第18話


僕はメルヒナさんが開発した《クノウを見つける魔法》について詳しく聞いてみて、彼女は応用がきかないと言っていましたが、どうにか改良し《勇者を見つける魔法》を開発することに成功しました。

その魔法を使い、四人で勇者様の元へと急ぎます。


勇者様を追い始めてから3日、魔法で近くまで来たことが分かって、もうすぐ合流できると安心していると、勇者様のいる方角から戦闘の音がしたのです。

僕達は休憩中で、女性三人は水浴びにいっており、すぐそこへ向かうことができたのは僕一人でした。

戦闘音がした場所に辿り着くと、なんと勇者様が大勢の魔物に殺される寸前で、僕は慌てて魔法を放ち、魔物を全滅させます。

そして現在、勇者様を助けることができ、無事合流することができました。


「良かった、間に合って」


冷や汗ものです。もしすぐ様子を見に行ってなかったら今頃勇者様は死んでいましたから。

ん?そういえば意図せず、勇者様に恩を売ることができましたね。この状況は使えます。今、僕と勇者様の二人きり。

今なら逃げられず、じっくり話し合うのに御誂え向きです。


「お前、なんで?」


目を開けた勇者様は驚いた表情をしてこちらを見てきました。


「なんで、とは?」

「なんで俺を助けたんだよ!!」


俯きながら彼は喋ります。


「俺はお前に酷いことしたのに…」


酷いこと?パーティーを追放したことでしょうか。


「あれは勇者様の判断は正しかったです。旅に出てからの僕はあまり役に立っていなかったですから。僕も納得して出ていったでしょう?」


罪悪感を持ってしまったんですかね。気にしないでいいのに…。本当に優しい人です。僕は座り込む勇者様と目線を合わせるために膝をつきます。


「あなたは僕を嫌っているようですが、僕はあなたのこと嫌いではないんです」


彼を助けた理由について語ります。


「あなたは知らない世界に来て見ず知らずの人達のために戦い続けてくれているんですよ。嫌いになれる筈ないじゃないですか」


みんなの為、逃げずに戦う。だからこそ彼は『勇者』なのでしょう。


「そんなあなたが窮地に陥いってるのなら迷わず助けます。助けたいんです。理由としてはそんな所ですかね」

「…………」


勇者様は俯いていた顔を上げて僕を見ると、目から涙が溢れていました。


「え!?ど、どうしましたか!?」


僕が焦った顔をすると、勇者様は安心させるように泣きながらも笑いかけてくれます。


「い、いや、その、こんなまっすぐ俺のこと褒めてくれる人なんていなかったから嬉しくて…」


嬉し泣きでしたか。

その様子に僕も思わず笑ってしまいます。


「そんなに嬉しく思ってくれるだなんて、こっちまで照れてしまいますよ」

「うるせー」


なんだか彼との距離が縮んだ気がします。


「その、ありがとな、クノウ。俺を助けてくれて」

「どういたしまして」


その後、聖女様達と合流する為に移動しながらも勇者様と会話をしました。


「それで…これからまた俺とパーティー組んでくれるってことでいいのか?」

「ええ。その為にあなたを追ってきたんですから。これからもお願いします」

「おう!っていうか勇者様って堅苦しいからカイトでいいよ」

「そうですか?ではカイト様で」

「様もいいんだけどな…」


カイト様がボソッと言ったのは聞こえましたが、あえて無視します。


「そう言えば何故聖女様達も置いていってしまったのですか?彼女達は旅に必要な筈でしょう」

「それは…」


言い淀んで、ばつが悪そうな顔をしながらも答えてくれました。


「あいつらはお前のことばっかりだ。俺には興味がない。俺は勇者だから仕方なく相手してくれていたんだろうな。露骨ではないけど、何となく分かるんだ。それが嫌だったからあいつらも追放した」


疎外感。誰も自分を見てくれていないと感じたのでしょう。それなら一人の方がマシだと思ったようです。本当に彼女達は……。


「すみません。聖女様達が」

「いや、いいんだ。あいつらはお前の事が好き過ぎるだけなんだよ。羨ましい」

「……それでも一人で魔王討伐の旅は続けてくれていたんですね。やはりあなたは優しい人です」


もし僕がカイト様の立場だったら勇者の役割なんて放り投げていたことでしょう。


「違う。この役割すらやらなかったら俺の居場所が何処にも無くなってしまうと思っただけだ。俺が優しいわけじゃない」

「………」


異世界から来た彼にとって、この世界で本当に一人で生きていくのは難しいことです。勇者という役割から逃げてしまったら誰も頼れる人がいなく、生きていくためのスキルもない只の力が強い人になってしまいます。勇者であるから教会や国の支援があって不自由なくやっていけているのです。

彼もそれを分かっていたのでしょう。だから与えられた役割を果たす事で、自分の今の居場所にしがみつくしかなかったのです。


「この世界に召喚されてどう思っていますか?」

「まぁ、一応感謝してる。俺、天涯孤独で友達もいなかったから元の世界には未

練はないんだ。向こうの世界では何の取り柄もなかったのにこの世界に来て特別扱いされてさ。気分良かったよ。これからたくさん活躍して、女にもモテて充実した日々を過ごせるって舞い上がった」


天涯孤独…。友達がいない…。

今の話を聞いて納得した事があります。前から思っていました。カイト様はなんでも自分の力だけで行おうとする癖があります。その理由は今まで頼れる相手が居なかったからなのでしょう。


「でも現実はそう上手くいかないな。だーれも俺に気がないんだから」

「そんな事ないですよ」

「気を遣うなよ。……それで上手くいかない理由がクノウにあると思うようになって。八つ当たりでお前を追放したんだ。お前がいなかったらもっと…俺に都合のいいようになるって考えたんだ。…………ごめん」


本当に申し訳なく思っているようで落ち込んでいます。結構後悔しているみたいで、ただ謝罪を受け入れるだけじゃ罪悪感は消えそなさそうですね。

少し考えて僕は言いました。


「では、僕の言うことを1つ聞いてくれたら許します」

「お、おう」


僕はお願いを口に出します。


「これからはもっと他者と関わっていってください」

「……それだけ?」

「はい。前から少し思っていたんです。カイト様は人との接し方がぎこちないかもです。前の世界で人との関わりが少なかった影響でしょう。もっと人と関わっていけば、改善されると思うんです」


このお願いをすればカイト様のことを知ってくれる人が多くなり、彼のことを見てくれる人が増えると思ったのです。


「他者と関わる…か。分かった。やってみる」

「ええ、頑張ってください」


一件落着。気を取り直して、違う話題を出そうとしましたが、カイト様はまだ今の話題について聞きたいみたいです。


「他者と関わるって男でも女でもいいんだよな?」

「男女共にです」

「あー、そっか。うん、頑張る」


何ですか。そのおざなりな返事は。


「そうだカイト様、女性にモテたいと言ってましたが、女性と接していかなくてはモテるものもモテません。あなたは女性と話すとき、気恥ずかしいのか口数が少なくなっていましたよ。そういうところも改善していってください」

「うっ、心に来るんだがその通りかもしれない」


僕とカイト様は歩きながらたくさん話しました。聖女様達が遠くに見えてきて二人きりの時間はもう僅かになりました。


「こんなに喋ったの初めてだ」

「これからもっと喋るようになりますよ」

「ああ。クノウが一人で助けに来てくれて良かったよ。四人で来てくれていたら、お前とここまで仲良くなれやしなかっただろうな」

「ええ、幸運でした」

「最後にもう一度だけ。助けてくれてありがとう」


カイト様が笑顔で礼を言ってきました。前までは考えられなかった出来事です。反応が遅れて何も言えずにいると、照れくさかったのかカイト様は先に三人の方へ向かってしまいました。


「はい、どういたしまして」


僕は彼の後を追いかけました。

さて、ここからが本番ですね。

三人と勇者様の仲直りはどうなるか分かりません。ちゃんと見張って仲直りするように手助けをしないと。





夜。

カイト様は三人とあっさり仲直りしたみたいで、またみんなで旅をすることになりました。

今は男女別れてテントで就寝中です。聖女様と僕の結界があるので、魔物や魔族が襲ってくる心配はなく安心して寝られます。

僕はまだ眠くなく起きていますが、カイト様はぐっすり寝ています。

…………。

今ならずっと気になっていたことが出来る絶好のチャンスです。

カイト様を起こさぬように慎重に移動し、目的のものの前に着きました。それは彼の近くに置いてある聖剣です。僕はなんとなく惹かれていた聖剣をソッと手に取りました。


「軽い…」


普通の剣よりも軽く感じます。これが聖剣。

鞘から抜けるか試します。


「抜けちゃいましたか」


鞘から抜いた聖剣は、まるで長年使い続けてきた剣のように驚くほど手に馴染みます。

すると、剣身が光り輝き、聖剣は僕を受け入れてくれているみたいです。


「やっぱり…か」


すぐ剣を鞘に納め、元にあった場所へ戻します。

聖剣を鞘から抜けるのは勇者だけ。

なのに僕にも抜けてしまいました。

僕が聖剣に惹かれていた理由。

恐らくですが、もしカイト様が異世界から召喚されていなかったら、僕が勇者になっていたんでしょう。

この事はカイト様は勿論、他の三人にも秘密にしておかないと。

そろそろ寝ないとと、寝床に戻ろうとしたところで、


「やっぱりクノウも聖剣使えるんだ」


女性の声が聞こえてきました。振り返ってみると聖女様がテントの外から覗いています。


「聖女様、なんで覗いているんですか!?」

「聖剣の反応を感じたので様子を見に来ました」

「声をかけてくださいよ」

「ふふ、ごめんね。それより、私の予想は当たったね!やっぱりクノウが本当の勇者なんだ」


聖女様は興奮しているのか声が大きいので、一旦二人でテントの外に出てから話をします。


「この事は秘密にして置いてくれませんか?」

「そんなに勇者になるのが嫌?」

「そういう事ではないんです」


まぁ、嫌ではあるんですけど一番の理由は違います。


「僕が勇者だと知られたらカイト様はどうなりますか?」

「お払い箱だと思う」


その通りですが、もう少し言い方を考えて…。


「異世界から召喚されて、それはあまりにも酷な事ではありませんか?だから僕はカイト様のサポートに徹しようと思うんです」


それに今更僕が勇者だと知られたらカイト様はどう思うか。やっと仲良くなれたのに、また関係がぎこちなくなってしまいます。


「うん、クノウらしい。分かった。二人だけの秘密ね」

「はい、お願いします」


聖女様も納得してくれて、安心したと思ったら彼女から提案をされました。


「秘密にする代わりに、魔王討伐の旅が終わったら1つだけお願い聞いて」


またか。断ろうものならどうなるか長い付き合いになる僕には分かるので素直に了承しておきます。


「ええ、分かりました」

「約束だよ」


















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