第15話
「クノウ、お前をパーティーから追放する!」
魔王討伐の旅に出て半年、勇者様からパーティーを追放されました。勇者様と2人きりの時に言われたので、他の仲間は納得しているのか聞いてみます。
「それは…これから説得する」
大丈夫ですか。
まぁ正直パーティー内で僕のやる仕事は少なく、あまり力になれていない自覚はあります。
近接は勇者様とティア、後方射撃はメルヒナさん、回復は聖女様がメインで担当。僕はその3つの役割の中でその時足りてない役割につくといった感じです。
ぶっちゃけいらないんですよね、僕。
僕よりも斥候とかタンクをパーティーに入れた方が安定すると思います。
なので勇者様から追放すると言われて納得だったので、揉めずにパーティーから出て行きました。
「今までお世話になりました。絶対に魔王を倒してくださいね」
「ああ。それは任せろ」
「あと僕が抜けること、ちゃんと他の仲間には言い聞かせて下さいね」
「あ、ああ」
彼ならきっと魔王討伐を成し遂げてくれることでしょう。ただ、唯一不安なのが彼がパーティーメンバーをちゃんと説得してくれるのかということだけです。
……さて、マルロ村にどうやって帰ろうか考えます。
帰るまでの路銀は勇者様から幾らか貰えたので大丈夫そうですけど、こんな知らない土地を1人で歩くなんて不安で仕方ありません。
近くの村に寄ったら馬車とかで一緒に帰ってくれる人がいませんかね…。
「ふう」
歩いていると、魔物と遭遇しましたがなんとか倒せました。
勇者パーティーの道中では、魔物と遭遇したらティアが一刀両断するか、メルヒナさんの魔法で掃討するかでしたので、久しぶりの魔物との実戦でした。
やはり仲間がいるっていいものだったのですね。
1人だと全部自分でやらなくちゃいけなくて面倒に感じます。
それからも何度も魔物と遭遇し、襲われるので返り討ちし続けていきました。
ぽんぽん現れる魔物たち。
もういい加減嫌になってきて、ここら一帯を魔法で跡形もなく燃やし尽せば、魔物に煩わせずに済むのではないかなんて馬鹿な考えが浮かんできます。
そうやって余計な考えを巡らせながら歩いていると、ようやく村に到着しました。
「やっと着いた」
「おや?クノウ様、戻ってきてどうなさったんですか?」
2日前までみんなで滞在していた村ですので、村人は僕の顔を覚えてもらえていたようです。追放されたとは流石に言えず、訳あって元の国に戻らなくてはいけなくなったと答えます。
「そうでしたか。今日はここでお休みに?」
「はい。なのでまた泊まる部屋を貸していただけないかと。勿論謝礼は出します」
「構いませんよ。では先日泊まって頂いた部屋を使って下さい」
「ありがとうございます」
今日はこの村で休み、明日からまた頑張ってマルロ村に戻りましょう。
夜。借りた部屋で寛いでいると、ドアをノックする音が聞こえます。
……………無視します。もう遅いですし、寝ましょう。
念のため、他人が入ってこられないようにドアを氷の魔法でしっかり固定してから寝ます。
トントン トントン
まだノックしています。
反応してはいけません。どの村でもそうでした。
違うと言っているのに僕を勇者だと決めつけ、若い女性が夜這いしにやってくるのです。
ドアを開けて対応するのは神経を使いますから、聞こえないふりをするのが一番です。
トントン
今夜の方はなかなか諦めませんね。もしかして、違う用事なのかも……。
ドンドン!
開けてみるべきか考え始めたら、ドアを叩く音が一段と強くなり、外にいる人が大声で呼びかけてきました。
「勇者様!勇者様!大変です、開けてください」
緊迫している声。これは、本当に何かあったのでしょうか?
魔法を解き、まだ開けずドア越しに何が起きたかを聞きます。
「どうしましたか?」
「っ!お、弟が、突然倒れてしまって…。助けてください!」
それはいけない。僕はすぐドアを開け、目の前にいる女性に尋ねます。
「どちらですか?案内してください」
「はい!こっちです」
案内する女性が走り、それについていってる中で僕は自己嫌悪に陥りました。変な誤解をして本当に困っている人の手を取るのが遅れたのです。僕は神父失格です。
「こちらです」
着いた先は一般的な庶民の家。ここに倒れた方がいるのですね。
案内してくれた人がドアを開き、家へ招いてくれます。
家の中を見て、倒れている人を探したのですが…。
あれ、誰もいない?
ガチャリ
嫌な予感がして振り返ると、服を脱ぎ出している女性。
「お、弟さんは?」
「ごめんなさい。嘘です」
ああ、僕はまた騙されたみたいです。でも良かった。倒れた人がいないみたいで。ホッとした気持ちと同時にこうも思いました。
もうヤダ!!
*勇者カイト視点*
普通の高校生だった俺はいきなり異世界に召喚された。召喚されて最初に目にしたのは、乙女ゲームに登場してそうな3人のイケメンだった。
「人間?」
「どういう事だ。こいつが魔王を殺せるほどの力を持っているというのか」
「さあ?私は王子の言う通りに行っただけですから」
「なんだと貴様!」
言い争いを始めた3人を眺めていたが、直ぐにどういう状況なのか把握したくて3人に話しかけた。
「あ、あの!ここは何処ですか?」
すると揃って冷たい目でこちらを見てきて、1人が俺ではなく控えていた兵士に言った。
「おい、そいつを拘束しろ」
「はっ!」
「え、え?」
何が何だか分からず拘束される俺。助けを求めるが誰も応えてはくれない。
「すぐに奴隷の首輪をつけろ。我々に逆らえなくする為にな」
奴隷?……それより、このままじゃマズい!
それだけは分かった俺は、拘束を解こうと暴れ、大声で助けてを呼んだ。
「誰かぁ!!助けてください!!!」
「おい、早くそいつの口を塞げ!誰か来たらどうする!」
俺は抵抗しながらも必死で叫ぶ。
「何をやっているのですか?」
「え」
取り押さえていた兵士が急に倒れると同時に女性の声が聞こえた。聞こえた方を向くと、そこには金髪の綺麗な女性が立っていた。
「なっ、メルヒナ!どうして此処に!?」
「それはこちらの台詞ですわ。最近、キルヒ様達が何か企んでいるとの報告があって監視していましたが正解でしたわね」
「ちっ。クリス、ナイル!」
男3人は剣を抜き、たった1人の女性の前で構える。
「あら、抵抗なされるの?」
「王宮魔法使いといっても、どうせコネを使ったのだろう?そんな奴を恐れるものか」
「……呆れた。安く見られたものですわね」
彼女が手をかざすと一瞬で男達が氷漬けとなった。
「は?」
何もないところから氷が出た。それに地球じゃ考えられない髪の色の人たちがいる。
多分そうなんだろう。
ここで漸く俺は異世界に来たのだと確信した。
「もう大丈夫です。申し訳ありません、怖い思いをさせてしまって」
もう危険はないと安心させるような笑顔でこちらを見てくる彼女に見惚れて、返事を出来ずにいると、なにを思ったのか彼女は自己紹介をしてきた。
「わたくしは宮廷魔法使いのメルヒナと申します。貴方はわたくしが責任を持って保護させていただきます」
こうして俺はメルヒナに保護され、異世界での生活が始まった。
「ほう、彼が?」
「ええ。まさか、本当にいるとは……」
数週間、メルヒナや他の宮廷魔法使いに世話になりながら生活していると、俺は王城に呼び出され、何故か多くの人に持て囃された。
目的が分からぬまま色んな人と話し、時が過ぎたのでそろそろ帰らして欲しいと頼んだ。
「おや、魔法使い達から言われてなかったか?」
「君の身柄はこちらに引き渡されたんだ。だから今日からここが君の家だよ」
なんと俺の身柄はメルヒナ達から王家に引き渡されたみたいで、これまで過ごした場所には戻れないようだ。
今まで過ごした場所に帰れないのは寂しいが、王宮魔法使いのメルヒナ達とは王城でも会えるだろうからそこまでショックは受けることは無かった。
「それと、これからは色々勉強して貰うから宜しくね」
王城での生活から1週間が過ぎた頃、俺はシーア教とかいう宗教の神官に会わされた。
その人は言った。
「貴方様はこの世界に選ばれた勇者。どうか魔王を討伐し、この世界をお救いください」
神官が頭を下げると、周りにいた人達も俺に声を投げかけた。
「勇者様!」「お願いします」「魔王を倒して!」
この空気の中で断る勇気は俺には無く、
「わ、分かりました。俺が魔王を倒します」
と、簡単に了承してしまった。
まあ、これで俺は物語の主人公みたいになれるんじゃないかと期待してしまったのもあるけど…。
それから魔王討伐の為に剣術や魔法の稽古、この世界の一般常識などの勉強をより一層強いられることとなった。
俺と旅をする3人と顔を合わせた。
シーア教の聖女ルーナ。白銀の髪、華奢で小柄な美少女だ。パーティーの回復役を担当する。
剣士ティア。薄い青髪、第一印象は元気いっぱいな美少女。神殿騎士というエリートしか入れないところに最年少で入った腕利きらしい。
最後は、唯一顔見知りのメルヒナ。他の王宮魔法使いに聞いた話によれば、この国一番の魔法使いらしい。
勇者、聖女、剣士、魔法使い。ゲームと同じようなパーティー編成。これで大丈夫なのか心配になるけど、お偉いさんがこれで魔王を倒せると豪語しているから大丈夫なんだろう。
それに可愛い女の子3人と旅が出来るのは俺的にとても嬉しい。もしかしたら3人の誰かと恋人同士になれるかもしれないと淡い期待がある。
「みんな、宜しくな!」
テンション上がってきた。
俺は今まで以上にやる気になって鍛錬に励んだ。
剣の鍛錬が進み、ティアに自慢したくて探していたら、ティアとメルヒナがイケメンと楽しく喋っていた。
なんだか2人とも俺と喋っている時とは違う感じ。
「分かりました。ご指導お願いします」
「うん!強くなって聖女様を驚かせよう!」
「わたくしもサポートしますから頑張りましょう」
そんな2人を見ていたくなくて話しかけた。
どうやらティアとメルヒナはこのイケメン野郎に惚れているようだ。話を聞く限り、ルーナもそうなんだろう。
クソ!
いや、待て。別に付き合っているわけじゃないんだし、これから4人で旅をし続けるのならアイツなんかより俺を好きになってくれる可能性だってあるんだ。
その思った俺は再びやる気を出し、鍛錬に励んだ。
「クノウを旅に同行させてはもらえませんか?」
魔王討伐の旅まであと1週間、4人でお茶会をしていると突然ルーナが言った。
「アイツをか?いやでも、今回の旅についてこれないだろうし無理だろ」
絶対に嫌だ。それに体力も戦闘経験もなさそうで入れるメリットが無い。最もな意見を出してアイツがパーティーに入るのを阻止する。
「体力は毎日走り込んでいますから付いてきましたし、魔物の討伐は何度もしていますから、このパーティーの役に立つと思います」
「うん!クノウ君、剣術も上達してきたし良いと思うな」
「ええ。わたくし達のサポート役としてクノウ様が加入するのは賛成ですわ」
ルーナの提案に2人が賛成を示した。
「そうなのか?でも俺はクノウの事よく知らないし、あと1週間で出発だからな。人見知りの俺が知らない人と旅に出るのはちょっと嫌だな」
このパーティーのリーダーは俺だ。俺が頷かなければアイツが加入することは出来ない。
みんなもそれは分かっているから残念がりながらも諦めた様子だ。
「……どうしても駄目ですか?」
「うっ」
ルーナが上目遣いで俺のことを見つめてきた。この顔をされるとどうにかしたいと思っちゃうんだけど、今回は…………いやそうだ!
「じゃあ、俺とクノウ。模擬戦をしてアイツが勝ったらパーティーに入れる。これでどうだ?」
剣術ができると言っても俺ほど真面目にやってないだろうし、負けるはずないだろう。
ルーナは俺にもう少し譲歩するようお願いすると思ったが、すんなりと提案に乗ってきた。
「分かりました。では、いつ頃模擬戦をしましょうか?」
「…俺は今すぐでも良いぜ。いつやるかは任せるよ」
簡単に俺の提案に乗るってことは、ルーナはアイツが俺より強いと思っているのか?モヤモヤした気持ちになる。
「では、今から始めましょうか。クノウのいるところに案内します」
4人一緒にクノウがいる場所へ行き、そこで模擬戦を行なった。
結果は俺の勝ち。
思ったより強くてヒヤヒヤしたが、何はともあれ約束通りクノウのパーティー加入はなくなった。それが決まった事で俺は意気揚々と話し出す。
「ま、まぁまぁだな。でもこの程度じゃあ旅の同行を許可するわけには「カイト様」
話を遮り、メルヒナが俺を呼ぶ。
「ん、なんだ?メルヒナ」
「クノウ様は剣術に加え、魔法、神聖術を扱うことが出来ます」
「は?」
「それだけ出来るのですからパーティーメンバーとして十分だと思いますわ」
はぁ?じゃあ魔法と神聖術を禁じて俺と模擬戦していたのかコイツは!?俺も魔法は扱えるけどノーコンで相手に当たらないから使わなかった。もし魔法を使われていたなら確実に俺は負けていた。
4人が俺を見てくる。これでパーティー加入に許可を出さなかったら、俺の好感度は絶対下がるだろうな…。でもパーティーに加入させたら絶対コイツから3人を奪えないし…。
俺は悩みながらも決断する。
「わ、分かった。よろしく頼む、クノウ」
「え、ええ。お願いします、勇者様」
結局クノウをパーティーに迎えた。
「クノウ、お前をパーティーから追放する!」
魔王討伐の旅に出て、半年が過ぎたけどクノウがあまり役に立っているように感じなかったから追放してやった。
最初から目障りな奴だった。
イケメンでみんなから好かれている。
ハーレムパーティーだと内心喜んでいたのに、3人ともクノウに惚れている。正直やってらんねー。異世界召喚されたのにあんまりだ。この世界救う価値あるのかとか思っちゃう。俺、結構頑張ったよ。剣に魔法に礼儀作法、勇者だから当然とばかり厳しくさせられた。それなのに誰も俺に惚れられる気配がない。
3人に言った。
あいつを追放したと。
一瞬で戻ったけど、3人とも俺をゴミを見るような目で見たように感じた。
「どうしてクノウ様を?」
「パーティーの役に立ってないと感じたからだ」
「まだ間に合うよ。4人でクノウ君を連れ戻そう?」
「必要ない」
「……では、私がクノウを連れ戻してきますから皆さんは先に行っててください」
「いや聖女様、私が行きます。このなかじゃ一番足が速いですから」
「ティアさん、貴女はこのパーティーの前衛。一番大事なポジションです。わたくしが行きますわ。魔法がありますから探し出すのはわたくしが一番早いと思います」
勝手に3人で誰が連れ戻しに行くか話し合っている。そんなにアイツに居て欲しいのか。………もういい。
「全員クビだ」
俺の一言に3人が反応する。
なんかもう疲れた。
「そんなにクノウがいいなら3人で行けよ!お前らなんか居なくても俺1人で魔王を倒すから!」
そう言い捨てて俺は走った。
あんな奴ら居なくても俺1人で世界を救ってやるよ!
アイツらが俺を好きになることなんて無いんだ。
この旅が始まってすぐに気づいたさ。でも、もしかしたらって思ってクノウを追放してみたけどダメだった。
変わらず、アイツらの目にはクノウしか写っていない。もうこれ以上嫌な思いをしながらアイツらと旅をし続けるより、1人で魔王討伐をする方がマシだと思った。だから逃げた。
彼女達から逃げ続けて1時間以上、疲れて横になる。気配を探る。彼女達は追いかけてはこなかったみたい。少し残念に思ってしまったのが忌々しい。
体力が回復し、立ち上がる。
「よし」
覚悟を決め、俺は1人で魔王討伐に向かった。
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