第2話
10歳になり、今日が神学院の入学日です。
入学前は聖女さまが僕を神学院に通わせまいと暴れましたが、これをなんとか鎮め、無事入学することができました。
僕は試験の成績が1番良かったらしく、首席での入学となったようです。そのせいで式典では新入生の代表挨拶を務めることになってしまいました。この学院に通うことがシーア教の重役になるための第一段階であるのですが、一学年だけでも100人以上おり司教や枢機卿になるのはほんの一握りとなることでしょう。今の段階で僕の学年では僕が一番重役となれる可能性が高いわけですから、司教や枢機卿になりたい思っている方たちに敵視されるのではないかと気が気でありません。僕は出世には興味がなく、平和な街の神父になりたいだけなのです。そして街の住民の弱みを握り、好き放題したいだけなので、学院ではみんなと仲良くしたいのです。
敵意のような目があったら怖いので周囲を見ず教室へと向かっていると、
「クノウ君」
僕の名前が呼ばれ振り返ると、薄い青髪の少女がこちらへ手を振りながら歩いてきました。
「ティア」
ティアと呼んだ彼女は父の部下の娘で小さい頃からの幼馴染です。僕と同い年ですので彼女も入学してきたのでしょう。最近はあまり連絡を取り合っていなかったもので、彼女が入学することを知りませんでした。
「代表挨拶よかったよ。さすがクノウ君」
「ああ、ありがと。これからは一緒に頑張ろうね」
「うん」
僕とティアは同じクラスだったようで一緒に教室まで向かいます。
「良かった、一緒のクラスで。私、仲の良い子ってクノウ君しかいないから不安だったんだ」
「そうなの?勝手にティアは友人多いと思ってた」
「ううん、貴方だけだよ」
席に座りながらのティアとの会話は、先生が教室へ来るまで続きました。
今日は教室で様々な説明を受け終了し、次の日から授業が本格的に始まりました。
授業開始から数日が経ち、学生生活にも慣れてきた頃合いです。クラスの人とも上手くやれているのではないかと思います。授業内容は聞かされていた通り、ずっと勉強してきた僕には簡単なものでした。
始まったばかりの学園生活について考えていると2時限目の授業を終えるチャイムが鳴り、昼休憩の時間になりました。ティアがこちらに寄ってきて話しかけてきます。
「クノウ君、今日はどこで食べる?」
「んー、ん?」
どこで食べようか悩んでいるとまだ必死に教科書を読んでいる方がいるのに気づきました。
「ごめん、ちょっと気になることができたから今日は一緒に食べられない」
ティアに断りを入れたのですが、僕の用事に付き合ってくれるようで彼女も連れて、なんだか気になった彼に話しかけてみます。
「えっクノウ様!そっその…授業の内容にもうついていけてなくて…」
話しかけた男子生徒の話を聞くと授業初日から知らない単語が出てきたりして授業についていくことができていないようです。彼だけではなく、クラスの平民出身のほとんどがついていけていないようでした。この学院は親が聖職者の方はもちろん、信心深い貴族や平民の方たちも入学しております。平民で勉強をあまりできない環境だった方には今の授業は難しい様子で大変焦っているようです。
先生に聞こうとしても時間がないと言われ答えてくれず困っているようでした。
それならば…
「僕が教えましょうか?」
「えっいいのですか!?」
「はい困った時はお互い様ですから」
教える余裕なら今のところありますし。
この学院にいるほとんどの方はシーア教の重役になることが目標で、学院にいる全員がライバルとなります。ですので、授業に躓いている方に目を向ける人がいないのも仕方のないことでしょう。
しかし僕の目標は他の方々とは違います。
平民の方は勉強する時間が少なかったにも関わらず、入学試験を突破された方達です。今回を乗り切れば未来の司教、枢機卿になるかもしれません。その可能性があるのならば僕は存分に媚を売ります。勉強を教え、何か困ったことがあったら助けます。
「あの!私を良いでしょうか?」
「俺も」
僕と男子生徒の会話を聞いていた人達も加わり、分からなかった点を教えていきました。
あとは僕が自分達のライバルに塩を送る姿を見ている聖職者や貴族の方達が不満に思ってしまうのでフォローを欠かすことができません。僕は全員に良い格好をするのです。
これも将来のためですから。僕は将来悪さをする予定ですので未来のお偉いさまと仲良くなっておくことで、悪さがバレた場合でも減刑してもらえる可能性を上げようとしています。ですからいろんな人と繋がりを持っていこうと考えています。
神学院入学にあたって生徒達は全員寮での生活を送っています。僕は実家で今まで掃除洗濯はお手伝いさんにして貰っていたので、自分でやったことがなく苦労しています。そのことをティアに話したら自分がやると言ってくれました。流石に申し訳ないので断ったのですが、2日に1度僕の部屋へ訪ねてきて、部屋を掃除し洗濯物を持ち帰っていきます。やめるように言っているのですけど全然やめる気配がなく、僕よりも部屋を綺麗にしていきますし、シャツもシワ一つなく完璧にこなしていきます。それでもティアが疲れを感じてる様子なら強引にでもやめさせるのですが、寧ろ僕の世話を始めてから生き生きしている感じであまり強く出られない状態です。
もうこのままでいいかなぁと思い始めた頃、今日も部屋を掃除をしてくれているティア(僕も手伝おうとしたのですが邪魔だと言われ大人しくしています)に僕は何かお礼がしたいと言いました。
ティアは一瞬だけ考えてから、
「だっ、だったら今度の休日、街へ一緒に遊びたいな」
と、遠慮がちに僕を遊びに誘いました。
僕たちはまだ子供ですが、ここの街は治安が良いと聞きますので2人で出歩いても大丈夫でしょう。
「うん分かった。一緒に遊びに行こう」
「あっ、ありがと……楽しみだな」
遊びの約束を交わし終えるとティアは今までよりもやる気を出して掃除を行なっているように感じがしました。
ティアと約束をした休日になり、僕たちは学院の門の前で待ち合わせをしてから街へと向かいます。僕もティアも今日の格好はいつもと同じ制服なのですが、ティアは腰に普段していない剣を携えており凄く気になってしまっています。訳を聞いてみると、
「クノウ君に何かあってはいけないから!私が守ってあげるからね」
そんな事にはならないと思ったのですが気合いの入った彼女を見ては余計なことは言わない方がいいと思いました。
街には立派な店や露店があり、あまり自由に出歩いたことのない僕たちにとってどこに行っても目新しさを感じるものばかりです。
1時間ほどあちこち行って楽しんだあとふと気付いたのです。今回街へ遊びにきたことは家事を行ってくれるティアに対してのお礼を兼ねてなので、ティアの行きたいところを優先すべきだったということです。不覚でした。
「ティアはどこか行きたいところあった?」
申し訳なく感じながら尋ねたところ、ティアは、
「ううん、クノウ君と遊びたかっただけだから特に行きたい所はないです」
と言って、こちらを安心されるように微笑んでくれました。
その後も目についた店に寄ったりして楽しみましたが、流石にこれで終わりというのもなんですからティアにプレゼントを買って終わりたいと思います。
「あのクノウ君、こっちはあまり面白くないと思うよ?」
女性向けのお店に寄ろうとしたらティアに引き止められそうになります。
「今日はお礼のために来たからね。ティアに何かプレゼントを贈りたいんだ」
女性にプレゼントを贈るなんて僕はしたことがないためどんなものが良いのかわかりません。ですのでティアと一緒に選ぼうと思ったのですが…
「どういうのが良いかな?」
「えっと、クノウ君に全てお任せします」
「う、う〜ん」
任されてしまったので僕の一存でプレゼントが決まることになりました。
ティアを見ると薄い青髪にいつも髪飾りを付けています。うん、髪飾りを贈ろうと思います。安直な考えですが初めての経験ですので大目に見て欲しいです。ティアに似合いそうな髪飾りを探し、候補を2つに絞りました。その2つで悩みましたが、1つに絞る必要も無いなと気づき両方贈ることにします。
「いつもありがとう。これからもよろしくね」
僕は日頃の感謝の言葉とともにラッピングしてもらった髪飾りをティアに贈りました。
「うん!ありがとう。大切にするねっ!」
ティアは本当に嬉しそうで贈り物を贈って良かったです。
あと少しで夏季休暇に入る時期になりました。この時期には期末試験と、6年生の生徒会長が引退して新たな生徒会長を決める選挙が行われます。新生徒会のメンバーは3年生から5年生の生徒が務めるのがほとんどです。僕たち1年は先輩との関わりがまだ少ないため選挙に関して興味が薄く、話題は期末試験の話で持ちきりとなっています。
僕のクラスでは期末試験まで放課後、勉強会を開くことになりました。勉強会はクラスのほとんどの人が参加することとなっており、入学した当初は貴族が平民を馬鹿にしていたり、平民も貴族を目の敵にしていたりと隔たりがあったのですが、今ではまとまりのある良いクラスへなったと思います。
「クノウ様、第3教室なら使用して大丈夫そうです」
「ありがとうございます。ではそこで勉強会をしましょう」
クラスのリーダー的立ち位置になってしまっている僕はクラスメイトから色々と相談される機会が増えました。この勉強会も相談された内容の1つに期末試験が不安との相談を受けたことがきっかけで僕がクラスの人たちを誘ったものです。ですので勉強会の準備も僕がするべきだろうと思ったのです。昼休憩の時間、ティアやクラスメイトにも手伝ってもらい放課後すぐに勉強できるよう手配しました。
「クノウ様、ココなんですけど…」
「ああ、そこはですねーー」
放課後、借りた教室で勉強会が開始されました。主に小さい頃から教師を付けてもらえていた人が先生役となって余裕のない生徒に教えています。僕も教える側となり、役に立つよう頑張っています。
「ーーというわけです」
「なるほど…すごく分かり易かったです」
「すみません、こっちもお願いします!」
「私も!」
僕が受け持った生徒は3人いるのですが、3人ともどんどん質問してきますのでかなり忙しいです。期末試験は1科目70点未満の場合補習と追試があり夏季休暇が潰されてしまいます。先生の話によると毎年1年生はクラスの3分の1の生徒が70点未満を取ってしまうようです。ですから、そうならないよう皆さん必死に勉強を行なっています。勉強を見ていて今から勉強しても手遅れな生徒も若干いるのですが、まぁ頑張って欲しいですね。期末試験までの残り2週間はこのように忙しい日々を過ごしたのでした。
期末試験を終え、結果はクラスの4分の3が全科目70点以上を取ることができました。僕は今回も学年で1位を取ることができ、たくさんの人に褒めてもらえて嬉しかったです。残念ながら追試となってしまった人たちは、落ち込んでいると思っていたのですが、勉強会に参加していなかったら赤点の数がもっと多かったとのことで感謝されました。少し悔しい気持ちが残ったので、クラス全員が赤点を回避出来るように次からサポートしていきたいです。
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