第17話



女性怖い。

一人で行動するようになって、よく女性に襲われることが多くなった気がします。

魔物や男性相手なら迷わず攻撃できるのですが、女性相手だとそうはいきません。

村や街に滞在すると高確率で襲われるので、路銀の確保や物資の補充など必要最低限しか村や街には寄らないようになりました。

あとはずっと野営しています。


「早くマルロ村に帰ろう」


ゆっくり帰ろうと決めていましたが、やめです。

女性に襲われるなんて予想外のことが起こって、街に滞在出来ないとなると急いでマルロ村に帰ったほうがマシです。

野営にも慣れましたが、やっぱり安心して休める場所で過ごしたい。


学院や勇者パーティーにいた時は、襲われる頻度なんてそこまで多くなかったのに何故なのでしょう。

やはり側に女性がいたからでしょうか。

聖女様達、今頃どこにいるのでしょうか。


「ッ!」


聖女様達のことを考えていると、魔物や野盗に襲われないために仕掛けていた結界が破られました。結界は神聖術で作るものです。神聖術に関しては僕も自信を持っており、そんな僕の結界を破るなんて余程の手練れです。

結界を破った者はもう近くまで来ており逃げられないでしょう。

覚悟を決め、僕は武器を構えて茂みから敵が出てくるのを待ちます。


ガサッ


「あ、見つけた」

「やっほ、クノウ君」

「クノウ様、お久しぶりです」


死を覚悟していたのに、出てきたのは聖女様、ティア、メルヒナさんの3人でした。


「三人共どうしてここに?それに、勇者様は?」


安心したのもつかの間、ここに来たのは三人だけで勇者様がいないことが気になり質問しますが、ティアが僕に詰め寄り身体中に触られました。


「大丈夫?どこか怪我したとことかない?もうっ、なんで勝手にいなくなるの。心配したんだよ」


あの、心配してくれるのは有り難いですが質問に答えてくれてないです。


「だ、大丈夫だよ。それに僕も神聖術は使えるから怪我しても直せますし」


あと勝手にいなくなったのは、勇者様からパーティーを追放されたから仕方なかったのだと言います。

責めるのなら勇者様にしてくれと遠回しにいったつもりです。


「それより先ほどの質問に答えて欲しいんだけど」


ティアがペタペタ触るのをやめてくれないので、メルヒナさんの方に目を向けると答えてくださいました。


「私達も追放されてしまったのです」

「はあ!?なんでですか!?」


勇者様、正気ですか。

ティアが僕の無事の確認を終わらせたのか触るのをやめ、メルヒナさんの言ったことに付け足します。


「クノウ君を連れ戻そうって提案したんだけど、カイト君は必要ないの一点張りで。なら私達の誰か一人が連れ戻しに行こうって話をしていたら突然、3人とも追放だ!って言って走って逃げちゃったんだよ」

「追わなかったのですか?」

「………うん。突然だったから私達、驚いて固まっちゃったんだ。追いかけようとしたときにはもうカイト君は見えないところまで行っちゃった」


じゃあ今、勇者様は一人で魔王討伐に向かっているということですか。

なんで諦めず探さないのか。頭を抱えてしまいたい衝動に駆られます。


「それで僕のところに来たのですね。……あれ?なぜ僕の居場所は分かったのですか?」


こんなに早く僕と合流できるなんておかしいです。ここら辺は勇者パーティーの時に通ったところではありませんし、目立たぬように隠れて休んでいたので闇雲に探しても見つかるとは思えません。

僕の質問にメルヒナさんが前に出てドヤ顔で言います。


「それはですね、私がクノウ様の居場所が分かる魔法を開発したからですわ」

「え」


凄いと思う前に怖いです。というか…。


「……それ、勇者様の居場所は分からないのですか?」

「はい残念ながら。クノウ様だけを見つける事に特化した魔法ですので。勇者様を見つけるといった応用はできないのです」


なぜ僕だけ?と質問する前に答えてくれました。


「クノウ様は見ていてとても危なっかしいのですもの。いつか迷子になるのではないかと思い、開発したのです」

「そっ、そうでしたか」


一応納得はしたので話を戻します。


「では急いで勇者様を探しに行きましょうか」


今勇者様は1人。早めに合流しなくては。もし勇者様が死んでしまったらこの世界は終わりなんです。なのに聖女様は言いました。


「カイト様って本当に必要?」

「……本気で言っているんですか?」

「だって本当はクノウが…」

「?僕がなんです?」

「ううん、何でもない」


聖女様はなにか言いかけるもやめたようです。何を言いかけたのか少し気になりますが、それよりも3人の様子を見ます。なんと彼女達は勇者様に対しての不満がありあり見えてしまっていました。


うーん。


彼女達は、この世界に何の思い入れも無い勇者様が善意で魔王討伐をしているのが分かっているのでしょうか。

この世界のことなんか知るかとか言って好き放題生きていくのではなく、ちゃんと魔王討伐を成し遂げようと努力してくれている勇者様に対して何故不満に思うのか理解出来ません。


多少の我儘でしたら笑って許すべきだというのに…。

勇者様は僕のことが気に食わないのは分かっていました。

だから僕を追放して気が晴れてくれていたのなら良かったのです。

ただ勇者様がなんの憂いもなく魔王討伐へ向かえるようになったのに、彼女達が僕の追放を良しとしなかったのです。

もう何年も彼女達といるので、三人が僕のことを大切に思ってくれているのは分かっているつもりです。

ですが大義の前でそのようなモノは切って捨てるべきな筈でしょう。


三人には少し言い聞かせる必要がありそうですね。


「三人共」


それぞれ返事をしてくれます。


「今この世界で最も重要な人物は誰ですか?」

「私」


即答で聖女様が自分の事を挙げました。厄介な……。


「ええ、そうですね。勿論聖女様も重要です。ですが一番重要な人となると勇者様だと思います。聖女はご高齢ですがもう一人存在しているのに対して、勇者は一人しかいません。彼がいなくなってしまえば、人類に勝ち目はないのです。ここまではいいですよね?」


「うん」「はい」「…そうかも」

「その勇者様は異世界の住民でした。この世界を救う義理なんてない筈です。それなのに魔王討伐に向かってくれているのですから、勇者様の願いは可能な限り聞き届ける事こそが僕達にできるせめてもの恩返しになると思います。その事を忘れないでください」


返事はなく、頷くだけに留まりました。


「行きましょう」


そして僕達四人は勇者様との合流を目指し出発しました。


歩きながら勇者様のことをを案じます。

違う世界に突然連れてこられて、前の世界では剣も握ったことが無かったのに殺し合いをさせられているんです。ずっと不安で怖かったでしょう。

その不安を少しでも解消させるのは僕達、仲間の役割でした。

ただ僕は勇者に嫌われていましたから、あまり寄り添うことをしませんでした。なので聖女様達三人が、その役割を果たしてくれていると思って大丈夫だと信じていました。しかし三人もどうやら勇者に寄り添ってやることができていなかったようです。

彼女達の誰かが恋仲でも親友でも何でもいいから勇者様の大切な拠り所になれれば、彼の精神の安定に役立つと思っていたのですが……。

さっき話をして分かりました。

彼女達には任せてられないと。

ならば僕がその役割を担うしかないでしょう。

僕は嫌われていますがそんなの御構い無しです。

まずは勇者様と二人きりで話し合う必要がありますね。そしてどうにか僕が勇者様の拠り所になれるように仕向けたいです。どうやって切り出すかは道中考えましょう。

あとは流れですね。

これも魔王討伐した後にしか果たせない僕の夢のためです。




*勇者カイト視点*


「………朝か」


陽の光が当たり俺は眠りから目覚めた。

立ち上がり、身体中が凝っているような気がして伸びをする。1人になってからは見張りもいないので、すぐ起きれるように木に寄りかかって浅い眠りになるようにした。


4人と別れてから1ヶ月は経っただろうか。


5人で行動していた時より移動距離が稼げなくなった。この調子じゃあ魔王討伐まで何年掛かるのか。


-1人で魔王討伐なんて無謀すぎる。やっぱりティア達と一緒に……。


余計な考えが過ってくる。


「くそっ」


あいつらの事を思い出しては苛立ち、悪態を吐く。そんな毎日になった。

道中、魔物の気配を感じた。すぐに聖剣を抜き、奴らに気付かれないよう音を立てずに様子を見る。


「数は4、いや5体か」


囲まれたら厄介だ。奇襲で最低でも2体は仕留める。あとは臨機応変にいこう。

俺は炎の魔法の呪文を唱え放つ。魔法は苦手だったが、ここ数週間で使う機会が多くなり大分上達した。


「「「ギャアア!!」」」


よし!3体仕留めた。あと2体。

すかさず生き残った魔物を倒しにいく。距離を詰めていくうちに、魔物もこちらに気づいたようだが遅い。奴等に何もさせないよう手早く斬り伏せることができ、戦闘を終了した。


「ふぅ」


周囲に敵がまだ居ないか確認した後、聖剣を鞘に収めた。

血の匂いに誘われ魔物がまたやってくるかもしれない。直ぐにその場を後にする。

今みたいに、出くわした魔物を倒しては先に進む。毎日その繰り返しだ。

4人といた時と比べモノにならないくらい戦闘経験を積むことができ、強くなっている実感を感じられる。……それくらいか。1人になって良かったことなんて。




食事は簡素なものに変わった。

前はクノウかティアが作ってくれていた。旅に出たらどうせあんまり美味いモノは食べれないと期待していなかったが、クノウ達が作った品はどれも絶品だった。

それが今では、簡易な携帯食料だけの生活となってしまった。


「これも飽きたな」


もそもそ食う。

分かっていたことだ。みんなを追放したんだ。俺1人で全部やってやるさ。


「ッ!!」


瞬間、殺気が飛んできた。

臨戦態勢になる。俺は気配が感じたところに目を向けた。

そこに居たのは青色の肌に目が三つの異形。


「ギャハハ!本当に一人じゃねぇか!」


人の言葉を使っている!

ということは……こいつ、魔族か。

初めて魔族との遭遇。警戒を最大限にして敵を睨みつける。

王城で習った。

魔王を頂点とし、人族と同様の知能を持ち、魔物を支配し操る種族。数は少ないが、腕力や魔力量など人族よりもあって非常に危険だということ。


「何の用だ?」

「あ?テメェ勇者だろ?当然、殺しにきたんだよ!!」


魔族はそう言い放つと同時に襲いかかってきた。奴の攻撃を躱し、一旦距離を取る。

旅の出発前に教官が忠告してくれた事を思い出す。


『いいか。今のお前じゃあ、一人で魔族には絶対勝てない。もし単独で戦う事になったら迷わず逃げろ』


旅に出て半年と少し。ちょっとは成長したと思うが、まだ勝つには厳しいかもしれない。

だけど、ここで逃げてるようじゃ一人で魔王討伐なんて出来やしないだろ!

俺は覚悟を決め、奴を倒すことだけに集中する。


「お、やる気になったみてぇだな。そう来なくちゃ面白くねぇ!」


剣の握りを強め、敵に少しでも隙が生じたら攻撃できるように構える。


「とっ、その前に一応名乗っておこう。俺様は魔王軍幹部ボルフェ」

「……カイトだ」


互いに名乗り終わると、ボルフェは気味の悪い笑みを消し、戦士の顔つきとなった。


「《ファイア》」


先手必勝。俺は炎の魔法を放ちながら接近する。ボルフェは剣で炎を斬ろうとした。

よし、狙い通り!

俺の狙いは、奴が炎を斬り終わった瞬間にできる一瞬の隙。剣を振り下ろせば防御が遅れる筈だ。狙いは首。これで終わらせる。


「なっ!?」

「狙いは悪くない」


予測していたかの様に見事に躱された。

まぁ、そう簡単にいかないか。


「今度はこっちから行くぜぇ」

「ぐっ」


怒涛の攻撃を受けて防戦一方だ。それに一撃一撃が重すぎる。これじゃあ直ぐ体力が尽きてしまう。どうにかしなくては。

捌ききれず肩を斬られた。まずいっ。


「ウラァ!」


攻撃を受け止めようとしたが、耐えきれず吹き飛ばされた。


「いってぇ…」


追撃は…してこない。どうやら俺を舐めているようだ。


「《治癒》」


ルーナに教えてもらった神聖術で傷を癒す。俺の神聖術は未熟で、使用は1日に1度が限界で痛みも完全には消えていない。

もうこれ以上傷を負うわけにはいかないな。

俺は立ち上がり、再びボルフェの前に立ち塞がった。


「待ってくれるなんて、ずいぶん優しいんだな」

「いいってことよ。てめぇが俺様には勝てねぇのがよく分かったからな」


さっきのやり取りでコイツは勝利を確信したみたいだ。その慢心、絶対後悔させてやる。

だが、このまま何も考えずやり合えば確実に負ける。

どうすればボルフェに勝てるか。

剣技では俺の方が優っているが、パワーは圧倒的にあっちが上で、それ故に強引にあっちの土俵に引きずり込まれる。

ティア曰く、力でごり押しするタイプは攻撃のパターンが単調で分かりやすいとのこと。

さっきの剣を交えたときを思い出す。確かに分かり易かったおかげで最後以外攻撃を捌ききれたのだろう。

きっとそこに勝機はある。

俺がいつまで経っても攻めてこないからか、ボルフェの方から仕掛けてきた。


「オラァッ!」


右、右、下、左。うん、さっきと同じような攻撃パターン。だけど反撃はまだだ。奴の攻撃のパターンを完全に理解して、そこから一撃で仕留める。


「ぐっ!」


クソ!攻撃が重い。

やはり俺が奴の攻撃パターンを把握しきるのが先か、把握しきる前に俺の体力が無くなるのかが先かで勝敗が決まる。


「どうした!そんなんじゃ俺様は倒せねぇぞ!!」


剣を持つ握力がなくなってきた。駄目だ、先に俺の体力が無くなる。

やばい、負ける!

敗北がよぎる。

いやだ、まだ死にたくない!!

俺は咄嗟に左手を前に出し詠唱なしで魔法を放った。


「がぁあ!」


無詠唱だったからか威力は乏しいが、敵の顔に直撃したお陰で隙が生まれる。


「クソッ!テメェ…」

「《フリーズ》」


逃げようとしたボルフェの足を氷で固めて逃げられないようにする。


取った!!


俺はボルフェの首を斬ることに成功する。


「はぁっはぁっ」


う、運が良かった。

無詠唱で至近距離での魔法。今まで一度もやったことがなかったが、これは使える。

死にたくなくて咄嗟に放った攻撃に助けられた。


「やったぁ…」


魔族との初めての戦闘。運が良かったとしても勝利は勝利。最近、自信が喪失気味だった俺にはありがたい成功体験だ。


ドスン。


喜びを噛み締めた瞬間、横から衝撃を受ける。


「なぁっ!」


衝撃があった方に視線を向けると、魔物が俺の腹を齧り付いていた。

齧り付く魔物を払いのけ、周りを見てみると何十匹もの魔物に囲まれているのに気づいた。


「なん…で」

「クククッ、バッカじゃねーのぉ!!!一対一なんて誰が言ったよ!」


首だけになったボルフェが俺を嘲笑していた。


「俺様は首が離れても丸2日は生き永らえる!2日もありゃ仲間に首と胴体を繋ぎ合せて貰える。分かるか!今日、ここで死ぬのはお前だけなんだよ!」


そっか、そうだよな。ルール無用の殺し合いだもんな。そりゃあ仲間を引き連れているのも当然か。

怒りはない。だけど、一人で死ぬなんて嫌だな。せめて…。


「せめてお前だけでも道連れにしてやるよボルフェ!」

「ひっ。やれ、お前達!!絶対俺様のところに近づけさせるな!」


魔物が一斉に俺に襲いかかる。俺はボルフェのもとへ行くのに邪魔な魔物以外は無視し一直線に奴のところに向かう。

だが、大量の魔物に飲み込まれ、奴のもとに辿り着けなかった。


「ふぅ、驚かせやがって。じゃあな…えっと名前なんだっけw?」


ここで俺、死ぬのか。

もし他に一人でも俺に仲間がいたのならこんな事にはなっていなかっただろうな。


まぁ、俺にしては頑張った方か。


諦めて、目を瞑る。



しかし待てどもとどめを刺されない 。

目を開けてみると、信じられない光景が広がっていた。

そこには、ボルフェと何十匹と居た魔物達が灰のように砕け散る姿と、それを為した一人の人物が目に映し出さていた。


奴らを倒した人物には見覚えがあって…。


ここに居るはずがない。居ても俺を助ける義理なんてないのに。

俺を助けてくれた人物とは、俺が追放したクノウだった。

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