歳になる頃には剣の先生と互角に打ち合えるくらいには力をつけることができた。


神学院の入学式。

新入生代表としてクノウ君が挨拶をしている。久しぶりに見た彼にテンションが上がってキャーって叫びそうになる。いけない。厳かな雰囲気の入学式にそんなことをすれば周りからもクノウ君からも白い目で見られること間違いない。

学園生活。私はまさか6年間同じ学院で彼と過ごせるという事実に驚いた。このことを知ったのは入学前、クノウ君の両親が私に彼を警護してほしいとお願いしてきた時だ。神殿騎士になるまで彼と一緒にいられないと思っていた私はどういうことかと父に目で問いかけると、

「そういえばそうだった」

……この時に気づいたらしい。

後で父をしばき倒すとして、クノウ君の両親からのお願いは願っても無いことだ。すぐに護衛をすることを了承した。ご両親の承諾ありで少し強引にでも一緒に居られる。

私は週に何度か彼の部屋の掃除をするようになった。 授業もいつも隣、放課後もよく一緒にいる。私はとっても幸せ。ずっとそばに居たいと願っていたことが学院にいる間は叶っているのだから。

あと彼の両親が心配したのも分かる。

彼はとっても無警戒だ。女子生徒から人気なのは分かるけど、一部の男子生徒からも…なんというか気持ち悪い視線を受けている。自分の容姿に自覚がないのか、誰彼構わず接し過ぎている。私がそばに居なかったら非力な彼は襲われていただろう。彼の美点でもあるのだけど誰にでも優しく接するのは止めてほしい気持ちがある。

勿論クノウ君のその行いで良い結果に繋がったこともある。寮の先輩に聞いた話によれば、平民側と貴族側の関係は険悪で6年間クラスが同じでもほとんど話さないと言っていた。だけど私達のクラスは平民と貴族の仲は悪くなく、クラスの雰囲気はとても良い。その理由としてクノウ君が平民、貴族分け隔てなく接しているからだろう。クノウ君はクラスの中心人物になっていて平民と貴族の仲を取り持っているのだ。

自分の事ではないのに誇らしい気持ちで一杯になる。やっぱり彼は特別だ。クラスの皆をまとめている姿を見て、クノウ君が人の上に立つのに相応しい人物なのだと再確認出来た。いずれシーア教の枢機卿……いや教皇にもなれる器かもしれない。そして私は彼の護衛として四六時中一緒にいる。うん。いいと思う!将来のことを考えていると自然とやる気が漲ってくる。


「じ、じゃあねティア」

「うん、また明日」

最近クノウ君は一人で街に遊びに行くことに嵌まっているらしい。私に隠しているようだから気づかないフリをしているけど、バレバレだ。彼は隠し事とか向いていないと思う。

放課後一緒に寮に帰っている時から妙にそわそわしており、これから街に遊びに行くのだと気付いてしまう。いつもならひっそりとクノウ君の後を追うんだけど、今日は彼の父に呼ばれており、他の人に彼の護衛を任せる。

「失礼します」

「おお、来たかティア君」

今日はクノウ君の父に彼のことを直接報告することになっている。子煩悩な人で月に1度彼のことを報告するように言われているのだ。いつもは手紙を送るだけだけど、今回は学院の近くに用があったみたいで直接報告してほしいと頼まれた。息子に会われたらいいのではないかと言ってみたら、休暇の時以外に会うことはしないと決めているらしい。

「それに私だけ会ったら妻がずるいと拗ねてしまうよ」

枢機卿はそう言ってカラカラ笑った。

報告が終わり寮に帰ろうとしたところで、枢機卿の部下が慌てて駆け込んできた。部下はクノウ君が攫われたと告げる。一瞬頭が真っ白になった。

どうして?私の代わりに護衛が付いていたはずなのに…

なんでも街でクノウ君を見張っていた2名のうち1名が犯人とのこと。私はすぐ駆け出し、彼を探した。

「クノウ君…」

それから数時間後に彼と犯人の居場所にたどり着いた。

部屋に匂いがこもっていたのと2人とも裸であったことから何をしていたのかはすぐに分かった。

「あら、もう見つかっちゃった」

犯人は気を失っているクノウ君の上に乗りながらこちらへ向き、笑った。

ーー殺す

剣を抜き、犯人の手足を切断する。

すぐ殺してはダメだ。苦しめてから殺そう。次は…と思ったら枢機卿の部下が私を抑えようとする。

何故?

目で問いかけると尋問するからまだ殺してはいけないと言われる。まだ殺さないから。苦しめるだけだから。離してくれと頼むけど話を聞いてくれない。犯人が連れていかれるまで私は拘束されたままにされる。歯を食いしばり感情を抑える。それから彼を保健室に運び、ずっと側で見守った。クノウ君が目覚めるまでグルグルと考え込んでしまう。後悔、怒り。クノウ君を失っていたかもしれないという恐怖。もし犯人が暗殺を目的としていたのならば彼は今頃死んでいた。そう思ったら全身に震えが生じた。

彼が起き、いつもと変わらぬ様子で私に接してきたのに対し、私はみっともなく泣きじゃくり謝り続けた。彼は私の頭を撫で落ち着かせようとしてくれた。私よりもクノウ君の方が心に傷を負っているだろうに私を元気づけようとしてくれる。私のわがままでそばに居てくれる。私は決心した。もっと強くなろう。誰にも負けないように。クノウ君の為にも…と。

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