悪役神父になるのはなかなか難しい
nao
1章:学園生活
第1話
ーー人の弱みにつけこみ、好き放題する神父になってみたい
意味が分からないかもしれませんが、僕はそうなれるように日々努力しています。
僕の父親はこの世界で最も多く信仰されているシーア教の枢機卿を務めている方です。
その息子である僕は将来、シーア教の重役となるため日々勉強に勤しんでいました。
「クノウ様、勉強の時間ですよ〜。あれっ?クノウ様!?誰か!クノウ様がいなくなりました!!」
しかし9歳になったある日、毎日の礼儀作法や教典の読み込みやらの勉強に嫌気がさして屋敷を抜け出してしまいました。抜け出してやってきた先は国立の図書館です。僕は物語が好きでよく本を読んでいました。ですが、僕が読みたいと思った本を読むには周りの大人に許可を取ってからでないと読むことができませんでした。
『駄目です』『これは貴方には早すぎる』『これは読むべき本ではありません』
少しでも聖職者を悪く書く物語や教育に悪いと思われる物語であったのなら読むことが許されなかったのです。
読んでみたい本を自由に読めない事にいつも不満に思っていた僕は、この機会に存分に読んでやろうと思いました。
そこで僕は僕の人生を決める本に出会ったのです。
その本の内容を簡単に言えば、主人公が悪い奴をやっつけてヒロインと結ばれるといったありふれた内容でした。しかし、悪者が神父であったことが僕には珍しく、夢中で読んでしまいました。王道でどこか似たような話を読んだ事がある気もする物語ですが、つまらないということはなく寧ろページをめくる速度がいつもより速くなるほど面白いと感じたのです。そして2時間もしないうちに読み終え、余韻と喪失感を味わっている最中、父の部下たちに見つかってしまい屋敷へと帰されてしまいました。
次の日からはいつもと同じような日常を送っていましたが、僕の頭の中では図書館で読んだ物語に思いを馳せるようになりました。
1日が終わってベッドに入り目を瞑る。
僕は意識がなくなるまでの間、色々と考えこんでしまいます。この時間でも物語のことを考えてしまうのです。
それが何日も続きました。
そしてある決心をしたのです。
ーー僕も物語の神父のようになりたい
僕は主人公ではなく、悪者の神父に対して憧れを抱いてしまいました。
表では人望厚く沢山の人から尊敬されていましたが、裏でシスターや街の女性の弱みを握り脅したりして好き放題している最低な神父になってみたいと思ったのです。
『立派な聖職者になれ』と父から言われ続けたことに対しての反発心もあったのかもしれませんが。
そんなわけで僕は悪い神父になると誓ったのです。
あの誓いから1ヶ月が経ちました。
悪い神父になると決意はしましたが、今の段階では何も出来ませんので今まで通りの生活しています。僕の本番は10年以上も先になることでしょうし、それまでは真面目にやっていくしかありません。
現在僕は9歳ですが、10歳には教会で出世コースに乗るために必要な神学院に入学することが決まっています。
神学院は10歳から6年間、いろいろなことを学んで将来、司教やうちの父のような枢機卿、その上の教皇になる人材を育成する学院です。僕は生まれて物心ついたあたりから教育熱心な両親に家庭教師をつけられていたので、学院に行っても学ぶことは少ないだろうと父の部下から教えてもらいました。
近頃は家庭教師による教育課程が終了したことで、1日中勉強漬けの日々から2時間復習するだけとなっています。
自由な時間が増えたと思って内心喜んでいたら、学院に入学するまでの間、最近保護された3歳年下の聖女さまのお世話係を父に命じられました。
聖女とはどんな傷や病気でも治す癒しの力を持った特別な人間です。
近い将来、魔王が復活すると神様からお告げがあり、その魔王を倒すためには勇者と聖女の力が必要らしいのです。神様は聖女がどこにいるかを教え、彼女が15歳の時に勇者が現れると告げたそうです。そして無事、聖女は教会で保護され、僕が世話役として仕えるようになったというわけです。
「お兄様、これ読んで〜」
「はい、分かりました」
聖女さまは僕によく懐いてくれています。
前任の世話役は酷く拒絶されていたらしいのですが、僕にはそのようなことはありませんでした。今ではお兄様と慕ってくれるほどでとても可愛いらしいです。
僕の膝の上に乗っかって本と僕を交互に見ながらニコニコしている彼女には世界の命運がかかっています。
そう、聖女と勇者には頑張ってもらわなければなりません。
勇者が現れると魔物がもっと活発化して街を壊滅されてしまうこともあると教えられました。
聖女さまが15歳のときは僕は18歳。
16歳で神学院を卒業しても2年間しかありません。新人の神父は慣れないことばかりで余裕なんてないでしょう。僕の夢である神父になってシスターや街の女性を好き放題する前に、魔物が街を襲ってきて死んでしまうかもしれません。
そうならない為にも聖女さまがこの世界の人々を守りたいと思うように僕は時に厳しくもするけれど基本甘やかして接し続けています。
「ーーこうして世界は平和になりましたとさ、おしまい」
聖女さまからねだられた本を読み終え、彼女の方を見るといつからか彼女もこっちを見ていたらしく目が合いました。
「どう、でした?」
「……うん、よかった!」
聖女さまが満面の笑みで答えてくれて、僕も自然と笑みがこぼれました。
最近、僕はほとんどの時間、聖女さまのお世話をしています。しかし聖女さまが勉強する時だけ、自由な時間を過ごすことが出来ました。その時間で僕は教会が運営している孤児院の手伝いをしていました。
将来神父になることを考えれば子供の扱いを学ぶことは無駄にはならないでしょう。前回は僕と同じくらいの歳の子達と掃除を手伝いましたが、今日は5、6歳くらいの子供たちの面倒を見てくれとシスターにお願いされています。
「にいちゃんあそぼー 」「お兄ちゃんはわたしたちと遊ぶの!」「うんち!」「ケインがぶった〜」「そっちが先に殴ってきたんだよ!兄ちゃん」
「ちょっ、ちょっと待ってね〜」
子供たちは僕の服を引っ張って話しかけてくれるのですけど、多すぎて対応に困ってしまいます。
僕は最低な神父を目指していますが、表立ってはいい神父を演じようと思っています。
僕の想像する良い神父は誰が相手だろうと穏やかに接しているイメージです。
ですので内心ではあたふたしていますが、それを子供たちには悟られないよう常に笑顔で余裕のあるかのように振る舞い対応していきます。そして、どうにかこうにか時間まで小さい子達の面倒を見ることが出来ました。
手伝いの時間が終わり、聖女さまのいる屋敷に戻るために孤児院を出ようとしたら、シスターと孤児院の子供たちが見送りにきてくれました。
「クノウ君、この子達の面倒見てくれて、ありがとね。この子たちのお世話は大変だったでしょう?」
「いえ、みんな元気でいい子達でしたよ」
そう言いながら近寄ってきた子の頭を撫でていきます。男の子はヤンチャであまり言うことを聞いてくれず苦労しましたが、女の子は素直でいい子達でした。
「また、遊ばせていただきたいです」
「まあ!クノウ君でしたらいつでも歓迎しますよ」
シスターと子供たちにお別れの挨拶をし、僕を迎えにきた馬車に乗って聖女さまがいる屋敷に戻ってきました。馬車から降りていると頰を膨らませながらこちらに向かってくる聖女さまがいました。
「お兄様、遅い!」
聖女さまはガバッと抱きつき、僕の胸に顔をうずめてきます。授業でストレスが溜まったのだろうと考えた僕は聖女さまの頭を撫でながら謝罪と労わりの言葉を述べると、顔を上げ笑顔で許してくれました。
「部屋でお人形遊びしましょ!」
「ええ、喜んで」
聖女さまは勉強から解放されて早く遊びたいのか、僕の手を引っ張り屋敷へと戻りました。
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