第19話

五人で再び旅をすることになって数ヶ月。旅は順調に進んでいます。


「結構歩いたし、ちょっと休憩しようぜ」

「え、また〜?まだ1時間くらいしか歩いてないよ」

「うるせー。俺はティアと違って体力バカじゃないんだよ」


カイト様とティアが言い合っています。

こんな光景、前は見たことはありませんでした。カイト様はもう三人を女性として意識することはなくなったようで、遠慮のないやり取りをするようになりました。


「なあ、クノウをそう思うだろ?」

「クノウ君も言ってやってよ」


言いたいことを言い合える環境。勇者パーティーの雰囲気が良くなったと感じます。


「僕も疲れてきたので休みたいです」


カイト様が疲れているんです。このパーティーで一番体力のない僕も疲れているに決まっています。


「そうだよな!やっぱクノウとは気があう。ほら、ティア」

「もう分かったよ。聖女様達もいいですね?」

「はい」

「ええ、わたくしも賛成ですわ」

「では結界を張りますね」

「ありがとう」


魔物に襲われない為の結界をパパッと張ります。

ティアがシートを広げ、みんなに座るように促します。そこで水分補給、雑談をして数分間過ごしました。


「それにしても魔物が見かけないな」

「ええ、こんなに遭遇しないのは初めてです。もしかしたらこの辺の魔物を操っている魔族がいるのかも」

「メルヒナさん、周囲の様子を確認してもらっていいですか?」

「承知しました」


メルヒナさんは目を瞑り、魔法で周囲の生体反応を確認してくれました。


「………いました。ここから2キロ先、魔族です」


メルヒナさんの発言でみんなの表情が変わります。


「確か村が近くにある筈です。そこを襲おうとしているのでしょうか?」

「どうしますか?カイト様」


僕はリーダーのカイト様に方針を聞きます。


「決まってんだろ、クノウ。魔族はみんな倒す!」


ですよね。


「うん。カイト君ならそう言うと思ったよ!」


ティアがいち早く立ち上がり、やる気充分といった様子です。


「落ち着いて、ティア。それで、戦うのはいいとして相手より先に気づいたのです。奇襲を仕掛けるべきだと思うのですがどうでしょう」


相手は魔族。正々堂々戦う必要なんてありません。


「ああ、俺も賛成だ。ちゃっちゃと倒して先に進もう」





魔族に勘付かれぬように慎重に移動してから数十分、魔族を発見しました。


「あそこにいます」


赤い肌、全長2メートルは超える存在感が凄まじい異形です。奴は魔物を従え歩いており、こちらに気づいた様子はありません。


「よし。手筈通り始めるぞ」

「はい。皆さん、神聖術をかけます」


聖女様の神聖術で一時的に身体能力、魔力量を向上させます。


「よし、メルヒナ」

「ええ」


メルヒナさんが魔法を放ちました。

それと同時にティアとカイト様が飛び出し、魔族に斬りかかります。


「がっ!!」


魔法が直撃し、手傷を負ったところにティアが手足、カイト様が首を狙います。


「きさまらっ---」

「はぁっ!」


二人とも狙った場所を切り落とすことができ、勝負は一瞬で決まりました。


あとは僕とメルヒナさんが周りにいる魔物達を魔法で一掃して、戦闘は終了となりました。


「やったね、カイト君」

「ふぅ、楽に倒せたな」


ハイタッチしているカイト様とティアの方へメルヒナさんと一緒に向かいます。


「二人ともお疲れ様でした」

「おう。クノウとメルヒナもお疲れ」


奇襲だったとはいえ、魔族をここまであっさり倒せるなんて思っていませんでした。

みんな、予想よりはるかに力がついてきているのかもしれません。


「あー疲れた、今日はもう何もしたくねぇ」


一瞬だったとはいえ、命のやり取りをしたのです。そりゃあ肉体的にも精神的にも疲れますよね。


「魔族が襲おうとした村があるようなので、そこまで歩いて休ませていただきましょう。メルヒナさん、案内お願いしていいですか?」

「はい、勿論」


僕が言い終わると、後方に控えていた聖女様もこちらに来たようで二人を労います。


「お疲れ様です。カイト様、ティア、回復術要りますか?」

「ううん、傷はないし大丈夫だ」

「私もです」


皆さん傷一つなく済み、動きに支障はないので早速村で休むために移動を開始しました。






メルヒナさんの案内で小さな村に着きました。

村の様子を見ると殺伐とした雰囲気です。

どうやら魔物が村を襲おうとしていることを感じ取っていたらしく、臨戦態勢についていたようでした。

僕達が魔族と魔物を退治したことを話すと、村人たちは大喜びで感謝の言葉を伝えてきました。


「勇者様。魔物の群れを退治してもらい、有難うございました」


村長が代表してお礼の言葉を言いますが、カイト様ではなく僕の手を取って発言しており、僕を勇者だと間違えているようです。


この間違いももう何度目になるか。

呆れるほどみんな間違うのです。


カイト様の顔が曇ってしまっているので、すぐさまカイト様が勇者であると教える必要があります。

村長の手を振りほどき、ポンッとカイト様の背中を押して少し前に行かせると、彼の両肩に手を置き言ってやりました。


「僕ではなくこのお方こそ、世界を救う勇者カイト様です。二度と間違えてはいけませんよ」


少し威圧するように村長に言い、間違いを正します。


「も、申し訳ありません!」


村長は勢いよく頭を下げ、誠心誠意謝罪をしており、カイト様も許したみたいです。


「あ、ああ。間違いは誰にでもあるし、今度から気をつけてくれ」

「はい。寛大なお言葉ありがとうございます!」

「それより俺たち、今日はもう疲れてるんだ。部屋を貸してくれると助かる」

「ええ、勿論です。今、村の者に案内させていただきます」


村人に部屋まで案内されていると、ティアがカイト様をからかっていました。


「まーた間違われたね」

「ああ。クノウの方が顔が良いから勇者だと思われるんだろ。このイケメンめ!」


怒ってるフリをして僕の肩を叩いてきますが、まったく痛くないです。


「どうやったらカイト様がクノウより勇者っぽくなるか考えてみますか」

「良いですね!」


前は僕が勇者と間違えられていたら、不機嫌なのを隠さずパーティーの雰囲気が悪くなっていました。

それが今では冗談も流せるほどです。上から目線な考えになりますけど、成長されたみたいで嬉しい気持ちになります。


「あら、クノウ様。なぜ微笑んでますの?」


ティアと聖女様がカイト様をからかっているのを見て思わず口元が緩んでいたら、隣を歩いていたメルヒナさんにその様子を見られたようです。


「僕達、パーティーらしくなったなぁと思って嬉しくなったんです」

「…そうですわね」


メルヒナさんと三人のやり取りを眺めていたら今日泊まる部屋に着いたと村人から声を掛けられました。


「こちらです。すみません、2部屋しかなく狭い思いをしてしまうかもしれません」

「いや、大丈夫。ありがとう」

「そ、そうですか。ではゆっくりしていってください。私はこれで失礼します」


最後にお辞儀をして村人は去っていきました。


「んじゃ、2部屋しかないなら男女で分かれるしかないよな。俺とクノウはこっちの部屋使うから、お前らはそっちでいいか?」

「はい、問題ありません」


2部屋とも同じような間取りと言っていたので揉めることなく決まります。


「おお、結構広いじゃん」

「そうですね。これなら聖女様達も不満に思うことなんて無いでしょう」


部屋はベットが4つは余裕で入る広さです。村人の恐縮しまくっていた態度からもっと狭い部屋を提供されると思っていましたが、想像より遥かに広くてびっくりです。村人からは僕達が普段どんな部屋で寝泊まりしていると思われていたのでしょうか?


「あー疲れた」


カイト様は早速ベッドにダイブして寝ようとしています。

……まぁ、今日は魔族との一戦で疲れているようですし、小言は言いません。

僕も身体を拭いたらすぐ寝ようと思います。


「………魔族。結構あっさり倒せたな」


身体を拭いていると、カイト様が目を瞑りながら話しかけてきました。


「そうですね」

「俺、魔族と戦ったのこれで二度目でさ。一度目は俺一人で死にそうになりながら苦労して倒したんだ。いや、最後はクノウがトドメさしてくれたんだけど…。それで今回は余裕の勝利って感じで。奇襲に失敗しても多分勝てていただろ?やっぱ仲間がいるのっていいなって思った」

「……はい」

「だから、その…サンキューな」

「その言葉、聖女様達にも言ってやってください」

「ええー。あいつらに言うのはなんか癪なんだよなぁ」


今言ったようなことを異性にも言えたらカイト様はモテるようになると思うんですけど、まだ無理なようです。


「あっ、なんか目ぇ覚めたわ。話そうぜクノウ」

「えぇ、もう寝ましょうよ。いい感じで話が終わりそうだったんですし」

「いいからいいから」


カイト様が寝落ちするまで喋り倒しました。

いろんな事を話しました。

カイト様の性癖。胸より脚派。清楚なお姫様とか大好き。勿論、美少女なら誰だって好きになるとか…。

本当に下らないことまで知ってしまいました。


「お前はどーなんだよ」


僕は、僕の野望について初めて誰かに語りました。

人の弱みにつけこみ、好き放題する神父になってみたいと。

彼は馬鹿だなって笑いましたが、否定せず応援までしてくれました。


「魔王討伐したら俺たちは英雄だ。そんくらい許されるだろ!……ぷっ、あははは!」

「そんなに笑わなくていいじゃないですか」

「ごめんごめん。いや真剣に語り出したと思ったらこれだろ。笑っちゃうだろ」


馬鹿にした笑いではなく、心底面白いと思って笑ってくれており、嫌な気分にはなりません。


「じゃあ俺も…。やっぱり異世界来たならハーレム作れてぇな!いやまず童貞捨てたい」

「そんなにいいものじゃないですよ」

「お?やんのかイケメン」

「僕の初めては8歳の頃「ごめん、俺が悪かった」


こんなに明け透けに話し合った友人は互いにいなかったものですから本当に楽しいひと時でした。


「早く魔王倒して夢を叶えようぜ」

「ええ」


そして僕達二人は自分の夢のために一刻も早く魔王を討伐する決意を固め合いました。




それから2年後、僕達は魔王を倒すことに成功しました。

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